表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
418/427

転:序 ≪手札≫

 準備なら入念にしてきた。

 それこそ起こり得るシチュエーションを、(およ)ぶかぎり想定し、その全てに対応するCode(コード)を用意してきたのだ。


 この点においてイグナは、自身は人間を(はる)かに(しの)ぐと、(おご)りでなく確信している。

 電脳による思考には意識の偏向(へんこう)や希望的観測がなく、妥協や甘い見積(みつ)もりとも無縁。さらにはヒトでは(のぞ)むべくもない膨大な可能性を、樹形図(じゅけいず)(じょう)に並列・分岐(ぶんき)させて演算可能。

 目を(そむ)けたくなるほど凄惨(せいさん)な不利的状況すら仮想しており、これを最大限に挽回(ばんかい)するべく、(さく)の用意がある。


 もちろん、不測の事態は(つね)に付きまとう。

 現実を現実たらしめるカオスは、模擬実験(シミュレーション)では決して再現し切れず、想定外を0にすることは絶対に出来ない。


 だからイグナの(そな)えが完全、ということはあり()ないにせよ。

 しかし新規に数百作り上げたCodeは、まさしく万全。


Self(セルフ) Order(オーダー) , Code(コード) : lycanthrope(ライカンスロープ)


 赤髪の乙女の身長、手足が延長し、真っ黒な獣毛に(おお)われた。

 鼻と口元が前方へ突き出して、乱杭歯(らんぐいば)(そろ)う。


「Grrrrrr……」


 一秒後、その姿は、屈強な人狼(じんろう)へと(へん)じている。


 卓越(たくえつ)した嗅覚を()らした。

 真っ白く立ち込めた煙幕(えんまく)の中、まぎれた敵の存在を、感知。


「Grrrraaa!」


 鋭い爪牙(そうが)(おそ)()かる。


「――――」


 が、さっと上空へ逃れる敵。

 視界の(ふさ)がれていた間にあちらもまた変身していて、あの上半身は、コウモリだ。

 広げた両腕は翼と化し、大きな耳の付いた顔は犬に似る。

 今、口を開けた。


「――――ッァ!」


 放たれる、超音波(ちょうおんぱ)

 衝撃で空気が悲鳴を上げ、大地の砂に波紋(はもん)が立ち、浴びせかけられたイグナは首を(すく)めて膝が折れかける。


 しかし。

 音響攻撃にはイグナもまた、一家言(いっかげん)を持っているのだ。


Self(セルフ) Order(オーダー) , Code(コード) : banshee(バンシー)


 人狼がその場にうずくまって身体を丸め、黒の一塊(ひとかたまり)となった。

 と、次に立ち上がったときには、毛皮のフードを(かぶ)った黒髪の少女である。

 上空へ向かって、こちらも開口し、


「――――ァッ」


 逆位相(ぎゃくいそう)の音波を撃つ。

 互いの響撃が打ち消し合い、周囲は(つか)()静寂(せいじゃく)


 イグナはさらに肩部(けんぶ)に、スピーカーを構築した。

 頭より高い柱型の二基(にき)がフードを押し上げ、彼女と同様に咆哮(ほうこう)する。


 その音量たるや。拮抗(きっこう)を押し切るに十分だ。


「っ、うぉ、」


 コウモリ男は宙でバランスを(くず)してよろめき、(こら)()れずに墜落(ついらく)していく。


 この機を(のが)す手はない。

 イグナはフードを脱ぎ捨て――毛皮は途端(とたん)に黒い砂となって彼女に追従し――右の(そで)からEブレードを伸ばして、肉薄した。


「いっつつ……」


 地べたに尻餅(しりもち)をつき、こちらもまたコウモリを脱いだメディオが、顔をしかめて(こし)(さす)っている。

 両目はかつて家庭内の不和(ふわ)から潰してあり、だから刃を持って迫る少女が見えていないのか。

 Eブレードが、()()げられても、まだのほほんと。


「や、強いねぇイグナちゃん」


「お覚悟を」


「そんな、もうちょっとしようよ」


 メディオの白衣の、襟首(えりくび)が持ち上がった。

 まるで二人羽織(ににんばおり)のように、彼の背中に(ひそ)んでいた人形が上半身を現し、振り下ろされた電光熱(でんこうねつ)の刃を受け止める。


「手札の見せ合いっこを、さ」


「……っ」


 さしものイグナも、顔をしかめた。

 背中の人形……さっきはコウモリ型でメディオに被さることで飛行能力を付与(ふよ)したのに、今度のは胴ほど太い腕と仁王(におう)の表情をした超人(ハーキュリーズ)タイプ。

 彼は、バックパックを装備している様子もない。まさか背中に(くぼ)みを作っているわけでもあるまい。

 なのに、身体と白衣の薄い隙間(すきま)にどうやって、どれほどの、人形を仕込(しこ)んでいるのか。


 周囲の地面から、数機の人形が飛び出す。

 のっぺらぼうで骸骨(がいこつ)のように細いそれらは、しかし意外にも強い力でイグナに(つか)みかかった。


「くっ、」


 彼女が振り払おうとした瞬間、

 メディオが仁王人形を被り、その腕に自らの手を通し、


「そぉれ」


「――――っ!」


 イグナの腹部を、殴りつける。


 ()(ごえ)呑気(のんき)さに全く釣り合わない剛力(ごうりき)よ。

 少女は十数メートル吹き飛び、身体で地面に(わだち)を刻んで、ようやく止まった。


「く……」


 ただちに飛び起きようとして……身体が(きし)んで上手く動かない。

 (あえ)いだ。

 損傷は、深刻ではないものの、機能を戦闘レベルに復旧させるには数十秒は必要だ。


 仁王を背中にしまったメディオは、やはりのんびりと、明らかに追撃ではない足取りでやってくる。

 そして、必死に歯を食いしばって小鹿(こじか)のように立ち上がるイグナの前で、くるりと回って見せた。


「ねぇどうかな? どう? ちゃんと()(たた)めてる? 外から見て分かんない?

 ――着る形式の多目的人形さ。君や、ユーリーのクランシュを参考に開発したんだよ」


「光栄……とでも、申し上げれば、よろしいので?」


「いやぁ。君たちのような知能を持たせるところまでは、まだ全然届いてなくってね。

 木偶(でく)とでも笑ってくれ」


 今度はその背から、甲冑(かっちゅう)の騎士が顔を出した。

 剣と楯を(たずさ)えたそれは、まだメディオに被さらず、守護霊のよう。


 表情を(しぶ)くするイグナ。

 新しい形態だ、あの騎士も。

 メディオが披露(ひろう)した着る多目的人形とやらは、ここまでいちいちデザインと能力が異なり、その数は二十か、三十か。


 全く底が知れない。

 まさか……と思わずにはいられない。この天才は、自分が万全に用意してきたCode(コード)数百と同数を、人の身で準備してきて(まと)っているのでは。

 あるいは、さらに上回る数を、ということもあり得る……?


「イグナちゃんは、ないの? こういう騎士(ナイト)モードは。それとも、もう品切れ?」


「……。安い挑発です」


 背筋を伸ばしたイグナは、自身の口元を手の甲で乱暴に(ぬぐ)う。

 ダメージはあらかた回復した。

 赤い眼光で、メディオを射抜(いぬ)き、


「しかし、あえて乗りましょう。メディオエディオ・ダラディエ。

 ……ところで、アイネさんは」


「夕飯を作って、家で待ってるよ」


左様(さよう)ですか。

 ――貴方(あなた)最期(さいご)は、こちらで伝えておきますので、ご安心を」


 お返しの挑発、ではない。

 本心でイグナは言っていて、だからこそメディオも口角を上げた。


「いよいよ切り札登場?」


「そちらもジャックでなく、エースを出すべきかと。

 いえ、待ちませんけれどね。

 ――Self(セルフ) Order(オーダー) , Code(コード) : Demi(デミ)-God(ゴッド)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ