表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
289/427

転:破 ≪既視≫

 普通に観光しているのと、同じようなものなのに。


「なぁーんか……ざわつく」


 ピリピリと神経をあからさまに(とが)らせたアインが(つぶや)き、陸歩も同意の息を()いた。


 (ところ)は、カフェから移って商店街。

 居並(いなら)ぶ店はみな時計や、時計をモチーフにした菓子(かし)衣類(いるい)、食器や家具(かぐ)(あきな)っていて、なかなかの品揃(しなぞろ)えだ。

 これを全て子どもが運営しているというのだから、驚愕(きょうがく)よりもやはり不自然を覚える。

 イグナとキアシアが、ニリスの案内で物色(ぶっしょく)(いそが)しい。 


 女子たちの横顔を(なが)めて、陸歩はまた息を吐く。


「なんだろうな……こう……っなんだろうなぁ」


「俺たちよぉ、何か忘れてるか?」


「……わかんない」


「あああ、むず(がゆ)い!」


 脳裏(のうり)(さいな)む違和感。

 覚えているのは陸歩やアインばかりではない。イグナもキアシアも、程度(ていど)の差はあれ同様で、それはこの街に()いてから強くなる一方だ。


 コーヒーを()()ってくれた少年の紹介で、ニリスという少女に案内を(たの)み、街を探索(たんさく)しているが。

 目につく景色の全部に、違和感。 


「――アイン! ねぇアイン! 来て来て来て!ほら見てよ!」


「あぁ……?」


 キアシアがぶんぶんと手招(てまね)きしているが。

 珍しいといえば珍しい、か。

 彼女がアインを、これまでそんな風に呼びつけたことなどない。


 陸歩と顔を見合(みあ)わせたアインは、油断のない足取(あしど)りで(そば)へ。


「どうしたよ」


「これ……時計の針の形したナイフ」


「あぁ。買うか」


 即決(そっけつ)する彼に、キアシアは怖々とした上目遣(うわめづか)いを向けた。


「そう……よね? 買うわよ……ね?」


「…………」


 (だま)()み、手元(てもと)一振(ひとふ)りをただ見つめるばかりの二人。


 ニリスはきょとんとしている。


 陸歩も背筋が冷たい。

 陸歩も、それをアインが買うという、何か確信めいたものを、何故(なぜ)(いだ)いている。


 これは。

 この感覚は。

 一体?


「ニリスさん」


 イグナが慎重(しんちょう)口調(くちょう)で問う。


「このお店の裏は、もしかして、バルでしょうか」


「うん。そうだよ。

 すごーい、どうしてわかったの?」


「いえ、なんとなく、直感で。

 我ながら()えていました」


 と答えながら、仲間たちへ目配(めくば)せを送った。


>>>>>>


 イグナのワスプが耳の(かげ)へと止まった。


【おそらく、みなさんも同じ違和感を(いだ)いているかと思いますが】


 彼女の声が、骨伝導(こつでんどう)隠密(おんみつ)に、はっきりと届く。


【ワタシ自身で検証した結果……これは、ある感覚と類似のパルスパターンです】


 フォーナメリッツの地下。

 街中の時計を連動させる広大な歯車機関(はぐるまきかん)の間を歩きながら、陸歩たちは密談(みつだん)()わす。


 といっても、言葉を送れるのはイグナからのみで、他の三人は視線や身振(みぶ)りを返すのがせいぜいだ。

 アインが鼻を三度(こす)った。勿体(もったい)ぶるなよ、という意味だろう。


 ニリスは良い子で、そんな彼らを不審(ふしん)がるでもなく、あれこれと設備の歴史や(いわ)(いわ)くを諳んじ、通りがかる作業服の子どもらと可愛らしい談笑(だんしょう)()わしている。


【これは、デジャヴです】


 既視感(きしかん)、ということだろうか。

 初めてのことのはずなのに、なぜか(すで)に知っている気がする。見たことある気がする。

 そういう感覚。

 あるいは、錯覚(さっかく)と呼んだほうが正しいか。


 イグナは前を向いたまま、神妙(しんみょう)(うなず)いた。


【あるいは、ワタシたちは本当に、この街へ……初めてくるのでは、ないのやも】


 ふと、陸歩は()(かえ)って腕を()()した。


「あ、そこ、足元にあぶないかも」


 ニリスの忠告も(むな)しく、キアシアが蹴躓(けつまず)いて、倒れ込んでくるところだ。

 難なくキャッチ。


「あ、ありが、と……?」


「あぁ……」


 示し合わせたかのように支えた陸歩、支えられたキアシアは、互いに確信に打たれていた。


 多分……今の一連、イグナの言う通り、初めてじゃない。


「ニリスさん」


 イグナが(たず)ねる。


「この後は、どちらへ案内して(いただ)けるのでしょう?」


「うーん? そうだなぁ……」


 少女は、(あご)人差(ひとさ)(ゆび)を当てて、しばし思案(しあん)

 その素振(そぶ)りは背伸(せの)びして大人を真似(まね)ているようで、相変(あいか)わらず可愛(かわい)らしい。


「じゃあ、大鐘楼(だいしょうろう)は?」


「大鐘楼」


「うん。街の真ん中にある塔で、てっぺんにおっきな(かね)が置いてあるの。

 上からフォーナメリッツが全部見渡(みわた)せるから、いい景色だよ!」


 ――そのとき、陸歩に去来(きょらい)するものがある。


 一望(いちぼう)した街の風景。

 安置された巨大な鐘。

 突然停止する時間の中、現れる、、、


 ――経験していない記憶は仮初(かりそめ)のもので、すぐに流れて消えてしまう。


「…………」


 が、そこへ行かなくてはいけない気はする。

 そして警戒(けいかい)だけが、心にいつまでもこびりついていた。


 それは他の三人も同じ。


「それは。さぞ絶景なのでしょうね。

 すみませんが、さっそく連れて行ってもらえませんか?」


「いいよ! じゃあ……あそこの階段から(のぼ)ろっか!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ