表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
420/427

転:転 ≪伯仲≫

 立っているこの大地こそが月なのだから、おかしな比喩(ひゆ)にも思われるが。

 天空にあってはその姿、まさに月。


 飛行というより浮遊に近い。

 龍の皮を(かぶ)ったメディオは頭上高くにピタリと制止し、両翼を広げた格好(かっこう)のためちょうど下弦(かげん)の月に見える。

 

 地上を()けるイグナは、振り返るように敵影(てきえい)(あお)ぎ、(かぶと)のバイザーの奥で瞳孔(どうこう)をフォーカスさせて視認する。

 メディオの胸が、腹が、(ふく)らんだのを――息を吸い込んだのだ。


「敵のチャージ開始を確認。……2、1、今」


 踏み切ったイグナは前方へ大きく()びながら、宙で(おど)る身体を反転させ、背中を地面と平行にする。

 そして左手の火砲をメディオへ向け、


BLAZE(ブレイズ)


 極炎(ごくえん)を射出。


「ふ――――!」


 全く同じタイミングで、メディオも息吹(ブレス)を放つ。

 瞬間、より力を()めるための無意識か、彼は両手を(こぶし)にして(わき)()めた。

 (ともな)って白く輝く翼膜(よくまく)(たた)まれて、半月からついに新月となる。


 腹の底から(ほとばし)らせたのは濃紺(のうこん)奔流(ほんりゅう)で、それは炎でも水でも風でもない――『夜』だ。


 両者のエネルギーが激突する。

 紅蓮と漆黒(しっこく)のせめぎ合い。


「……っ」


「――!」


 炸裂(さくれつ)

 相殺(そうさい)


 上から浴びせられる形だったイグナは、地面に叩き付けられ、押し付けられ、余波で身体が跳ね上がった。

 メディオのほうも衝撃に(あお)られ、錐揉(きりも)みし、片翼をかろうじて開いて落下を回避、もう一方の翼も慌てて伸ばす。


「お、っと、っととと!」


「――被ダメージ、依然(いぜん)軽微(けいび)。与ダメージ少量」


 姿勢を整えたイグナは着地より先に、右肩の副腕を伸ばし、数メートル先の地面に突き刺した。

 これをアンカーとして身体を引っ張ることで、一歩目から全力疾走を開始、猛然と駆ける。


 目指すはバランスを(くず)して高度を下げた、メディオ。


推進(すいしん)装置、増築」


 イグナの鎧の背部(はいぶ)二基(にき)のブースターが(そな)わる。

 左腕の火砲からしていた放出を、今度はこれらで行った。

 跳躍(ちょうやく)飛翔(ひしょう)

 一息(ひといき)で半月に肉薄する。


「やっぱり、飛べるよねそりゃあ!」


 同じ目線に辿(たど)()いてきた彼女に、メディオは()みながら()(あせ)を流す。

 鼻先へ突きつけられる火砲。

 対して彼は口を開いて吸引の構えを取るが……しまったと後悔する。


 フェイントだ。

 イグナは極炎を撃たず、右腕の刃を(ひらめ)かせ、メディオの身体を袈裟(けさ)()でた。


 金属音が響く。


「……(かた)いですね」


「君は、どうかな!?」


 メディオの拳が、イグナの脇腹を強打した。


 機巧(きこう)の少女は弾き飛ばされ、しかし、ブースターと火砲の噴射で難なく鮮やかに着地。

 殴られた箇所を押さえる素振(そぶ)りも、呼吸を乱す様子もなく、平然と駆け出す。


 むしろメディオのほうが、宙で右手を振っていた。


「硬ったいねぇ……」


 (かた)や流星龍。片や新月龍。

 ともに太古の超生物を()しているのだ。その鱗で出来た互いの装甲・表皮(ひょうひ)は、生半可(なまはんか)な攻撃では貫けない。


 上手くないな、と思う……イグナが。


 決定打にはどうしても火砲が必要。

 爪や牙、翼に尾。龍は強力な武器を数多(あまた)持つが、最大の力はやはり息吹(ブレス)なのだ。


 だが、新月龍は紅蓮を吸い込み、上乗せして撃ち返してくる。

 それを()()んで、相手の息吹(ブレス)に合わせて射出したり、陽動として使ってみたりしたものの、所詮(しょせん)小手先(こてさき)の小細工にしかならず、有効とは言い難い。


「…………」


 思案しながら足は一瞬も止めなかった。

 上からの砲撃を警戒している、というのもある。

 だがそれ以上に、


「っ、」


 ぱっと横へ(のが)れた。

 地中から巨大な、ヤツメウナギのような円形の(あぎと)が飛び出し、イグナの残像を(かじ)る。

 勢いのまま屹立(きつりつ)したその巨獣は、さながら肉の塔――芋虫(いもむし)にも似た龍、ワームだ。

 目の退化したこの這龍は、モゴモゴと口内の感触を確かめ、空振(からぶ)りと知ると残念そうに身体をくねらせて、再び砂の中へ(ひそ)んでいく。


 空にはメディオの周囲を囲む黒い叢雲(むらくも)――こちらは猛禽(もうきん)サイズの鳥龍である。

 注意深く見れば、群れには二種が入り乱れ、相争(あいあらそ)っているのが分かる。一方はイグナのワスプたちだ。

 もう一方は、そして先ほどのワームは、メディオの人形。


 これもあの着ぐるみの機能か、とイグナは読んだ。

 ()たる龍を名乗るくらいだ、子孫ドローンを操作する能力くらい、持っていても不思議ではない。


 十数羽の鳥龍が、ワスプを振り切ってイグナに(せま)った。

 右腕のブレードで打ち払いつつ、疾走(しっそう)の速度は一切落とさず、彼女は極めて冷静に思考する。

 このままではジリ(ひん)だな、と。


「ふ――――!」


 メディオ・新月龍の息吹(ブレス)(そそ)いだ。


 イグナはブースターの片方を止め、噴射をあえて(かたよ)らせることで急旋回。踊るように濃紺(のうこん)を避ける。


「……火力のイニシアチブ、制空権、ともに取られたままではお話になりませんね。おまけに兵力まで、若干(じゃっかん)不利」


 ぽつりと(つぶや)き、そこで自らの(ひと)(ごと)(ぐせ)に気が付いた。

 我ながら、何をブツブツと。

 いや、無理もないかも知れない。

 思えばこれまでの戦闘は、いつも陸歩と一緒だった。どんな危機にあっても、言葉を()わす相手が必ず(そば)にいたのだ。

 それがどれほど心強いことか。イグナはいま改めて知る。


 無性に(あるじ)と話したい。

 電脳の奥から滾々(こんこん)と、伝えたいものが(あふ)れてくる気がする。

 ……ならば、勝たなければ。


仕方(しかた)ありませんね。リクホ様の許可はあらかじめ(いただ)いておりますし――もう一本、鍵を使うと(いた)しましょうか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ