承:急 ≪既視≫
これでは普通に観光しているのと変わらない。
「これじゃあ、普通に観光してんのと一緒だな」
アインにもずばり言われ、陸歩は息を吐いた。
処は、カフェから移って商店街。
居並ぶ店はみな時計や、時計をモチーフにした菓子や衣類、食器や家具を商っていて、なかなかの品揃えだ。
イグナとキアシアが、ニリスの案内で物色に忙しい。
はしゃぐ女性陣の横顔、そのきらめきを眺めて、陸歩はまた息を吐く。
「まぁ……街の人の懐へ入ってくのも、情報収集の重要な一環だろ」
「呑気だなぁ。この街のどの程度までカナの息がかかってるかも分かんねぇんだぞ?」
「あのカフェのマスターやニリスさんがそうって?」
「さてね」
カフェでの茶飲み話のとき、マスターに訊いてみたのだ。
カナイズミ・アオという人物を探している、何か知らないか、と。鎌をかける意味も込めて。
答えは「心当たりにない」とのことで、そこでマスターは幼馴染だという女性を紹介してくれた。
ニリスと名乗った彼女もまた、カナのことは知らないものの、友人が多くあちこちに顔が効くから、訊ねて回ろう、と申し出てくれた。
仮に罠ならずいぶんと迂遠な気もする。
どこかへ誘い出そうというのなら……いい加減、寄り道が長すぎるし。
「リクホ! アイン! ほら見てよ! 時計の針の形したナイフ!」
キアシアがぶんぶんと手招きしているが。
「おー。うん、いいね」
「すげーすげー」
「反応悪っ! なによあんたたち、刃物好きでしょ!?」
「往来でなんてことを」
「あながち否定できんけどな」
やれやれ、と男衆も買い物に参加する。
渡されたナイフを表裏、一瞥ずつしたアインは。
「ん。会計」
即決。
刀剣ほどではないにしても、刃物ならば並々ならぬ拘りを持つであろう羅刹が、一目惚れしたのか。
俄然、興味が湧いた陸歩は、アインの手の中のナイフをしげしげ。
「そんなに、いい一振り?」
「あん? あー……うん……そうだな……」
何とも歯切れ悪く、刃を検め出したではないか。
アインは、うん……うん……と、どこか困惑したように頷いていた。
「名品だな。良質な合金だし、根元がしっかりしてるし」
「なんだよ、よく見もしないうちに買う気だったのか?」
「あぁ……なんか……。買っとくもんな気がして。
――だってよ、キアシアが選んだんなら、間違いないだろ」
「あら、そんなに信頼頂いて嬉しいわ」
からかうキアシアに、アインは頭を振る。
「それより、喉が渇いたぜ。裏の店でまた一服つけようや」
「まだ日が高いのにビールですか」
と言うキアシアも、口ぶりはまんざらでもない。
陸歩もノンアルなら炭酸が飲みたい気分で、酒場というのもいい案に思える。
人の集まる場所だし、カナのことを訊ねれば何か分かるかも。
あら、とニリスが微笑んだ。
「よくこのお店の裏手がバルだって知ってましたね」
「…………」
「え? どうしたんです?」
「…………」
>>>>>>
おかしい。
違和感が付き纏う
「…………」
フォーナメリッツの地下。
街中の時計を連動させる広大な歯車機関の間を歩きながら、陸歩は気もそぞろ。
イグナも、キアシアも、アインも同じ様子だ。
人の良いニリスは、そんな彼らを不審がるでもなく、あれこれと歴史や謂れ曰くを紹介し、通りがかる作業服の人と談笑を交わしている。
ふと、陸歩は振り返って腕を差し出した。
「あ、そこ、足元に気を付けて」
ニリスの忠告も虚しく、キアシアが蹴躓いて、倒れ込んでくるところだ。
難なくキャッチ。
「あ、ありが、と……?」
「あぁ……」
示し合わせたかのように支えた陸歩、支えられたキアシアは、互いに首を傾げた。
「ニリスさん」
イグナが訊ねる。
「この街に、観光客はよく訪れますか?」
「うーん、そんなにかなぁ」
「おや、これほど魅力的で興味深い街で、勿体ないことですね」
「ありがと。
でもほら、フォーナメリッツはあんまり開けてる街でも土地でもないからね。目的なく人の集まってくる場所じゃあないよ」
「ニリスさんも、案内がお上手なので、てっきり頻繁にこうしてらっしゃるのかと」
にひひ、とニリスは含みをある笑いをした。
「街歩きは私の趣味と実益を兼ねててね。
……私ね、夢があるんだ」
「ほう。……もしや」
思い当たる節でもあるのか。
イグナは上目遣い。ニリスが「どうぞ」と笑顔で促す。
「この街全体を模した時計を、作ろうとなさっている?」
「すっごーい! どうして分かったの!?」
「フォーナメリッツは大半の方が時計技師と聞いていますし、この街は一個の時計と言われてましたので。結びつけて、もしかして、と」
「そうなの! 私ね、この街を腕時計で再現したいの!
よかったら、あとで工房に遊びに来ない? まだ地図を図面に落とし込んでる段階なんだけどね」
「えぇ。是非お伺いします」
答えながら、イグナは主と仲間たちへ、そっと目配せ。
>>>>>>
カフェに戻った陸歩たちは、早めの夕食を囲む。
カウンターで、マスターとニリスが仲睦まじく話しているのを横目に。
「おそらく、みなさんも同じ違和感を抱いているかと思いますが」
声を落としたイグナが報告を上げる。
「ワタシ自身で検証した結果……これは、ある感覚と類似のパルスパターンです」
「勿体ぶるなよ」
歯痒そうにアインが身を乗り出し、先を急かした。
「これは、デジャヴです」
「既視感、ってことか?」
眉を寄せる陸歩。
初めてのことのはずなのに、なぜか既に知っている気がする。見たことある気がする。
そういう感覚。
あるいは、錯覚と呼んだほうが正しいか。
イグナは神妙に頷いた。
「あるいは、ワタシたちは本当に、この街へ……初めてくるのでは、ないのやも」




