家について
ついに買ってしまった。
マイホームだ。
しかも戸建て、庭付き。
いやぁ……元の世界に帰れば、オレは大学入学を控えたガキだぜ?
目の前の家を購入したってのは……ちっともピンと来ない。
ここに辿り着くまで紆余曲折が結構あった。
まずどこの街にするかってのが最大の問題。
ギリギリまで迷ったんだよ。
たくさん相談もした。
師匠はトレミダムにすればいいって言ってくれたし、妹姫様はレドラムダのどの街でも一等地を用意しようと申し出てくれたし。
けど仲間内で再三行われた審議の結果――ゼポに心を決めた。
北渡しのゼポ。
カシュカ大陸北端の港街。
物件探しに訪れると、以前にオレたちが立ち寄ったとき教えておいた浴衣とチャーシュー麺がまぁまぁ根付いてた。
それで印象がよかったから、じゃあ家もってわけじゃないけどね。
理由としてはまず安さ。
ゼポは若い街で、扉の樹もまだ小さい。
だからこそ新規の住民を広く募っていて、土地も家も相場のざっくり半値くらい。
破格だろ。
オレたちには何人かのパトロンが付いて、一財産が提供されているとはいえ、安いならそれに越したことはない。
しかも大型輸送船がひんぱんに行き交い、物流の要所になりつつある。
他大陸の文化も盛んに流入して、今後も大いに栄えそうだ。
イグナはこの点に目を付けて、ゼポを強く推していた。
曰く、「土地を持っておけば値上がりする可能性が大なので、他所に引っ越したくなっても損が少ない。どころかゆくゆくはプラスになるかも」とのこと。
治安もいいな。
ゼポの街主様は千里眼を備え、自ら警察機関の長を務めていらっしゃる。
その双眸には人の心根も明らかであるらしく、そもそも悪人は住まわせないようにしているみたい。
出身が海なし県のオレとしては、海の傍の家ってどうなのかな、という懸念はあった。
けれども、往生するほどの問題は差し当たってない。
潮風ってそんなにきつくないんだね。これはカシュカ大陸の気候のおかげでもあるのかな。
さらにこの世界では、地震も津波も滅多に起こらない。それらは落雷と同じく天罰で、神の怒りに触れなければ、そうそうあるものじゃないんだって。
オレたちの買った一軒家、そのご近所にも続々と住宅が出来つつある。
ゼポの方針で、まずとにかく戸数を揃えてるんだそうだ。
大丈夫なのか……? 全部売れればいいけど、もしこけたら破産だろうに……。まぁその辺も、街主様の慧眼が光ってるのかもしれない。
だから不動産屋に行くと、契約さえすれば今日から住める家が、選り取り見取り。
建築士に図面から引いてもらって新築ってのも、一考したんだけどね。
何しろ、これから建ててもらうんじゃ時間がかかるから。
数ヶ月から一年待つことになるくらいだったら、もう出来てるのを購入してしまったほうが面倒が少ない。
幸い、気に入ったのもあったし。
そうして手に入れた住まいは、三階建て。
これからはここを拠点に旅をする。
……本当だろうな。我ながらちゃんと帰ってくるかな。どうだろ。
高い買い物だったから、持て余したらと思うと、さすがにぞっとしない。
物置にしてしまうのは、さすがに勿体ないよな。
まだ何もない真っ新な状態だけど、とりあえず四人の私室は決めた。
基本的にここはそれぞれが好きに整えて、お互いにノータッチの約束。
ベッドも椅子も机も、それこそカーテンすらないからなぁ。じっくりやらなきゃ。
とりあえず全員、ハンモックを吊って急場をしのいでいる状態。……案外、具合がいい、オレこれでいいかも?
キッチンはキアシアに主導してもらう。
ピカピカのシンクとコンロに彼女、歓喜。
庭も菜園にしようかと計画中。
家中にイグナが防衛システムを張り巡らせている。
もし留守中に侵入者があれば悪辣なトラップが容赦なく作動する仕組み。
冗談で言ってみた落とし穴、実装されちゃって……床がパカって開くギミック……。
識別はこの家の鍵を持ってるかどうかとのことなので、絶対に紛失できないな。
トイレは魔具を用いた水洗式。
オレやイグナは排泄をしない身体だけど、トイレは各階に一つずつあって、だから一階は客用、二階はキアシア、三階はアインのと決まった。
専用とは俺も出世したもんだぜ、とはアインの談。
必要ないかもしれないけど、内装屋に改造を頼んだ。
ドアに全部、猫用の扉が欲しくって。
シルヴィは、気が付けば一番日の当たるところにいて、丸くなって寛いでいる。
この家を気に入ってもらえたかな?
一応、彼女のベッドはオレの部屋に置いてあるけど。誰かの毛布に潜り込むほうが好きらしく、寝床に使用の形跡は未だなし。
それにしても、とにかく買い物が忙しい。
家具やら食器やら。
ものが揃わなきゃ不便でちっとも快適じゃないし、家を買った甲斐もないから、しょうがないんだけど。
扉の樹と鍵を駆使して、色んな街へ飛び、見比べて品定め。気に入れば購入、あるいは注文。
朝から晩まで……クッタクタだぜ……。
でも、イグナもキアシアも楽しそう。
これまでは旅先で気の利いたインテリアに出会っても、どうしようもなかったからな。
抑えていたものが存分に発散されてるんだと思う。
彼女たちがツヤツヤしながらはしゃいでるのを見れば、荷物持ちも苦じゃないですとも。
……あー。
やっぱ、ちょっと手加減、お願いします。




