魔剣について
いかにも呪いのアイテムっぽい響きがするよな。
魔剣。
持つと意思を乗っ取られて、凶暴になり、夜な夜な辻斬りをくり返してしまうような。
黒いオーラを放って血を求める、そんなイメージ。
大きな力の代償にー、なやつ。
刀鍛冶が自分の命と引き換えに……とか。
熱した鉄を処女の血で冷ました……とか。
もしくは、なんていうか、レガシー的な?
古代の遺跡の奥の奥に隠されていた、人智を超越した刃なんて定番。
要するに、曰く付きの剣。
でもこの世界だと、そんな大げさなものじゃない。
単に魔具としての機能を備えた剣が魔剣、それから剣の形をした魔具だって魔剣だから、いっそ有り触れているくらいだ。
オレの鈴剣もそうだし、アインの塔剣もそうだし。
能力や質は本当にピンキリ。
下は雑貨クラスから、上は神器まで。
込められた魔の強さと性質、仕立てた刀匠の腕前、その剣が経てきた環境・年数、育てた剣士の実力等々、様々な要因で魔剣は昇華するし堕落もする。
例えば、刃毀れが自己治癒する魔剣、なんかはほとんどオプション扱いだ。
鍛冶屋に注文した時、追加料金いくらでそういうふうに出来ますよ、って具合に。
まぁまぁ値は張るけどね。
さらに奮発すれば、折れても自然に癒着する刃にだって出来る。
といってもコレ、立ちどころに復活するわけでもなく、例えるなら骨折が治るくらいの時間がかかる。なら新しいのを打ち直してもらったほうが絶対に手っ取り早いし、安上がりだもんで、剣士でこの機能を好む人はあまりいない。
置くと必ず東を指すナイフは、アウトドア用品を扱う店なら、大抵ショーケースの中にあるね。
これも魔剣に分類される代物。
別に武器でなくても、刃が魔具なら、魔剣なんだよね。
逆に、ごりっごりに武器凶器な魔剣ももちろんある。
いかにも呪いのアイテム、持つと意思を乗っ取られ、凶暴になり、夜な夜な辻斬りをくり返す……まさにそういうやつが、つい最近、本当にあった。
ある街で事件があって、大捕物だったと大陸版の新聞の一面を飾ったんだ。
犯人のでまかせとも疑われたが、入念に剣が鑑定された結果、理性を狂わす魔力が認められた、と書いてあったっけ。
件の魔剣は教会で清められた後、厳重な封印下に安置されているそうだ。
あとは罪を問うべきは製作者なので、そちらの捜査が今も続いているとか。
○○殺し、○○切の異名を取る魔剣も多い。
龍殺し、虎殺し、雷切、骨切……。
特定の対象に高い威力を発揮するよう作られた刃をそう呼ぶわけだ。異名というより、機能名な感じかな。
火炎切、があったらオレには痛いだろうな……。
ちなみに巨人殺し、は酒の名前。
けしからんのは童子切なんてものがあって、一体どこの外道が何のために開発したもんだか、どこの下衆が欲しがるもんだか。剣士・鍛冶屋の風上にも置けねぇよ。
上位の魔剣は、一閃が魔法使いの杖の一振りに匹敵する。
突風を起こす魔剣。
複数の刃が飛ぶ魔剣。
打ち砕く衝撃の魔剣。
刀鍛冶、魔術師、素材のどれもが最上でなくては実現しないそれらは、剣士ならば一度は憧れる逸品だ。
自慢だけど、オレの鈴剣もこのレベルだぜ。
ダンジョンで手に入れた、感情に呼応して姿を変える刀身。使いこなすには……もうちょい、かかりそうだけど。
それ以上となると、神器のレベルだ。
剣の神器といえばやっぱり雷鳴神の『宝剣』。雲を意のままにし、落雷を従える力がある……らしい。
宗教都市に安置され、長らく触れた者すらいないから、実際の威力は言い伝えレベルだ。
これのレプリカを作ろうという試みがあるとのこと。
神器は言うに及ばず神の器物。でも特別なのはその造形ではなく、材質であるらしいので、類似の物質からならば人工神器は作成可能なのでは、と。
……類似の物質、ねぇ。
聖人の骨とか、天使の肉とか?
調べる必要があるかもしれない。レプリカ研究の裏に魔女の陰謀が……いや、無いか。
あの魔女なら神器を盗んで、自分の求める形に作り直す。実際にそうしやがっているじゃないか。
魔剣の作成方法についても軽く触れる。
まず必要なのは、とにもかくにも鉄。
当たり前だけどただの鉄で済むわけはなくって、魔術師によって魔力を込められたインゴットだ。
起こしたい奇跡を、起こす機能とルールを付与された鉄は、この時点ですでに魔具と言える。
これを刀匠が剣の形へと打つ。
このとき魔鉄の中に通う術式が崩れてしまうと、せっかくの能力が損なわれたり、最悪は失われたりするそうで、熱の処理や刃の形状、鍛錬の回数や叩く力などには豊富な知識経験に基づいた細心の注意が必要だ。
だったらまず剣を作ってから魔法をかけたら、と思うが、そういう方法は推奨されない。
それは言うなれば、魔力を着せているだけになるそうで、様々な外的要因で効果が変質してしまうのだそうだ。
耐火の魔法を掛けられた剣が、次の年にはどういうわけか、溶岩を吹き零す剣になってたって例もあるとのこと。
だから必ず、芯まで魔法が根ざすように、魔法のインゴットから作成する。
魔剣に限った話じゃなくて、魔具全般に当てはまることだけどね。
さて。
アインが新しく持っている剣。塔剣じゃない、脇差のほう。
……どこで手に入れてきやがった?
あれは間違いなく、イグナにも確認してもらったから絶対に、イェーニヒの聖剣だ。
まさかあの泉へ戻って、勝手にフランベルジュと交換してきたんだろうか……。
本人は戦利品などと宣うばかりで、詳細は答えない。勘弁してくれ。
力づくでも取り上げて、返却しにいくべき? 少なくとも確認には行かなくっちゃ。あの街、鍵がないから、相当遠いけど。
なお、聖剣も魔剣の一種で、来歴や能力や所有者が清い場合に、特別にそう呼ばれる。
元は剣聖の持ち物で、自らが斬るものを制限する力・斬られた者に制限を与える力があるのなら、確かに聖剣と呼ばれるに相応しそう。
だけどそれを、戦闘狂の巨人が持ってたら台無し。しかも入手経路は100パー後ろ暗い。
あそこの兎の防人さんにも、どう恨まれてるか。
あぁ、胃が痛い。
針の筵って言うけど、剣山に座ってるみたいに落ち着かないよ。




