序 ≪手記≫
手記No.47:『わくわく百獣ランド』テステクニコ
―― 剣の月/中手の曜 ――
動物に関して悩むなら、エァレンティア大陸の東北部に行くがよい。
と聞いたので、テステクニコまでやって来た。
ここではあらゆる生き物の飼育が研究されている。
街の景観にはオレたちもテンション爆上がり。
なにせ全体が動物園だ。
きちんと『見せる』造りになっていて、かつ生き物がのびのび出来る環境になっていて、すげぇ、行動展示ってやつだ。
檻があり、生け簀があり、籠があり、厩舎があり、小屋があり、そして多くが放し飼いにされている。
あっちの樹上からは猿たちが、こっちの木の枝からは猛禽が、じっと見つめてくる。
アインの頭にはリス。長身の上だから、さぞ見晴らしがいいのだろう。
家屋は、もちろんあるんだけど……動物の住むところと比べると小ぢんまり。人間の優先順位は低いのか。
商店はほぼない。毎日決まった時間に、扉の樹経由で他所から行商が来る形。
つまりこの街は、100%動物関連業の街ってこと。
しかし、本当にどんな動物でもいるなぁ。
百獣なんてもんじゃない。千でもまだ一部だろう。
犬・猫・鳥は言うに及ばず。いずれもものすごい種類が揃う。
牛・豚・羊・馬は愛玩用、家畜用の両方が育成されている。
蛇・鰐・亀をはじめとした爬虫類も。蜥蜴にイグアナにカメレオン。あっちには両生類。
魚までもが大小、海水・淡水、様々。
昆虫だっていて、蝶やバッタや蜂や……ちょっと書き切れない。
猛獣・珍獣もすごい。
虎やライオンやチーターや熊。
あれはフェネックってやつか。
カバとかパンダとか象とか。
オカピってのをオレは初めて見た。
そしてこの世界にしかいない、摩訶不思議な生き物たち……。
カンガルーほど大きい二足歩行の兎。
六脚を持つ、サイとアルマジロを混ぜ合わせたようなやつ。
建物の影かと思ったら、これは巨大な平べったい生物だった。
無数の翅をずらりと連ねた、何か長いニョロニョロが、頭上をゆったりと飛んでいくけれど……あれは動物か虫か、もしかしたら魚の一種なのか?
興味深いのが、この街の生き物には人間以外全て、値札が付いている。
買うことができるし、飼うことが出来るんだ。
テステクニコの財源は、実に半分がペット販売。
交配や品種改良も盛んに試みられ、月ごとに新種が発表されるほどだそうで、愛好家は常に注目しているとのこと。
その他、動物にまつわる事業はなんでもやってる。
飼料の開発。
ペット用おもちゃやグッズの制作。
動物の怪我・病気の治療。
躾教室や飼育指南、動物園のコンサルティング。
大型獣用の庭園建設。
害獣・害虫の駆除。
繁殖代行。
ペットホテル。
動物専門の葬儀屋。
まだまだ、その他にもたくさん。
この街がこうなったには理由がある。
ここらの地域では、そもそも動物の飼育が文化的に推奨されているんだ。
生き物を飼うことは精神的な豊かさの象徴と考えられていたわけ。
愛や慈しみ、思いやりを養うのに、ペットはこの上ないって。
それがテステクニコでは特に強かった。
いっそ激しいくらいで、動物とともに暮らしていない奴は不道徳で慈愛の心がない人でなしと見なされ見下される。
……そんな話、超有名な古典SFにあったな。
で、段々とエスカレートしていって、よりたくさんの動物を飼ってると偉いとか、より珍しい動物を所有してるとすごいとか……。
人間、競争相手がいると見栄を張りたがり、際限がなくなるものだ。
かくしてこの街は、いつの間にか世界中の動物の見本市。
……言っちゃあなんだけどさ。これを聞くと、どうも本末転倒感がない?
だって、生き物を飼うのは、仁徳からだったんだろ。
それが行き過ぎて、今では全員がブリーダー。自分の飼育してるのは残らず売り物なんだから。
まぁでも、テステクニコでは誰もが心を込めて動物の世話をしていることには間違いないから。
あんまり言っても失礼か。
ちょっと街を見て回っただけでも飼育にまつわるご苦労は仄見えてきたし。
一応、この子は絶対に売らない特別なパートナー、ってペットたちもいるはいる。
そういう子らには、どう足掻いても買えないよう、天文学的値段が付いているから分かりやすい。
ゼロが20個ついている生き物は、街の誰かの家族ってわけだ。
こんな街だが、いやこんな街だからこそか、魔獣はご法度。
品種改良はあくまで真っ当な手段でのみ許される。
新種には必ず検査があって、おかしな魔力が出ようものなら重罪だ。
さて、オレたちがテステクニコを訪ねたのは、キアシアがきっかけ。
主に肉や魚を柔らかく解したもの。オレたちが黒猫にやってたのはそれだ。
なんだけど、ふとキアシアが、これは最適な食事なのかと不安がり始めた。
イグナの知識では問題はなかろうとのことなのだが、食に関してはより良きを模索し続けるキア。
一度は専門家に話を聞いておきたい、とこういう訳。
言ってもうちの黒猫は、尋常な生物ではない。
普通の猫の飼育法が当てはまるのかどうか……。
その辺も含めて、確かに一回獣医さんに調べてもらうのもアリかも。
あとはボールとか猫じゃらしとか、本人が気に入るのがあれば調達しとこう。




