療養について
怪我や病気をしたとき、回復に努めるためにする、あれやこれ。
……まぁオレには特に必要ない。
有難いことに、炎を身に付けたときに身体も丈夫になって、風邪はそもそも引かないし怪我はすぐ治るから。
必要ないけど……だからこれは、イグナのためだ。
フクロウ女から、心臓をめがけた強烈な一発を食らったオレ。
が、今は全然無事であることは、イグナのセンサーには明白だろうに。
心配し切った彼女は、とにかく大事を取れ取れと譲らず、オレはぴんぴんしているのに看病を受ける何様な状況だ。
上げ膳据え膳の待遇で、我ながら相当みっともないとは思うんだけど……。
こうしてないと、かえってイグナのストレスになるから、大人しくしていようか。
さて、怪我や病気をしたとき、回復に努めるためにする、あれやこれ。
まずは食事。
医食同源の語もある通り、食べ物は健康の基礎の基礎だ。
キアシアは忙しいから、イグナが腕を振るったが、メニューは王道のお粥やうどん。
別にオレ、食欲も普通だから、ステーキでも刺身でもへっちゃらなんだけどね。
それはそれとして、さすがイグナ、大変に美味。
お粥って炊き方一つでこうも高級感が出るもんなのか。
味付けは、醤油や塩や味噌で千変万化。
添えられた具は時々で変わって、梅干し、菜っ葉、煮卵や魚卵、チーズなどなど、バリエーション豊かで決して飽きない。
うどんについてはわざわざ打つところからやってくれた。
オレたちの世界の古今東西あらゆる料理を網羅しているイグナだから、出てくるのは関東風・関西風からキツネにタヌキ、各郷土風など百花繚乱。
なんかすごい、食道楽してる気分で、余計に罪悪感が。
なお、この世界で体調不良のときに何を食べるかは、場所によってまちまち。
ジッズ大陸は薬草で燻した肉や魚に限るそうだ。
グィングルム大陸では、かの医療都市『療墓』ダンブリールの影響か、流動食と決まっている。
エァレンティア大陸の人々は逆に、普段通りの食事をするように心がけるのだとか。
ここノイバウン大陸の場合、なんと食事は一切断つ。食欲がなくなるのは、肉体が食事を必要としないからだ、という考え方らしい。代わりにひたすら薬湯を飲んで凌ぐのだ。
ただどこでも共通しているのは、腹に入れるなら暖かいもの、ということ。やっぱり内臓を冷やさないのは大事なんだな。
腹ごしらえが済んだら、あとはジタバタせずにひたすら眠るのみ。
……そんなに寝てばっかいられないぜ? だって、だから、健康なんだもん。
でも布団に包まってはいないと、イグナが心配するから。
たっぷりと読書した。幸いバダムクワィンには、人生を100回繰り返しても読み尽せないほど本があるから。
それにも疲れちゃったら、横になって目をつぶって瞑想して、精神修養。
剣術にも、神に纏わる者としても、雑念を払って瞼の裏に集中するのは重要な修行だ。
まぁこれをやってると結局、高確率でいつの間にか寝ている。たまに棒で引っ叩いてくれる人がいないと、ダメだね、続かないね。未熟者なもんで。
患部は温めるべきか、冷やすべきか。
……イグナを疑うわけじゃないんだけどさ。あの娘、テンパってなかったか?
なにしろ温冷、両方やった。
これだとプラスマイナスゼロじゃない?
もう何度も繰り返しているが、患部っていっても、痛みどころか傷もない。
むしろユノハのアホに付けられた紋様がなくなって、さっぱりしている。
これでもう、恐らくどこへ行っても息が苦しくなることはないだろう。
やっと呪いが解けた気分で、せいせいするね。
……あのフクロウ女の一撃は間違いなく必殺で、そのまま受けていたらオレもどうなっていたか分からないし。それを紋様が肩代わりしてくれたんだってことは……何となく分かってるけど。
ユノハのボケには、今まで散々迷惑してきたんだ。貸しには数えないぞ。
とにかく、回路神の紋様はダメージを完全に防いでくれたらしく、オレは無傷。
だから『夢見る白煙』モンプまで行っての湯治も、単なる湯浴みだ。
どちらかというとキアシアこそ癒された様子。何日も丸まって本を読み漁っていたものだから、すっかり肩こりで、温泉のおかげでいくらか解れたろう。
その後には氷嚢で胸を冷やした。
ただし内臓は冷やさないのが鉄則だから、合わせて茶を飲む。
このお茶もイグナが厳選して取り寄せたのを焙煎したもので、あれこれ効能を説明してくれたけど……ごめん、複雑すぎて覚えきれなかった。ただ美味いってことは分かったよ。
バダムクワィンにおいては、病は身体の中に「悪い氣が籠っている」と解釈する。
東洋医学っぽい考えかたかな?
だからそれを追い出すために汗を掻き、蒸気を吸うんだ。
そこで定番なのがサウナ。
各種薬草で石を焼き、ろ過した水をかけることで湯気を立て、これを浴びながら吸引する。
体験してみたけど、なかなか爽快。
ただちょっと、ぶっちゃけちゃうと、本当にちょっとだけ辛気臭いね。利用者は全員、不調の人だから、しょうがないけど。
この街ではサウナは病気のときのものってイメージらしい。
けど、風呂文化の代わりにサウナ文化が根付いている街は結構あって、日常的に利用している地方も多いことを付け加えておく。
という具合の数日間で、オレはすっかりツヤツヤ。
ようやくイグナも納得がいったのか、素振りを許してくれた。
何にせよ、長逗留になっちゃったな。これは敵の再びの襲撃を警戒する、いい間にもなったけど。
キアシアの用事も済んだことだし、身体のメンテナンスは終わりにして、またたっぷりと使うターンに戻ろうか。




