表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300/427

承:承 ≪出立≫

 しかし落ち着いて話すどころではない。

 我が街の祭器(さいき)可憐(かれん)な赤髪の乙女に(へん)じる奇跡とあっては、それはそれは、住民にとっては一大事に違いなかろうけれど。

 夜明けを目前(もくぜん)に、陸歩たちは出立(しゅったつ)することに決める。


 イグナがちゃっかり、設計図を(したた)めた。


長老殿(ちょうろうどの)。よろしければ、こちらの(やしろ)を建てて(いただ)ければ。

 (きた)るべき日、リクホ様の神が復活された(あかつき)には、この街の皆様にも恩寵(おんちょう)があるかと」


 ははぁー確かに、と()して(うけたまわ)られると、むしろ陸歩のほうが恐縮である。


 街を出るまで、住民の最敬礼の花道。

 門を出るとき、あの自警団の若者、ハンフリーが畏敬(いけい)()めた半笑いを浮かべながら手を握って来て。


「ま、また、いつでもどうぞ」


「あぁ……ありがとう。近くを通りがかったら……多分」


 多分、そうそう顔を出せなさそうだが。

 偶像(ぐうぞう)は絶対に止めてくれ、と固く(ことわ)っておいたので、せめて陸歩たちの人相(にんそう)については広まったり後世(こうせい)に残ったりしないにしても、だ。


 心なしいつもより(そば)に近いイグナが、適切な声量(せいりょう)(ささや)く。


「あの街が、リクホ様の聖地となるかもしれませんね」


勘弁(カンベン)してくれ……」


「でも実際、いい方法なんじゃないの?」


 と彼に()ぶわれたキアシアが言う。


「行った先で奇跡の一つも披露(ひろう)すれば、社を建ててもらうなんて楽勝じゃない?

 これからもこの手でいったら?」


「やだよ勘弁してくれってば!」


「なんでよ」


「恥ずかしいからだよっ!」


 少女二人が視線を()わす。

 神の代行者として、人々から(あお)がれ(おが)まれる身分。

 自分を通して、自分ではないもっと大きなものを見られる気まずさ。その居心地(いごこち)悪さは、横で見ているよりも当人には大きいのだろうか。

 あるいは単に、彼が衆目(しゅうもく)(さら)されるのに、()れを覚える性分(しょうぶん)なのかも。


「――キアシアさん、体調はいかがでしょうか」


「うん。だいぶ、慣れてきた感じ」


「疲れたら寝てていいぜ、キア。どうせここから、しばらくかかるから」


「……うん。ありがと」


 目指すべき地点ははっきりしている。

 朝焼(あさや)けに染まる林道(りんどう)山岳部(さんがくぶ)に向かって、ほとんど()ける速さで辿(たど)った。


 浮遊城マギュラは、例の山脈の(みね)に現れるはず。

 逃亡したキアシアを探しに。

 そこで前回と同じに、ダンダルフォを()つのだ。


「でも今の時点で、『本来』より早いか?」


「迷うことなく進んできていますからね。

 数日分、前倒しに行動しています」


 首筋に、キアシアの寝息を感じた。

 そういえば前回も途中でこうした気がする。

 遠慮する彼女を、とうとう負ぶって、しばらく歩いたのだった。

 あのときのキアはこんなふうに寝入(ねい)りはしないで、ウトウトしたかと思うと、はっと起きて、また睡魔(すいま)と戦っていたっけ――


「あのときも、ここを通ったんだっけ」


「えぇ。通りました」


「あのときは……イグナ。ありがとう」


「どうしたのです、改まって」


 くすぐったそうにイグナが笑い、陸歩も面映(おもは)ゆい。


「いや、悪かったなって。迷惑かけたんじゃないか。オレ、余裕なかったろ」


「迷惑など。それに、(いた)(かた)ないことでした。

 リクホ様は当時、肉体と世界、両方が激変(げきへん)した状況だったのですから」


 そしてそれに翻弄(ほんろう)されてばかりの、ただの学生だった。

 陸歩は(かえり)みる。

 もしイグナが、いっそ無機質なくらい淡々と導いてくれなかったら、自分はこの世界で踏み出すまでに、どれだけかかったか。どこへ向かったか。

 果たしてダンダルフォにも、勝てたかどうか。


 けれど、今は違う。


「こっちもそれなりに場数(ばかず)は踏んできた。

 『本来』みたいに、あの男に殺されかけるような無様(ぶざま)にはしない」


「ですが、リクホ様、」


「あぁ、分かってる」


 そうはいってもこれは、敵も一度、体験した事柄(ことがら)だ。

 まさか無策(むさく)で待ち受けてはいまい。

 勝ったことがあるからと、(あなど)ってかかっては、それこそ命取り。


「我々の戦力分析を(いた)しましょう」


 イグナが()げていく。

 

あるもの――

  陸歩の炎、体術、剣術、戦闘に対しての習熟。

  イグナの、こちらの世界に来てから作成したCode(コード)全般。

  この世界についての知識全般。


 ないもの――

  陸歩の鈴剣。社がないため、神威の精度。

  イグナの、こちらの世界に来てから追加したナノマシン。偽神体(ぎしんたい)化能力。

  キアシアの拳銃。

  鍵すべて。

  コネクションすべて。


「――改めて確認すると、こっちに来てから得たものって、たくさんだな」


「えぇ。そのうちの、ワタシたちの魂と結びついたもので、(くぐ)()けるしかありませんね」


「あぁ」


 それを陸歩は、決して頼りないとは思わなかった。


「まだ時間に猶予(ゆうよ)があります。

 現状に最適化したCode立案を行います」


「それなら、イグナ、一つリクエストがあるんだけど」


「なんなりと」


 だが実際に(あるじ)の要望を聞いた彼女は、その完璧に整った面相(めんそう)を、苦く渋そうに歪めた。


「リクホ様……それは……」


「あくまで保険としてさ。頼むよ」


「…………」


 イグナは、たっぷりと間を取った。

 彼との命令を拒否するのは決して本意(ほんい)ではなく、さりとて彼の安全が(おびや)かされるのも容認できず、どうにか落としどころを見つけるための沈思黙考(ちんしもっこう)だ。


「かしこまりました。

 ただし、安全マージンはこちらで設定させていただきます。

 これは他Codeと干渉せず、ユーザーにも即時変更・解除の権限がないものとさせていただきますが、構いませんか」


「うん。それでいいよ。

 オレの命の距離、イグナが(はか)ってくれ」


「……光栄、とは(もう)せませんね」


 陸歩の背で、キアシアが身じろぎをした。


「ん……」


「そろそろ休憩にするか」


「ですね。朝食にはよい時間です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ