結 ≪取材≫
――今回、ご自身の研究によって考古学的大発見がなされたわけですが、率直なご感想は?
「実感がないというのが正直なところです。
自分が成し遂げたこととも思えません。
なにしろボクは装置を貸しただけで、実際に見つけたのも発掘したのも、協力者の彼らなのですから」
――それでも、博士の発明あってのことだと思いますが。
「彼らもそう言って、発掘品の九分九厘を置いていってしまいましたよ。一番の功労者なのに……。
この成果の立役者は間違いなく彼らです。彼ら無くしてはありえません。
件の装置というのが、ほらそれで。まだ試作段階で、御覧の通り大きすぎて重すぎまして、常人ではまだとても運用できないんです。並外れた力持ちでもなくっちゃね。
ボク自身、実地でのテストが出来ずに足踏みをしていた状態で」
――ご友人にも恵まれたというわけですね。
「お礼が言い足りません。おかげでボクの研究は次のステップに大きく進みます。
そして、このガラム・カインという街にも感謝を。ここにそもそも居させてもらっていなければ、訪ねてきた彼らと巡り合うこともなかった」
――博士はガラム・カイン入牢を、例の『万物振動論』で認められたそうですが、その着想はどこから得たのでしょう?
「両親が熱心な流転神の信徒でして。ボクも幼少の頃からその教義に触れる機会が多かった。
流転神は博愛を主義とし、『命はみな平等に価値がある』と説きますが、ルーツはそこです」
――なるほど、宗教観が根幹にあるのですね。
「いえ実は、ボク自身はあまり敬虔とは言えなくて……。
確かに出発は流転神の教えですが……天邪鬼な性分で、そこからヒトの個体差に興味を持ったんです。
平等というのに、なぜ皆これほど形質が違うのか?
それに現実的には、とても誰もが平等とは言い難いように思われて。
だから人種や性別や体格、知能、魔力量、容姿、社会的地位など、様々な分野で『人の違い』を調べました」
――そしてそこに、ある共通の値を見出された。
「えぇ。あとは分類学の教授に助言をもらいながら、論文にまとめたんです。
そこまでがボクの人生の半分で、そこからあの装置に結実するまでがもう半分。
けど今ここも、目指すところのまた半分がいいところで、まだまだ研究はこれからですよ」
――今後の課題はどの辺りとお考えですか?
「そうですね。とにもかくにも、装置の小型化からでしょう。
あれの理屈がおおむね正しいことは証明してもらえましたから、あとは機能をそのまま凝縮し、持って歩けるようにしたい。
もっと多くのものを探知して、研究を深めて調整すれば、精度はぐんと上がるとはずですから」
――博士の発明は様々な可能性を秘めているでしょうが、ご自身ではどのように役立つことを望まれます?
「地質調査や、埋蔵資源の探索に用いることが出来るのではと思いますね。出資の申し出をくれた方々もそれを期待しているでしょう。
もっと一般的には、玄関先に取り付ければ、来客の接近を感知できるんじゃないかな。
あとは最近、雪崩で村が埋もれてしまったニュースがあった。胸が痛む。ああいった人命救助の場面でも、一助になれれば」
――素晴らしいお考えです。ぜひ頑張ってください。
「ありがとうございます」
――流星龍の全身骨格を発見した探魂機、その開発者ハルディエス博士のインタビューでした。
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「――もったいねぇなぁ」
リビングのソファーで、アインは摘まんだ新聞をひらひらと振り回す。
その一面の記事には挿絵があって、博士とモノリスが並び、その背後には発掘された龍の化石。
「あーぁ、もったいねぇ」
「うるさいなぁ。いいんだよ、それはそれで」
テーブルに着いた陸歩は、手元に勤しみながら答える。
目の前に並べているのもやはり骨――新聞に載っている流星龍の、翼のごく一部だ。
数個だけもらったそれらを彼は今、一つ一つ丁寧に磨いていた。
そこには深い愛情がある。
誇張抜きで骨が可愛い。可愛くて仕方がない。
探魂機の反応から、ひたすら掘ったのだ。
数十メートル単位で、甲斐があるかも半信半疑、周囲の揶揄にも晒され、それでも信じて掘ったのだ。
豪腕と、イグナのEブレードを転用したEツルハシにものを言わせ、掘ったのだ。
数日をかけて……実際に出土したときの感動といったら、もう。
にしても、出てきたブツがセンセーショナルに過ぎた。
とても自分たちだけで、せしめるわけにはいかない代物。
それを発掘するに至ったのは全て博士の装置のおかげだ。
化石は必要とする分だけを譲り受け、あとは渡すのが筋というものだろう。
伝説の存在でしかほぼなかった龍の、しかも全身骨格だから価値は推して知るべしで、惜しむアインの意見も分からないでもないが。
ああして新聞やら雑誌やらの取材責めを食らうのも面倒であるし。
だがアインが言いたいのは、骨の取り分ではなく、
「手柄まで全部、博士とやらにやることなかったんじゃねぇの? こんだけ注目される機会をむざむざよ。
お前の羽を見せびらかして『信者募集!』って言えや、入信者続出で神様もさぞ喜んだろうに」
……なるほど、確かに。
が、
「そんな雑な宣伝で人心が集まるもんかよ。
――とにかく、必要なものは手に入れた」
「ついに討ち入りか」
羅刹が嗤う。
そう、その時は近い。
あとは腕のいい造形師に依頼して、龍骨を鍵に仕立ててもらえばいいし、その心当たりはすでにある。
獰猛に喉を鳴らしたアインは、おもむろに、ソファーから立ち上がった。
「ジンゼン行ってくる。剣の手入れだ」
「は? また?
ってか今からか? 晩飯は――」
「残しといてくれ。
……このままじゃ、高ぶって落ち着かねぇのよ。せめて戦に備えて、紛らわさねぇと。
それともリクホ、相手してくれっか?」
「さっさと行ってこい」
まったく、度し難いほどの戦闘狂だ。
今日は祝いのご馳走なのに、それも放って刀を研ぎにいくなんて。
「…………」
もうすぐ、那由多と。
そう思うと陸歩の腹の底にも、渦巻くものは、同じようにあるにしても。
キッチンからは良い匂いがし始め、キアシアとイグナの鼻唄が聞こえる。
今日は上首尾につき、みんな上機嫌だ。
気付けばテーブル上にはシルヴィがいて、化石をしきりに嗅いでいた。
犬じゃないから齧るようなことはないだろうが、念のため頭を撫でて窘めてから、陸歩も腰を上げる。
食器を並べて料理を運ぶくらいは手伝わなくては、きっと罰が当たるから。




