転:破 ≪既視≫
普通に観光しているのと、同じようなものなのに。
「なぁーんか……ざわつく」
ピリピリと神経をあからさまに尖らせたアインが呟き、陸歩も同意の息を吐いた。
処は、カフェから移って商店街。
居並ぶ店はみな時計や、時計をモチーフにした菓子や衣類、食器や家具を商っていて、なかなかの品揃えだ。
これを全て子どもが運営しているというのだから、驚愕よりもやはり不自然を覚える。
イグナとキアシアが、ニリスの案内で物色に忙しい。
女子たちの横顔を眺めて、陸歩はまた息を吐く。
「なんだろうな……こう……っなんだろうなぁ」
「俺たちよぉ、何か忘れてるか?」
「……わかんない」
「あああ、むず痒い!」
脳裏を苛む違和感。
覚えているのは陸歩やアインばかりではない。イグナもキアシアも、程度の差はあれ同様で、それはこの街に着いてから強くなる一方だ。
コーヒーを振る舞ってくれた少年の紹介で、ニリスという少女に案内を頼み、街を探索しているが。
目につく景色の全部に、違和感。
「――アイン! ねぇアイン! 来て来て来て!ほら見てよ!」
「あぁ……?」
キアシアがぶんぶんと手招きしているが。
珍しいといえば珍しい、か。
彼女がアインを、これまでそんな風に呼びつけたことなどない。
陸歩と顔を見合わせたアインは、油断のない足取りで傍へ。
「どうしたよ」
「これ……時計の針の形したナイフ」
「あぁ。買うか」
即決する彼に、キアシアは怖々とした上目遣いを向けた。
「そう……よね? 買うわよ……ね?」
「…………」
黙り込み、手元の一振りをただ見つめるばかりの二人。
ニリスはきょとんとしている。
陸歩も背筋が冷たい。
陸歩も、それをアインが買うという、何か確信めいたものを、何故か抱いている。
これは。
この感覚は。
一体?
「ニリスさん」
イグナが慎重な口調で問う。
「このお店の裏は、もしかして、バルでしょうか」
「うん。そうだよ。
すごーい、どうしてわかったの?」
「いえ、なんとなく、直感で。
我ながら冴えていました」
と答えながら、仲間たちへ目配せを送った。
>>>>>>
イグナのワスプが耳の陰へと止まった。
【おそらく、みなさんも同じ違和感を抱いているかと思いますが】
彼女の声が、骨伝導で隠密に、はっきりと届く。
【ワタシ自身で検証した結果……これは、ある感覚と類似のパルスパターンです】
フォーナメリッツの地下。
街中の時計を連動させる広大な歯車機関の間を歩きながら、陸歩たちは密談を交わす。
といっても、言葉を送れるのはイグナからのみで、他の三人は視線や身振りを返すのがせいぜいだ。
アインが鼻を三度擦った。勿体ぶるなよ、という意味だろう。
ニリスは良い子で、そんな彼らを不審がるでもなく、あれこれと設備の歴史や謂れ曰くを諳んじ、通りがかる作業服の子どもらと可愛らしい談笑を交わしている。
【これは、デジャヴです】
既視感、ということだろうか。
初めてのことのはずなのに、なぜか既に知っている気がする。見たことある気がする。
そういう感覚。
あるいは、錯覚と呼んだほうが正しいか。
イグナは前を向いたまま、神妙に頷いた。
【あるいは、ワタシたちは本当に、この街へ……初めてくるのでは、ないのやも】
ふと、陸歩は振り返って腕を差し出した。
「あ、そこ、足元にあぶないかも」
ニリスの忠告も虚しく、キアシアが蹴躓いて、倒れ込んでくるところだ。
難なくキャッチ。
「あ、ありが、と……?」
「あぁ……」
示し合わせたかのように支えた陸歩、支えられたキアシアは、互いに確信に打たれていた。
多分……今の一連、イグナの言う通り、初めてじゃない。
「ニリスさん」
イグナが訊ねる。
「この後は、どちらへ案内して頂けるのでしょう?」
「うーん? そうだなぁ……」
少女は、顎に人差し指を当てて、しばし思案。
その素振りは背伸びして大人を真似ているようで、相変わらず可愛らしい。
「じゃあ、大鐘楼は?」
「大鐘楼」
「うん。街の真ん中にある塔で、てっぺんにおっきな鐘が置いてあるの。
上からフォーナメリッツが全部見渡せるから、いい景色だよ!」
――そのとき、陸歩に去来するものがある。
一望した街の風景。
安置された巨大な鐘。
突然停止する時間の中、現れる、、、
――経験していない記憶は仮初のもので、すぐに流れて消えてしまう。
「…………」
が、そこへ行かなくてはいけない気はする。
そして警戒だけが、心にいつまでもこびりついていた。
それは他の三人も同じ。
「それは。さぞ絶景なのでしょうね。
すみませんが、さっそく連れて行ってもらえませんか?」
「いいよ! じゃあ……あそこの階段から登ろっか!」




