使い魔について
魔法使いのイメージと言えば。
黒のローブにとんがり帽子。
杖に箒に、水晶に、大鍋。
実物は――少なくともこの世界では――そこまでコテコテなスタイルの人はそういないけどね。
でも魔法使いが描かれるときは、だいたいそんな感じ。
そして傍には、手懐けられた動物が添えられるのもお決まりだな。
使い魔ってやつだ。
フクロウやコウモリ。
猫に鼠。
蛇や、ガチョウなんかも。
使い魔の語からパッと思いつくだけでも、様々な小動物がずらり。
彼らはただのペットってわけじゃない。
読んで字の如く、『魔』術師の『使い』だ。
主人の代わりに訪ねる。
主人の代わりに見聞きする。
主人の代わりに言葉を届ける。
主人の代わりに暗躍し……。
どんな動物を使い魔に選ぶかは魔術師のセンス次第。
でも翼のある生き物が好まれる傾向っぽい。
飛べれば便利だもんな。
だけでなく、ほら、この世界では有翼種は神の眷属だから。それにあやかってね。
同じ理由で全く逆に、だからこそ嫌って、羽のない生物にする魔術師もいるけど。
虫を使い魔にする魔術師も多い。
蝶は見栄えがいいから一般受けもするし、蛹は何やら重要な呪材になるんだとか。
蜂は羽音で暗号を伝えられるので、有用だそうだ。何より自衛できる強い生物なのがポイント。
あとは蜘蛛も人気。200歳を超えて今なお現役である、高名な魔法使いがいて、その人が蜘蛛を気に入っているそうで、それを真似てね。
その他、蝿、百足、さらにはゴキ……。
オレ個人ではちょっと遠慮したい虫たちをチョイスする、奇抜な術師も。
蛙はまだ分かる。
蝸牛は、足が遅いし、使い魔には不向きそうなんだけどなぁ。
意外だったが、大型獣を従える人も一定数いる。
まぁ、魔術師ってだけで隠れ忍ばなきゃいけない時代じゃないから、目立つ使い魔でもいいのかもしれないけど。
馬や牛はまだしも、熊やライオンなんて、さすがに派手すぎないのかな。
自ら魔物を作成し、使い魔とする行いは、あまり褒められたものではない。
うっかり術師の軛を解かれた魔物が、野に下ったりしたら大事だ。
当の魔物が、例えば犬猫を殺せるほどの力を持っている鼠で、それがそこらのドブネズミと交わったりしたら。
ヒトを使い魔に……っていうのは、オレは初めて聞いた時には大いに鼻白んだものだけど、別に違法でなく、ままあることらしい。
どうも、感覚としては、とても親密な雇用形態、くらいの感じか?
主人が何を見たがっているか、何を聞きたがっているか、何を求めているか。使い魔には筒抜けだ。
主人は使い魔には否応なく、自らの秘密の大部分を晒すことになるから、ヒトほど箝口の難しいものをわざわざ手先にする術師も、それなりの事情あってのことみたい。
使い魔は、主人の力の一端を使用することができる。
主人の側から許可された部分だけ、だけどね。
使い魔の鳥が人語を喋るのは、こういう訳。
許可範囲がもっと大きければ、魔術を扱う使い魔も。ヒトを使い魔にする最大のメリットはここかもね。ただし魔力は自分持ちだから、結局は自己責任ではある。
とまぁここまで魔術師に絡めて触れてきたが、使い魔は何も、彼らの専有物でもない。
魔術師に契約術を代行してもらえば、一般人でも使い魔は持てる。
一部の魔術師はそういうサービス業をしていて、愛犬・愛猫との絆をより深めます~なんてことを営んでいる。
使い魔にすればペットの気持ちも、表情から読み取る以上に明らかになるからね。需要はそれなり以上にある。
好事家が貴重な生き物を飼育するに際し、いなくなったときや盗難防止のため、使い魔にしておくのはもはや定番だそうだ。
だから、リャルカが魔術的素養を備えているかは、断言できない。
常に三本足の鴉とともにある、あの蛇の亜人が槍術の達人で軍師であるとは聞いているけど。加えて魔法を使うかどうか……アインは知らないそうだ。
そういえば防人も、街を主にした使い魔、と言える。
彼らの尋常ならざる力は、街から許可されたものであるし。
もしかして街は、防人の五感で市井を見守っているのかな?
幻獣を使い魔にした女騎士の話も聞く。
蒼炎を纏った白馬に跨る英雄で、グィンガルム大陸にいるとか、いやノイバウン大陸出身だとか……。
実在すんのかね……?
一応、相手が麒麟だろうが龍だろうが、理屈の上では契約術は有効で、使い魔にすることは可能らしい。
オレの能力を共有するために、イグナとの使い魔契約ってのは……まぁ、一考の余地があるかもしれないが。
いや、やっぱ、うぅん……。
どうしても使い魔って存在に、自由意志の否定のニュアンスがある気がして。
うん。駄目だね。
彼女とは今のままでいい。今のままが、いい。




