転:急 ≪英雄≫
さすが、英雄と讃えられ、現在まで語り継がれる豪傑たち。
「おかわり」
「私にも」
「こっちは酒だ。早く出せ小僧」
「はい、ただいま」
カナがハンドベルを一振り。
平らげたばかりの膳が、時の逆回しで元通りになり、稀人たちはすぐにガツガツと頬張る。
さすが、英雄と讃えられ、現在まで語り継がれる豪傑たち。
胆の丈夫なことだ。驚くほどに。
かつてカナ自身、一度死に、時間遡行で蘇ったことがある。
あの死と虚無から浮上した経験……いま思い出しても背筋が凍る。
復活した直後など、自我と忘我の繰り返しで、固形の食事なんてとても喉を通らなかったし、苦労して通した液体もすぐに戻したものだ。
それをこの三人は。
自らの死をあっさり乗り越え、二度目の生をすんなり受け入れ、「まずはとにかく服を寄越せ」と所望されたのだから。
続いて食事を要求され、味に散々文句を言いながらも、もう何度目の膳か。
己が戦力として過去英雄を現世に呼び戻したカナだが……。
正直、ここまで我の強い方々だと、手綱を握れるか早くも不安になりつつある。
咳ばらいを一つ。
「――みなさん、そろそろ人心地ついた頃でしょう。
お食事を続けながらで構いませんので、どうかお聞きください」
「なぁ。あんたらどっちも、俺より後の時代の人間だろ? 何者?」
「御伽噺の海賊に会えて光栄だよ。こちらはしがない剣士だ」
「俺様もある慎ましい城主……いや、違うな。なにせ今は、手元に城がない」
「あの……」
「それを言っちゃあ俺も同じよ。船のない海賊なんて商売にならんね。
――おい、俺の船って現代だとどうなってんだ? さすがに残ってねぇか?」
「私の剣と鎧もだ。それなりの品で妥協してやるから、さっさと用意しろ。
こんな粗末な格好では弟子の顔も見に行けん」
「俺様も城を取り返しに行く。
この後すぐにでもエァレンティアまで送ってもらうぞ」
「ですから……」
この横柄な態度。
やっぱりこの人たち、高弟のメンバーと同じ匂いがする。
気心が知れていない分、潤滑油を自任するカナでも辟易とした。
咳ばらいをもう一つ。
「皆様を穏やかな眠りから目覚めさせたこと、誠に恐縮に存じます。
まずは、ひとまずは、お聞きいただきたいのですが。
その万夫不当と語られる力、お借りしたく冥界よりお招きした次第で、」
「だぁからぁ」
と伝説の海賊が遮った。
「んなこたぁ、分かってんだよ、こっちも。
無駄な前置きは止めろ。馬鹿にしてんのか?」
「は……。
いえ……決して、そのようなことは」
「お前さんがその時間をいじくる術で、俺たちを墓から引っ張り起こしたのは、戦力にしたいからだろ?」
「えぇ……まぁ」
「だったら俺の船と、」
「私の剣と鎧」
「俺様の城もだ」
「が、無くっちゃ、話が始まらんだろうが。
歴史なんざ後の人間が好き勝手に脚色するのが常とはいえ、まさか五百年だか経つ間にこの俺が、素手の達人になってるわけじゃあるまい?」
「は……」
虚を突かれた思いだ。
「ご助力、頂けるんですか?」
「だぁからぁ」
と海賊はくり返す。
「どうせお前さんが術を解いたら、俺たちゃ骨に逆戻りだろ?
じゃあ選択の余地なんざねぇだろうが」
「…………」
そこまで分かっているのなら、普通もっと下手に出るものではないだろうか。
カナは頭痛すらしてくる――僕が短気を起こして、彼らを死体に戻してしまうとは、心配しないのか。
あくまで遜ることをせず、ペースとイニシアチブを常に堅持する辺りは、さすが英雄と言えなくもないが。
とにかく。
「感謝いたします。
御所望の品々は、すぐに手配いたしますので。
皆様には是非この世で、新たな伝説を刻んでいただきたく」
「おう。
けど、言っとくけど、お前さんと主従は嫌だぜ。
俺の自由の妨げになるってんなら、容赦なく敵だ。
――なぁ? そっちの御二方」
「うむ」と「あぁ」が続く。
本当にへつらうことをしない人たち。
「えぇ、それは、もちろん」
「つっても、二度目の人生をくれたのは確かだからな。頼まれごとはしてやる。
よっぽど気に入らなきゃ別だけどよ」
「有難う御座います」
「そんで? 俺たちは何をすりゃいい?」
ようやく話を聞いてくれるようで、カナはひとまず息を吐く。
そして、英雄たちの反応を確かめるように、慎重に告げた。
「現在、僕の師事する魔女様が、ある神をこの世に顕現させています」
「ほう」
「この神を狙う敵があり、皆様にはこれを討つため、お力添えを願いたく」
「よっぽど強ぇのかい、その敵ってのは」
「わずか四人の旅人ですが……。
中心になっている青年は、異能の力を持ちながら、神託者にも任ぜられている強敵です」
それを聞いた途端。
バキリ、と膳が叩き割られた。
城なき城主と名乗った男が、顔を憤怒に染めている。
その圧に、大鐘楼の屋根に止まっていた鳩が、一斉に飛び立った。
「あの……?」
「……詳しく聞かせろ、そいつらのこと」
まさか彼は、ジュンナイリクホと因縁があるのだろうか。
思いがけない反応に、カナは息を止めて思案する。
そんな緊張感の中を、最後の一人が何の気後れもなく言った。
「ちなみに。
今まさに、どこぞの神託者がここを昇ってきているが。
それとは何か関係あるのか」
「え」




