表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/427

承:転 ≪突入≫

 粗野(そや)な手が乱暴に、サイドテーブルからゴブレットを()手繰(たく)った。

 (はい)は液体ではなく、小振(こぶ)りな球形の結晶数十個で満たされていて、ダンダルフォは四つ五つを一掴(ひとつか)みする。

 苛立(いらだ)(まか)せに、口に運び、頬張(ほおば)る。

 ゴリゴリと()(くだ)いて嚥下(えんげ)した。


 (のど)を通過し()()へと落ちていく、燃えるような刺激は、いつもならば快感を(ともな)うが。

 怒り心頭(しんとう)の今は、それすらも(まぎ)れてしまう。


 腰掛(こしか)けた玉座は石造(いしづく)り。

 けれどもこの世ならざる輝く石材で仕立(した)てられて、座る者を雄大(ゆうだい)に受け止め、ほのかに暖かく、実に心地よい。

 だが、それだけだ。

 ただ心地よいだけの椅子。

 ダンダルフォは、かつては自らに最も相応(ふさわ)しいと確信していたその(せき)に、今は全身が燃える思いでいる。


 両膝(りょうひざ)小刻(こきざ)みに震えて止まらない。

 この(くせ)が一般的に何と呼ばれるものか……また怒りが込み上げてきた。


 リン、とどこからかベルがなる。


 ――なにをそんなに腹を立てているんです?


 と、どこからか、声が聞こえた。


「っどこだぁ!」


 立ち上がって周囲を見回した。

 この玉座と同じ石材で形作られた、城主(じょうしゅ)()に、いるのは自分と。鎖で天井から()るした女が十数人。

 声の主はない。

 散々殴りつけ、両目を(えぐ)った女どもは、時おり(うめ)くだけ。


「出て来い!」


 ――無茶を言わないでください。

 ――僕はそっちにはいない。

 ――そりゃあ、その時代の僕はいますが。


「テメェ、よくも……」


 ――許可なくその玉座に()いたことを怒ってるんでしょうけど。


「そうだ! この城の全ては俺様(おれさま)のものだ! それを勝手に……っ」


 ――まぁそうカッカしないで。

 ――一言もなくお借りしたことは謝罪します。

 ――でもおかげで、こうして貴方たちを過去に還すことが出来たのですから。


「…………っ」


 ダンダルフォの憤怒(ふんど)の理由は、実はそれだけではない。


 あのときカナが見せた姿、力。

 それは、確かに神に(ちか)しいものだった。


 着いたものに神格を付与(ふよ)する玉座。

 だが……ダンダルフォが座っても……(げん)に今も……あれほどの効果は、発揮(はっき)していない。

 この城が、カナのほうをより喜んでいるとでも、言うのだろうか。


 許せない。


 どうやってあれだけの神格を。

 ……と、ダンダルフォが怒鳴(どな)()らして(たず)ねなかったのは、プライドゆえだ。


 ――すでに(さっ)しているかとは思いますが、ダンダルフォ、貴方は過去にいます。

 ――ジュンナイリクホに(やぶ)れるより、少し前の時点に。


「あぁ……『カレンダー』で分かったよ」


 サイドテーブルの、一抱(ひとかか)えの(びん)に目をやった。

 中身は獣の羊水(ようすい)とともに、壮年(そうねん)の男の生首(なまくび)が一つ……だがこの男、まだ生きている。

 首輪(くびわ)のように、断面に()ませた魔具。

 (まぶた)を切り取られた両目には、育ち途中の果実のように、本来より小さな眼球が(おさ)まっていた。

 目の()える速度がとりわけ一定であるこの男は、日付を数えるのに最適だ。


 ――そこで生き残れば、歴史が変えられますよ。

 ――現代でも貴方は生きていて、僕の力によらず存在できます。

 ――当然、城も()ちなかったことに。


「……そうかよ」


 もしそうなったら、次にはカナを殺そう。

 内心でそう、固く決めた。

 なんならこの魔眼の連中と同じに、城に吊るしてやってもいい。


 ――では、ジュンナイリクホの始末、お願いしますね。

 ――愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言います。

 ――貴方がどちらであれ……学び得る状況でしょう。

 ――周到(しゅうとう)になさることを、お勧めしますよ。


 リン、ともう一度ベルが鳴った。

 それっきり、もう声は聞こえない。

 言いたいだけ言って去っていったカナに、ダンダルフォは拳を握る。


 玉座の肘掛(ひじかけ)を叩いた。


「上等だ……ぶっ殺してやる!」


 それを合図に、すぐに片目だけ残した奴隷どもが、よろよろと部屋に入ってくる。


「吊ってあるの片付(かたづ)けろ。

 それから眼だ、魔眼持って来い。貯蔵(ちょぞう)分も全部!」


 今度は肘掛を、(てのひら)でなぞった。


 雲間の浮遊城が、進み始める。


「キアシア……ジュンナイリクホ……。

 今度こそ殺してやる……っ」


>>>>>>


 待つ間にも、胃が()()れそうだ。


 この肉体にとっては直近(ちょっきん)の思い出だからだろうか。

 あの空飛ぶ城で、あの男から受けた苦痛で(いま)だに身体のあちこちが()()れ、否応(いやおう)にも回顧(かいこ)してしまう。


 自分が。家族が。仲間が。どんな目に()わされたか。

 今この時、どんな目に、遭わされているか。


 鎖の(こす)れる音が。


「……っ!」


「――キア」

「キアシアさん」


 うずくまった肩を、陸歩とイグナが、優しく触れてくれる。


 遠く、青空の彼方(かなた)に浮かぶ(かたまり)が見え始めていた。

 この山の(みね)まで、ほどなくやってくることだろう。


「…………リクホ、イグナ。お願い……あの男を……」


 殺して。

 もう一度。


「あぁ。もちろんだ」


 陸歩は、鎧になったイグナを(まと)った。

 あのときはCode(コード)Armor(アーマー).

 今はCode:Ignition(イグニッション). もっとずっと()()まされた戦装束(いくさしょうぞく)


「行くぜ。

 今度こそ、キアシアの悪夢が二度と(よみがえ)らないように。

 地獄の紅蓮(ぐれん)の、底の底まで、沈めてやるっ!」


 神託者の翼を広げる。

 炎を尾と引いて、陸歩は、飛んだ。

 浮遊城の基部(きぶ)を目指して、一直線に。


 かつてのように、城が地上に降りてくるのなんて待ってやらない。


 流星が、逆さまに天を()(あが)るが(ごと)くして、内部まで、貫く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ