暦について
この世界でも朝がきて、昼が過ぎて、夕方になって、夜はふける。そしてまた朝に。
それはオレたちの世界と同じだが、そのディテールは中々異なっている。
ここで最も一般的に用いられている暦は、アオ暦という。
色の『青』かと思ったら、制定した人物の名だそうだ。グレゴリオとかユリウスみたいなものか。
アオ暦において、一年は十六ヶ月から成る。
すなわち、剣月・旗月・盾月・印月・槍月・鐘月・弓月・筆月・鎚月・織月・斧月・琴月・棍月・灯月・箙月・杯月。
ちなみにオレは『箙』=『えびら』を読めなかったし書けなかった。イグナに教えてもらった。
なおこのうち、剣・盾・槍・弓・鎚・斧・棍・箙の戦道具八つの月を、陽月。
旗・印・鐘・筆・織・琴・灯・杯の生活具八つを、陰月、という。
一ヶ月は四週間で、一週間は六日間。つまり計二十四日。
日付が取り分けネックで、なんと数字で進まない。
目・耳・舌・手・鼻・心、の順で巡る。
難解だろう?
畳みかけるように、月の初週だったら頭に『上』が付き、二週目には『中』。三週目は『下』で四週目は『裏』ときた。
整理すると、年明けは『剣月』の『上目の曜』であり、翌日は『上耳の曜』だ。
『上心の曜』で週が終わって、『中目の曜』と続く。
『裏心の曜』で月が終わって、『旗月』になるのだ。
月や日は職業人の吉凶を表している。
剣士にとって剣月は最も縁起がいい。
杯月の上舌の曜なんて、酒造家には祭日だ。
逆に琴月や鐘月の目日、筆月の耳日なんかは、感覚がバラバラになるとかで、音楽家や画家に忌避されるのだとか。
一年は三八四日となり、オレたちの世界より少し長い。
一日の時間も結構違う。
月と同じ十六が時として使われている。
が、一時間は六十分、ではない。イグナの計測によると、約八十四分三十秒。
一日はだいたい二十二時間五十四分だとのこと。元の世界より一時間も短い。
まぁ暮らしていれば全然違和感もないものだが。
日が昇れば朝で、沈めば夜。それだけだ。
さて、アオ暦について記述してきたが、実のところオレ自身はそれほど日付を重視して日々を送っていない。
定住しているならともかく、大陸間を旅していれば季節なんてバラバラだし。
ただまぁ、あんまり月日に鈍感に生きていると、いざ知り合いの誕生日、というときに気まずいことになりかねない。
というか、なった。
これが普段から世話になっている女性だったもので、余計に立つ瀬のないことに……。
イグナに記録を頼ろうかとも思ったが。そりゃあさすがに男として、な?




