療養について(真)
怪我や病気をしたとき、回復に努めるためにする、あれやこれ。
……今回はガチ。
クヤナギでやらかした、アインとの斬った張ったのせいで、オレもイグナも完璧に故障した。
ずたずたになったアインも当然ダウン。
三人とも楽観視できる状態でなかったそうで、街医者では手の施しようがなく、昏睡している間にキアシアと和尚が手配して『療墓』ダンブリールに運び込んでくれたそうだ。
大変ご迷惑をおかけした。
まずアインだが、身体に刻まれた三つの刀傷が重かった。
つまりオレとイグナが翼で斬ったやつだけど、あの刃にはやっぱり神威が込められていて、毒のように作用していたそうだ。
傷口から多数を滅する力が働き続け、周囲の体細胞が死滅し続ける……。
アインが治癒力の鍵を解放し、それでやっと回復とダメージの進行速度が釣り合い、傷の拡大が止まったとか。
それでも止まっただけで、塞がる見込みがなかったため、医者が手術を行った。
呪いに対して縫合は無駄だろう、と逆にメスを入れたのだ。患部を薄く抉り取った形。
アインの身体から切り出された肉は、瞬く間に塵になったと言う。
削いでしまった分、埋めなくてはならない。
魔術培養の移植用人造肉は、この世界の最先端医療なのだと。
年齢・性別・人種・血液型、その他もろもろを調整することなく誰にでも使える万能細胞との触れ込みで、これが蔵が立つほど高価。魔具は万能になればなるほど、作製に必要な魔力量が跳ね上がるからなぁ。
知的好奇心から、それを用いて全身を形作ることが出来るか、担当医師に訊ねたが……この人造肉は間に挟めば周囲と馴染みはするけれど、欠損した末端、例えば小指程度でも、形成するには向かないらしい。
壁を作るならパテより適した素材がある、と例えられて納得した。
正直を言ってしまうと、あの翼型の鈴剣の効果を人体実験できたのは、今後の参考にとてもなった。
アインは辛うじて生き延びたが、あの刃で斬ればそのとき、オレは一人の命を奪うことになる。
浸食し続ける傷を刻む剣。振るうならば、相応の覚悟をしなくては。
のみならず、偽神化にも覚悟がいる。
オレ自身の症状はというと、全身の筋肉の至るところに、もう数えるのも面倒な量の断裂。
手足なんて特にひどい。指一本もまともに動かせない。
特に悪いところでは骨折も。
限界を超えて肉体を使用したために、自壊したんだな。
無理もないか、とは思う。
ヒトの身でありながら、神の強さで闘ったのだ。それはどれほど無謀で、どれほど身の程知らずか。
正確には『神託者の身で偽神の強さを纏った』だが、いささかも軽くならない。
未熟剣士が剣神を真似たツケは、痛みをもって払う羽目に。
いや……このくらいで済んだことに、むしろ感謝すべきか。
師匠の指導のおかげ、サボらず鍛え続けたおかげ、頑健な身体のおかげ。
鎧の中でトマトケチャップにならなかったのは、オレを養ってくれた全てのおかげに違いない。
感謝してもし切れない、ホント。
とはいえ、とにかく身体中どこも痛すぎて、寝ていることも出来ない。
仰向けだろうとうつ伏せだろうと、体重のかかったところが死ぬほど痛い。
身じろぎするだけでも激痛が走って、耐えようと歯を食いしばるとまた激痛。
炎を出していないのに燃えるようで――そもそもオレは火では熱くないのに――高熱にうなされた。
本気で体調を損なうって久しぶりの感覚。
なのでダンブリールの医者が用意してくれたのが、ウォーターベッド。
……オレの知ってるウォーターベッドと違う。マットレスの中に水を通すやつじゃない。
魔力で立方体に固定された、巨大なゼリーだった。
そこへオレはパンツ一丁で放り込まれ、顔だけ出して数日間ぷかぷかし続けた。
これなら浮力に身体を任せればいいし、ひんやりと冷やされてだいぶ楽だ。
動くことも出来ず、食事と睡眠ばかりを摂って、ひたすら浮かんでいる……ちょっと、ナユねぇの気持ちを考えちゃって、夢現に取り乱しかけたけど。
でももうリハビリを始めている。
三人の中だと一番軽傷で、回復も早かったな。
今は筋肉痛が少し残っているくらい。
解すように運動しろ、と医師にも勧められたので、素振りから始めてる……力を入れるとやっぱまだ激痛。
いくら天下の医療都市・ダンブリールと言えども、イグナを診れる医者はさすがにいない。
だからオレと同じ部屋で、自己修復に明け暮れている。
彼女もまた全身のパーツ、駆動系や骨芯に損傷を負い、とても動ける状態ではなかった。
ワスプで作り上げたポッドにこもり、破損した部位を修理している。
処理すべきタスクの多さからか、外とのやり取りをシャットアウトして、一日に数十分コミュニケーションが取れればよい方。
幸いにも電脳は無事で、正常な状態の設計図は保持されているから、綺麗さっぱり元通りになるとイグナは言ったけど。
オレのせいか、と胸が苦しくなる。
イグナ単体がCode:Demi-Godを使った際、消耗はしても、ここまで壊れたことはなかった。
Demi-Godを絡めたDual Orderは、偽神化の上にさらに機能を要求し、負荷をかけているに他ならず、結果としてオーバーロードしたのだろう。
けどイグナは頑として、自らのスペック不足であるとして譲らない。
「リクホ様の望まれる力を100%実現できるよう、必ず問題を解決いたしますので」って。
元通り以上を目指して、演算をくり返しているらしい。
……ありがとう、イグナ。
オレも、強くならなきゃ。
もっと滑らかに剣を扱えれば、偽神化の負荷もきっと減らせる。
そうすれば、きっと。




