英雄について
魔女の手下は少なくとも二人欠けた。
今ここにいるアイン。
レドラムダでユノハが討ったという、ヤーグラムが。
その欠員を、補填に動いてもおかしくはない。
連中が招き入れるとすれば、それは原初神・ナユねぇによって直接想像、創作された人物であるに違いない。
それは、この世界内では英雄と呼び習わされる人たち。
個人で強力な武力や魔力、あるいは魅力を備えた者。
常に運命というスポットライトに照らされている、特別で、煌びやかな傑物。
警戒の意味で、オレも英雄たちに目星をつけておこうか。
万一に彼らと親交を得られれば、魔女に誑かされるのを阻止できるかも。
一番始めに、もしかして、と思ったのはオレの師匠。
海上の華トレミダムの防人、マチルダ・ヴィスケス。
無双の剣の才を持ち、修業時代には数多の街を流浪して名を馳せたと聞く。
吟遊詩人に訊ねたら、持ち歌に師匠をモチーフにしたものがいくつもあった。
あと数世代も経てば伝説になるかも、とのこと。
はぁ。改めてすごい人なんだな……。
でも師匠なら、魔女に粉をかけられようと与することはないだろうし、心配もないか。
っていうか、もしかして防人の人たちは全員英雄に該当する?
ナユねぇは何人を作り出してたんだろう。
街主たちだってそうだ。
この世界における人の世は、街という単位がとりわけ重要だ。その街で中核にあるような人たちは、もしかしたら、原初神の祝福を受けているんじゃないのか。
レドラムダの女帝様や妹姫様もそうかも。
デカい教会の教祖様なんかもそんな気がする。
あとは勇猛な戦士。有力な冒険者たちとか。
意外と、心当たりは多いな……。
……ナユねぇは、そうやって山ほどの人物を詳細に描いて、地獄のように有り余る時間をやり過ごしていたのか。
『勇者』テオニシウス。
『歪街の巫女』カナン。
『まつろわぬ狼』エアリアロ。
この辺りの名前はよく耳にする。
勇者様は名高い。
フルネームでは、テオニシウス・バーンハイ・ビヒテンシュタイム、だったっけ。
確か東方の、ピオレオ大陸の貴族の次男坊だかで、遊学のために各地を巡っているとか。
それが聖なる運命に導かれ、仲間たちと共に、陰謀や邪悪を挫いているそうだ。
いかにもだね。
主人公っぽい。
会おうと思って会える相手は怪しいな。向こうも移動の多い身のようだから。
歪街の巫女は、所在が分かっているから有難い。
ノイバウン大陸果ての街の街主で、築城に関する特別な能力を有しているという話だ。
かの厳しい大地にあって、巫女が治める領域は例外的に豊かだそうだよ。
大変な美人でもあるらしい。つまり、それだけ豊富な魔力に恵まれているってこと。
折を見て訪ねてみようか。
それだけ高貴な人に、面通り叶うかは分からないけど。
まつろわぬ狼っていうのは今一番売れてる傭兵。
一番恐れられている傭兵でもある。
個人で、どこの兵団にも属さない文字通りの一匹狼。
金さえ払えば誰の下でもつくが、そのくせ誰の指図も受けず、自らの思うがままに振る舞うのだそうで。
そんなんじゃ味方にも疎まれそうなものだけど。
べらぼうに強く、その実力と上げる首級の数で周囲を黙らせるのだそうだ。
なんとなーく、この人の話を聞いていると、アインと似たような匂いを感じるな。
先にも触れたけど、吟遊詩人の唄はヒントになり得ると思うんだ。
語り継がれてこそ英雄だろ?
ただ、彼らから聞いた話でも精査は必要だと思う。
呆れたことだけど、名を上げたい武人なんかが、詩人に金を積んで自分の逸話を創作させたりするらしい。
というか神の時代から千年もした今だと、大半の唄がそういうもの。
俗っぽいなぁ。けど……詩人たちも食べていかなきゃいけないんだもんな。無責任に後ろ指さす気にはならない。
にしても、本物の英雄を見出すのは相当な手間だぞ、こりゃ。
もし見つけられたら。
もし出会うことが出来たなら。
オレも、彼らを積極的に仲間に引き入れるべきだろうか?
オレの旅の目的は既に変化している。
ナユねぇの身体を創り出すこと、から。
那由多の身体を失わせないこと、へ。
これから先、彼女の身に何が起こるかは定かでないが、魔女の仕業と考えるのが一番自然なのだ。
いずれ、彼女を取り戻すために、魔女とは本格的に事を構えることになるだろう。
そのとき、共に戦ってくれる英雄があれば、どれほど心強いか。
問題は、英雄を引き込めるほどの『徳』あるいは『得』が、オレにあるかってとこだけどね。




