表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
413/427

起:結 ≪相手≫

「――ぷは、っ!」


 影から解放されるのは、底なし沼を()()るのに似た心地がする。

 キアシアは絨毯(じゅうたん)に手を突いて、荒い呼吸を何度か()(かえ)した。

 ……絨毯。


 はっと背後を(あお)()た。

 中腰のオルトが「大丈夫?」と手を差し伸べているが。

 払いのけて飛び起き、流れる動作でホルスターの拳銃を抜いて、彼に向ける。


「オルトっ、ここ、どこ!?」


 撃鉄(げきてつ)を起こす。

 思い出すのはかつて彼に(さら)われ、闇の牢獄(ろうごく)(とら)われた数日間だ。

 肩を(すく)めるオルトを視界に(おさ)め続けるようにしながら、キアシアはさっと周囲の様子を(うかが)った。


 一見して、談話室、という印象を受ける。

 (おだ)やかな木造の部屋に、アンティーク調のテーブルとソファーが並び、暖炉(だんろ)では静かに火が燃えていた。

 菓子の匂い、紅茶の匂い、煙草(たばこ)の匂い……(かす)かなそれを、キアシアは()()る。

 少なくとも影を材料に(つく)られた空間とは思えない。


「オルトっ、ここはっ、」


「心配しなくても月の上だし、さっきの場所からすぐ(そば)だよ。魔女様のお城さ」


 爆発音が聞こえた。

 ついキアシアがそちらへ目をやれば、バルコニー、そのさらに向こう、白く平坦(へいたん)な大地に上がった炎が垣間見(かいまみ)える。

 バルコニー。誰かが、手すりに寄りかかって身を乗り出し、景色を(なが)めていて……。

 誰か。豪奢(ごうしゃ)なドレスを着た、その背中。


「お、姉ちゃん、」


「あぁキア。あなたもこっち来て御覧(ごらん)なさいよ。

 あの人たちってホント派手(はで)よね。見応(みごた)えあるわ」


 ()(かえ)ったゼアニアはにっこりと微笑(ほほえ)み、手にしたオペラグラスを差し出してみせた。


「お姉ちゃん……」


 いつぶりにか再開した姉に、キアシアは――拳銃をもう一丁抜く。

 一方はオルト、一方はゼアニアに照準を合わせ、態度をことさら逆立てた。


「言っておくけどねっ、あたしを人質にしたつもりなら、」


「そんなんじゃないわよ。ただ妹とお茶がしたかったから呼んだの。

 ――オルト、ここからは姉妹で水入らずにしてちょうだい」


「はいはい」


 お礼もお願いもなしか、とぼやきながらもオルトは、自らの影へと(しず)()んで消える。去ったことをアピールするためか、気配もあからさまにこの場からなくなった。


 後には妹と、姉。


「…………」


「ねぇキア、それ()ろしたら? 落ち着かないでしょう。

 っていうか、お姉ちゃんが落ち着かないんですけど」


 などと言いつつゼアニアは、銃口をほとんど気にも()めていないようで、軽い足取りで部屋に戻ってくる。

 どころか両腕を抱擁(ほうよう)の形に広げて、妹の目前まで。

 むしろ凶器を突き付けているキアシアのほうが、半歩(はんぽ)後退(あとずさ)る始末である。


「う、動かないでお姉ちゃん!」


「キア」


()つよっ。

 ……撃てるよ、あたしは……撃つ準備をしてきたよ。

 前に、お姉ちゃんに、言われた通りに!」


「…………?」


 何の話か、とゼアニアは首をかしげた。


 全く。キアシアは口内(こうない)が苦い。この姉は、これだから嫌なんだ。

 何もかもが無責任。彼女の言葉を真剣に受け止めた、こっちが馬鹿みたいじゃないか。

 拳銃の片方をホルスターに戻し、残った一丁を両手で支え、ゼアニアの額をピタリと狙う。

 感情のままに()えた。

 

「次に会ったとき、そこがあたしたちの戦場なんでしょ!

 お姉ちゃん言ったじゃない! 言ったんだよ!」


「あー……。あぁ、えっと、そう?」


 やはり思い出した素振(そぶ)りもない。

 しかしさすがにバツは悪いのか、ゼアニアは妹の剣幕に、(ほほ)()いて。


「でも、じゃあそれはさ、この次にしない?

 今回は≪神魔の目隠組マギマガ・シャドーアイズ≫の出番で、アタシは参加できないのよね。

 ほらアタシの眼帯(がんたい)、片目だけだから。準メンバーだから。

 ね。今日のとこはお茶にしよ」


「…………っ。

 そういうわけには、いかない。みんな命懸(いのちが)けで戦ってる!

 あたしも戦う! お姉ちゃんはもう敵なんだから!」


「えー。お姉ちゃんが頼んでも、ダメ?」


 言って、上目遣(うわめづか)いで、自身の(くちびる)に右手の指先で触れるゼアニア。

 そのいかにも男向けのあざとい仕草(しぐさ)に、キアシアはカッとし……あえてその熱に乗ることで、引き金を、引いた。


「さよなら、お姉ちゃん――」


「――――」


 発砲。

 (くろがね)の弾丸が、(あやま)たずゼアニアの額に命中する。


 大きく()()った彼女は、


「か、」


 ……だが、倒れることはなく。

 背筋(せすじ)の力で、姿勢を戻すではないか。


 キアシアの絶句(ぜっく)も当然。


「なっ」


「いつつ……。

 どう、気は済んだ?」


 姉の頭部に穿(うが)たれた銃創(じゅうそう)

 そこから(こぼ)れるのは、血でも脳漿(のうしょう)でもなく……目玉だ。

 泡のようにボコボコと、無数の魔眼が()れ、かと思えば傷口へと戻っていく。


 ゼアニアが(てのひら)(ぬぐ)(ころ)には、完全に元通り、(あと)すらなかった。


「お姉ちゃ……っ、それ……っ」


「もう一発撃つ? もういい?

 なら、お茶にしましょ。

 お菓子も茶葉も、キアのために奮発(ふんぱつ)しちゃったんだから」


>>>>>>


 戦闘は激しく入り乱れる。


 魔女が左手の(いばら)から、幾つもの鍵を(まと)った鎖を伸ばし、(むち)のように打ち振るう。


 これを剣と左の篭手(こて)(はじ)いているのは、アインだ。


 羅刹(らせつ)にかかりきりの魔女を、横からイグナの拳が襲う。

 (ひじ)に増設したブースターで威力を高めた、文字通りの鉄拳。


 メディオの白衣の(そで)から、彼のものではない腕が伸びた。どこに隠していたのか、おびただしい数の関節を持った、数メートルはあろう人形の腕だ。

 その手が魔女の腰を(つか)み、ぐいと抱き寄せる――イグナのパンチが空を切る。


 赤髪の乙女の(たい)が泳いだ(すき)を狙って、和装の男が相変(あいか)わらず三味線(しゃみせん)爪弾(つまび)いたまま、蹴りを放った。


 が、これをアインの魔剣の腹が受け止める。


 交錯(こうさく)した二者の肩を踏み、陸歩が()んで、鈴剣から紅蓮を(ほとばし)らせて、魔女とメディオへと浴びせかける。


「お、りゃあぁっ!」


「――。――、――」


 詠唱は魔女のもの。

 襲い来る炎が赤い毒蛇(どくへび)の群れとなり、共食(ともぐ)いを始める。

 (またた)()に一匹のみに。生き残りは、巨大な蛇蠱(じゃこ)となり果て、鎌首(かまくび)をもたげ、


 それを、イグナの剛腕に放られてきたアインが、一刀両断。


 陸歩は咄嗟(とっさ)に振り返り、和装の男の(ばち)鍔迫(つばぜ)()いになった。


「くっ」


「おぉ、ジュンナイリクホ、(うわさ)(たが)わぬ良い腕だ」


「そりゃ、どうも!」


『――リクホ様。アイン。』


 (ささや)きが聞こえる。イグナの声。

 ()の形で耳に取り付いたワスプによるメッセージだった。


 切迫した戦いの最中、彼女は早口に伝えてくる。


『敵のうち二人は魔法使いに人形師。

 3対3では手品をさせる(すき)が多くなり、こちらに不利かと。

 1対1を三つ作りましょう』


「んなぁら俺はぁっ!」


 喜色満面(きしょくまんめん)(さけ)んだアインは、正面の魔女に迷わず()()んでいく。


 振るわれる鎖の鞭。

 これを受け止めた羅刹(らせつ)は、重量操作剣技。

 ただし自らの体重を限りなく減らす目的で(もち)い、羽のように軽くなると、鞭に(じょう)じて飛んだ。


 そして力比べする陸歩と和装の(かたわ)らに着地すると。

 そのまま両者の間をめがけて、剣を振り下ろすではないか。


「そぉらよぉっ!」


「んなっ!」

「おっと」


「オキタぁ! 付き合えよぉ!」


()()みやがって、しょうのない野郎だ」


 アインの打ち込む一閃(いっせん)

 これを、オキタと呼ばれた男は三味線で受け止め、だが(こら)()れず……あえて堪えず、彼方(かなた)まで押し飛ばされた。

 羅刹も追いかけて、乱戦から離脱する。


 続いてイグナが、メディオに目で(うった)えた。

 相手方(あいてがた)も意図を(さっ)しているようで、微笑むと散歩の調子でその場から離れる。

 イグナは主人に(うなず)いてから、その後に続いた。


 残るは、魔女と陸歩。


「んふっ、二人っきりねぇ。

 ねぇ、リクホくんもぉ、ドキドキ……してる?」


「あぁ、あんたを()千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスだからな。さすがに心臓がうるさいよ」


「やん、あたしで興奮してくれてるのぉ? 嬉しい。

 じゃあ――しっぽり、やりましょう、かっ!」


「――しぁっ!」


 魔女が飛び込み、陸歩も踏み込む。

 互いが互いの死線へと。躊躇(ちゅうちょ)なく。


 鋼が(まじ)わり火花が散った。

 鋼が(こす)り……鮮血が、散った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ