連絡手段について
オレらの世代だと、電話やメールは当たり前。
スクールだってオンラインセッションだ。
実際に顔を突き合わせたことがある相手より、ネット上の知り合いのほうが圧倒的に多い。クラスメートでも――小中高の全部を合わせたとしても――リアルの友達はヨジローとシズだけだったしな。
会話するのに、もはや距離なんて何の障害でない……ってか意識したこともなかった、そんなの。
けれどもこっちの世界では、バーチャルなコミュニケーションは、非常に限られている。
誰かと知り合うなら膝を交えるほかない。
友達になるなら間近で時間を共有しなきゃ。
人と人とのつながりは、ここじゃ実体を伴った生身のものだ。
とはいえ、対面以外でやりとりする手段もあるっちゃあるので、今回はそれにまつわる四方山話。
まず一番最初に思いつくのは、手紙。
電子手紙じゃないぜ。本当に紙に書くやつ。
ハガキとか封筒とか、オレはこっちに来てから初めて使った。
認めるのは未だに苦手だな……何しろ、ペンや鉛筆で書くから、間違えても気軽に消せないんだもの。ワンクリックで白紙に戻せるのはコンピュータの圧倒的な強みだ。
でも、実際に指に触れる紙の滑らかさやザラつき、薄さ。
微かに感じる紙面やインクの香り。
筆圧や筆跡のリアリティ。
なるほどねぇ。ディスプレイでは完全には再現できない、豊かさがそこにはある。
送るほうはドキドキワクワクするし、貰ったりしたら格別だ。
ところで、書いた手紙をどうやって届けるのかっていうと。
この世界では郵便局ってやつが、オレらのとこよりずっと活発に動いているんだ。
そこそこ大きい街なら、赤茶の建物がまず見つかる。
手紙に『どこ大陸どこ街の誰さん宛て』を書いて、自分の街の郵便局へ提出。
すると局員が、先方の街の郵便局まで配達してくれる。
後は向こうの局員が引き継いで、届け先の元へって具合。
七面倒くさい手順ではあるものの、扉の樹のおかげで、イメージほど時間はかからない。
そりゃまぁ、送信ボタンぽちっ、よりは待たなきゃいけないけどね。
そういえば、ポストってのはないみたい。
ちょっと残念。実物を見てみたかった。
ちなみにこの郵便事業は、交流神の教会によって運営されている。
つまり立派な宗教活動なわけ。人と人の言葉と想いを繋ぐのが、彼らの修道なんだとか。
局員は僧侶。消印のデザインは聖印だ。
交流神教会は、かの通信販売会社ナルメルク商会に次ぐほどの数の鍵を保有していて、これによって独自に強固なルートを築いてる。
まーでも逆に、宗教だからこそ、郵便局を受け入れない街もあるとか。
今どきそこまで頑なに一神教を守ってるとこもそうはないけどね。
さて、そんな手紙にも連絡手段として、致命的な欠陥がある。
送る相手が定住している奴ならいいんだけど……根無し草の旅人だとだいぶ困る。
いやまぁ、この場合オレたちがその根無し草だから、師匠とかおやっさんとか女帝様とかに迷惑をかけてる側なんだけど。
一応、郵便局には受取箱、ってサービスがある。
どこか特定の街――鍵を持ってるとこ――で年間契約しておいて、知人友人にここへ手紙を送ってもらうんだ。
でもって定期的に新着がないか、自分で確認するわけ。
オレたちの世界でも、ずいぶん昔には私書箱ってのがあったらしいけど、それってこれと同じようなシステムなのかな?
それ以外だと、遠見の鏡とか水晶玉とか。
あとは念話器とか。
ただこれらの魔具が便利かっていうと、うん、微妙……。
大抵が番の道具で、片割れを持っている者同士が専用で交信するものだ。
だから話したい相手が増えれば増えるほど、アイテムが増えてくことになるわけで、ちょっと嵩張るなぁ。
言っちゃ悪いが、オレらの携帯端末には遠く及ばない。
念話の術も、よっぽどの時以外は使用は遠慮したい。
様々な方式・バリエーションがあって、その多くがだいぶ簡単な魔術だから、発動自体は素人でも可能なんだけど。
なにしろ、つど魔力が要るもんだから。
先方にも同量の魔力消費を強いることになるし。
新型の篭手は魅力的だった。
掌の孔の奥は、鍵を納めるための亜空間になっているが、ここが複数で共有になってる篭手が最近開発されたんだ。
オレが仕舞った鍵を、イグナやキアシアも取り出せるってのは超便利じゃん。
手紙を孔に入れれば言葉も交わせる。万が一はぐれてしまったときの保険になる。
残念なのはまだ試作段階で、数も少なく、購入しようと思ったら法外に高い。
しかも質も難あり。たまーに鍵が虚空に零れちゃうとかで……時空の狭間に永遠に紛失しちゃうことが、まだ完全に防げてないんだそうだ。
それじゃあ導入は見送るしかない。
なるだけ早いとこ、実用段階になってもらって、ついでに安価にしてほしいもんだ。
とまぁ、ここまでつらつらと挙げてきた通り、オレとテオが連絡を取るのは簡単じゃないんだな。
お互いあっちこっち、大陸を股にかけて飛び回ってる身であるし。
テオの実家は教えてもらったので、こちらから便りを出すことは出来るけど。
仕方がないのでオレは、どこかで受取箱か、もしくはいっそのこと物件を借りることに決めた。伝えられる宛先が定まったらテオに手紙を出すつもり。
さぁ、となるとどこにしよう?
やっぱよく行く街だよな。
師匠のとこ、トレミダムか。
温泉を目当てにすればモンプか。
ドゥノーとかリンギンガウとかバダムクワィンならコネがあるな。
考え出すと、どうしよ、目移りしちゃうかも。




