剣について
この世界にも銃はあって、大砲だってある。
カラクリの進歩と共にある火器の性能向上は、まさに日進月歩というに相応しいの勢い。
しかし、それでもこの世界の最強の武器は、未だに剣だ。
秘密は剣技・剣術にある。
この世界のそれらは、単に効率の良い剣の使い方、身体の動かし方……ではなく。
法則を追従させる業なんだ。
わかりやすく言うと。
例えばうちの師匠が使う剣技の中に、海中戦専用のものがある。
水の中で、その構えから放たれる師匠の剣は瞬きの速度を超え、たったの一刀で巨大な海魔を三枚に下ろしたのをよく覚えている。
けれどもその剣技を、そっくりそのまま地上へ持っていっても、同じ効果は発揮しない。
……考えても見てほしい。
物理に照らしたらそんなこと、到底ありえるか?
違うんだ。
師匠の剣は、筋肉や力学で水の抵抗を突破していたわけじゃない。
剣の握り方。
身体の向き。
力の入れ具合。
それら全てが術式となっていて、自らで体現する奇跡。
それが剣術だ。
魔術・剣術、それぞれの『術』は同じ意味を示す。
起こしたい現実を、強制的に起こすための、超越的法則。
事実を上書きする業。
魔術においては魔力と詠唱を元に行われるそれを、剣術は刃の軌跡によって描くわけだ。
空間を寸断する剣技。
雷を纏う剣術。
対軍を主眼とし、極めた流派。
万能性、という意味では魔術には及ばない。
だが、こと戦闘に限れば、術は剣の方がよほど豊かだ。
神代より研究され続けたその歴史の長さが、剣が最強を誇る由縁である。
次いで槍術、斧術、棒術、弓術なんかは技として確立されている。
鎚術や球術なんかはマイナーな部類だ。
銃術はまだない。
それは単に銃が生まれてまだ日が浅いからであり、術と呼べるほど『方法』が発見されていないってだけのことだ。
だから、オレはこの世界でも銃器が主力にとって代わる日も、そう遠くないんじゃないかって睨んでる。
あと十年もすれば、きっと始めの誰かが極めるんじゃないかな。
百年後にはもしかしたら、銃と格闘術を合わせた例のやつが、この世界に流行しているかも。




