表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/427

結:急 ≪城主≫

 あっさりと(こし)を上げたニリスは、スタスタと下りていく。

 

 石階段を踏む足音がどんどん小さくなり、やがて聞こえなくなった。


「…………」


 カナの友達を名乗った幼い少女は。

 カナの敵であると(のたま)った陸歩たちに、最後の最後まで敵意の欠片(かけら)も見せなかった。

 子どもの無知(むち)ゆえだろうか。

 それとも……一瞬にしてずっと未来までを体験したため、だろうか。


「……いくぞ」


 標的がすぐそこにいる。

 陸歩は神経を()()まし、仲間たちも戦闘の予感に()()めた。


 可能なだけ気配を殺し、階段の続きを登る。

 (すき)(しょう)じぬようドアは四人で連携し、開けた。


「――――」


 一部屋くらいの規模の、円形の間。

 中央には、吊られているはずの鐘が降ろされ、床に鎮座(ちんざ)している。


「…………」


 鐘の裏に、人影が落ちている。

 陸歩は目で合図した。

 アインが(うなず)いた。


 指で、3、2、


「――いち!」


 陸歩が右から、アインが左から飛び込む――


 りん、とハンドベルが鳴る。


「――」


 ぴたり、と陸歩はその場に固まっていた。

 アインもまた。

 イグナも、キアシアも同じに。


「――貴方(あなた)がいながら、迂闊(うかつ)ですね、アイン」


 つい、と姿を現すカナ。


「僕の能力を知らないでもないでしょうに。

 不用意に僕の領域(りょういき)()()むなんて」


 動けない。

 動かない。

 身動きを(ふう)じられているのとは違う――陸歩は硬直(こうちょく)の中でそう感じた。

 これは、命のやり取りの中で時たま覚える、刹那(せつな)が何百倍にも延長される感覚。


 いま自分は、一秒をどこまでもどこまでも、引き伸ばされている。

 一秒が、終わらない。


「ですが、来てくれて手間が(はぶ)けまし、た?」


 カナの肩を、隣に立つ男が突き飛ばすように押しのけ、前に出た。

 瞳は憤怒(ふんぬ)に燃えている。

 (くま)のような大柄(おおがら)を、さらに殺気で倍以上に(ふく)らませていた。


「――久しぶりだなぁ」


 濃く、濃く、あまりに怨嗟(えんさ)に濃い、地獄の暗さをたっぷりと(ふく)んだ声音(こわね)


「ジュンナイリクホぉっ!」


「――っ」


 永遠に続く一秒の中、陸歩はそれでも、脳裏(のうり)(つらぬ)く電流に震えた。

 何故(なぜ)

 どうして、この男が、ここに。


 男は両手を拳にし、毒々しい紫の炎を(とも)した。


「今度は、テメェが、死ねやぁあぁぁっ!」


「っ!」


 技と呼べるほどの精妙(せいみょう)もない。ただの殴打(おうだ)、ただの暴力。

 陸歩の腹に叩き込まれた拳は爆破の威力。彼を軽く吹き飛ばした。


「か――っ」


 大鐘楼(だいしょうろう)の壁を突き破って青空へ放り出された陸歩は、時間停止から解放され、ぱっと血を()(こぼ)す。


 同時に銃声。

 イグナの鳩型(はとがた)ワスプが、その口腔(こうくう)から、男とカナへ弾丸を浴びせかけたのだ。


 カナはハンドベルを鳴らし、弾丸を空中で固定した。

 引き換えに自由となるアインたち。


 男は、まるで豆鉄砲かのように、9mmを意にも(かい)さない。


「チぃ!」


 アインは一瞬だけ思考を(めぐ)らせ、すぐにカナへと躍りかかった。

 正体不明の、陸歩と因縁(いんねん)あるらしい巨漢(きょかん)より、時間操作能力者を重く見ての判断だ。


 男へは、イグナが立ちはだかる。

 その表情は、感情を押し殺そうと(つと)めているものの、(まぎ)れもなく驚愕(きょうがく)動揺(どうよう)(にじ)んでいた。


「貴方は……」


「あぁ、テメェにも世話になったんだったなぁ、小娘ぇ。

 だがそれより……。

 ――キアシアぁ!」


「っ!」


 部屋の入口、キアシアは自分を()いて震えている。

 信じられずに見開いた瞳には涙が(あふ)れ、歯の根はガチガチと合わず、(ひざ)は今にも(くず)れそうな有様(ありさま)だ。


「会いたかった。会いたかったぜぇ? なぁ?」


「ぃ、い、や……」


「お前もそうだろう? 俺様に、会いたかったよなぁあっ?」


「いやぁあああぁぁっ!」


 逃げ出す、こともキアシアの恐怖に(すく)んだ(あし)には出来ない。

 尻餅(しりもち)をつき、それでも何とか離れたくて、床を(こす)りながら後ずさると、階段から転げ落ちる。


「キアシアさん!」


「う……あ……」


 一つ下の踊り場で、息も()()えに鼻血を流している。

 キアシアの安否(あんぴ)(たま)らなく心配なイグナだが、いま目の前の男から視線を外すことは出来ない。

 あまりに危険な男。メモリの深いところにそう刻まれている。


 だが何故。

 どうして、この男が、ここに。

 確かにあのとき……死亡を確認したはず。


「ダンダルフォ・ギグスタヴ……。

 本人、でしょうか」


「あああ? 俺様が俺様じゃなかったら何様だってんだぁ!?」


「……なるほど、時間の遡行(そこう)による蘇生(そせい)、ですか」


 厄介(やっかい)な。

 (つぶや)きながら、イグナは両手をEブレードへ変形させた。

 この男が全盛期のまま、ここに呼び戻されているのだとしたら。


「テメェにもたっぷりと礼をしなくっちゃと思ってたんだぜ!」


左様(さよう)で」


 つい、とイグナの視線が左へ移った。

 戦闘者の本能か、ダンダルフォの目がそれを追って、右へ。


 ――壁を(やぶ)って飛び込んだ陸歩の蹴りが、男の左脇に突き刺さる。


「っがぁ!」


「お返しだ!」


 炎灯す陸歩の蹴りが、巨体を容易(たやす)く空へ押し出した。


「リクホ様っ」


「イグナ、キアシアを! アイン(かま)えろ! 離脱するぞ!」


「あぁ? こっちはちょうど()()がってきたとこで、」


 陸歩はすでに翼を広げていた。

 左手の光輪から、紫電(しでん)(ほとばし)る。


 大鐘楼が一息で崩壊(ほうかい)した。


 瓦礫(がれき)とともに全員が放り出される。

 特に顔色を変えたのはカナだ。

 塔を形作っていた石材が、街へ()(そそ)ごうとし、慌ててベルを鳴らした。


「よくも、無茶をっ」


 宙に固定される煉瓦(れんが)木片(もくへん)や金属部品。

 そのうちの一つに止まったカナは、隙間を()って降りていく陸歩たちの姿を認めた。


「待ちなさい!」


 ハンドベルを()()げる。

 ……舌打ちを一つ。


「…………逃げ足の速いことです」


 ベルを鳴らす。


 巻き戻された大鐘楼が、見る間に形を取り戻していく。


>>>>>>


 フォーナメリッツを出た陸歩たちは、数十キロを()()け、まだ走り続ける。


 陸歩の(あせ)り。

 彼の背に()ぶわれ、取り乱し切ったキアシア。

 警戒に()()めるイグナ。


 その姿と敗走の(ざま)に、アインが(つば)を吐く。


「おい! 一体なんだってんだよ! どこまで尻尾を巻きゃ気が済むんだ!」


「…………、あの男……」


「あぁ!?」


「カナは、死んだ人間を(よみがえ)らせることまで、出来るのか?」


「知るかよ! あのデケェ男のことか!? 何なんだあいつは!」


 キアシアの震えが強くなる。

 少しでも安心させたくて、陸歩は(さら)に脚を速めた。

 今は一刻も早く、遠く、安全な場所へ。


 (すべ)るように追走するイグナが代わりに、全く息切れなく答えた。


「あの男は、ダンダルフォ・ギグスタヴ」


 キアシアの震えが、更に。


「キアシアさんの一族を捕らえ、支配し……そして(ほろ)ぼした男です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ