転 ≪探知≫
「――つまり万物は、この世に存在するだけで、常に振動しているんだ。
もちろん手で触れて分かるほどの揺れではないよ。ごく小さくね。
生きていようが死んでいようが関係ない。生物だろうが器物だろうが例外ない。
世界に存在するということは、ある空間を占めるってことだろう。
虚無でない場所にボクたち実体が存在するには、本来そこを満たしているはずの『空間』を押しのけているわけ。
すると押しのけられた空間は、当然なくなることはなく、元の位置に戻ろうとボクらにのしかかってくる。
振動の原因は多分、この圧力なんだ。
水に物体が入った場合は、『押しのける力』は入ったモノの『大きさ』によるのは、感覚的に分かるよね。
空間に入る場合には、これは『存在』というか、『何者であるか』に応じることになるんじゃないかと、ボクは睨んで研究している。
要するに、ヒト一人ならどんな年齢・種族・性別・体格の人でも空間を占める量は同じなのさ。これはボクらが誰しも等しく、同じ神の被造物だから。
伴って振動の仕方も、ヒトであればみんな同じ。
ここまでが話の枕。
万物は各々、特定のパターンで震えてる。
龍なら龍のパターンでね。
800年経った骸だって、土中にあったって、それは変わらないさ。
その振動を探せば、化石は見つかるはず。
そこでこれ。この装置。
これはボクが開発したもので、ここに結晶があるでしょう。これが共振体の役割を果たして、こっちのセンサーが目当ての振動を感知すると、結晶も震えてランプが光るって仕組みなの。
龍のサンプルがあれば……あぁ化石が一個でもあるんならバッチリさ……それを元に揺れ方を記録して、まだ埋まってるやつも探せるよ――」
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説明書をキアシアに広げてもらっていれば、陸歩は組み立てるのにほとんど苦もない。
昔取った杵柄というやつか。こういう工作は好きだ。
カラクリと魔具のハイブリッドというこの怪しげな機械も、仕組みとパーツの連関を意識すれば、実に合理的に出来ている。
ちょっと難しいプラモデル程度の感覚。
ただし大きさが大きさなので、なかなか手間ではある。
「……うし。
えっと、次は。12-1に12-2~7をはめ込んで、を6つ作って……」
「手伝う?」
「んー、んにゃ。大丈夫。逆に分かんなくなりそうだから」
エイルレイドメントの発掘現場で、広げたシートに部品を番号順にずらりと並べ、大掛かりな装置を組み上げていく様子は……周囲にはさぞ異様に映ることだろう。
通りがかる誰もが怪訝な顔をするし、立ち見もいるし、訊ねてくる者も少なくない。
「なぁ、それってなに作ってるの? 重機かい?」
「探知機ですよ、化石の」
「…………」
答えれば、相手の表情はだいたい同じ、一様に生温い。
言いたいことは分からないでもない。そんなものがあれば誰も苦労しないだろうよ、と。
事前に理屈の説明を受けた陸歩でさえ、まだ若干疑っているところはあるのだから。
だがこれは、『知の殿堂』『賢者の監獄』とあだ名される街ガラム・カインに意見を求め、鬼才と呼ばれる博士から借り受けた代物だ。
とにかく試してみないことには。
にしても、大きさがネック。
ガラム・カインで完成していたものを、わざわざバラし、持ち込んだ現地で組み直す羽目になっているのはサイズが原因で、そのままでは扉の樹を通れなかったのだ。
部品の点数も相当なものだったので、数往復が要った。
返却時には再度分解しなければいけないかと思うと……もう今から面倒くさい。
エイルレイドメントからは毎日夜には退去しなくてはならないし、装置は化石が見つかるまでは野晒しを覚悟で発掘場に置かせてもらうことになるが、いっそイグナに機能を解析・模倣・Code化してもらえばよかったか。
結局、朝から取り掛かって昼過ぎまでかかった。
「……よぉし。
あーぁ……っ! 出来たぁ!」
「お疲れさま」
キアシアが労い、お茶を注いだカップを差し出す。
周囲からもまばらな拍手……もっとも、こちらには明らかに、からかう調子も含まれているが。
喉を潤した陸歩はさっそく、肝心の装置を背負う。
貸してくれた博士が「実用化の参考にするから使用感をフィードバックしてくれ」などと言っていたけれど。
「ふんっ、ぬ……!」
くどいようだが……大きい。モノリス型に収まっているのはいいが、陸歩の身長の1.5倍は優にある。
のみならず重さは、中身をパンパンに詰めた箪笥二棹といったところか。
「リクホ、大丈夫っ?」
「まぁ……オレとかアインなら大丈夫だろうけど……。
実用っていうなら絶対、軽量化は必須だろこれ」
探知機の本体からは、ケーブルに繋がって、右手用の篭手がぶら下がっている。
これに陸歩は手を通し、数回握って具合を確かめると、掌を地面に向けた。
わずかにワームの歯が出たばかりの、陸歩たちがレンタルした一帯。
「……あ。キアこれ、オレからだとランプ見えない」
なにしろ点灯位置は、陸歩のちょうど頭上だ。
「重大な欠陥だろこの構造!」
「光ってるわよ。……ボヤーっとだけど」
「えー。じゃあ望み薄かぁ?」
目立って仕方ないが、このままの格好で谷をもう少し上がり、空き地を調べていく。
中には「ここ見てくれよ」と声をかけてくる連中もいるが、好奇心ならともかく、あからさまな嘲りの奴は適当にあしらって。
そうして、とうとう、
「――ぅひ!」
「キア!?」
突然キアシアが顔を背け、腕で庇うではないか。
のみならず、辺りに三々五々いる人たちも、同じポーズで呻く。
「リクホ、光ってる光ってる! まぶしっ、ちょっと、止めて!」
「お、おう!」
慌てて右手を拳にしてセンサーを隠した。
「マジか。ここ?」
あからさまに際立った反応。
一見してゴツゴツしただけの岩肌の大地に……さて、何が眠っているのか。
「よっしゃ、そんじゃさっそく!
……申請書、書くか」




