表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
279/427

転 ≪手記≫

 手記No.39:『暗雲観測天文台』トマトマ


―― (とう)の月/裏耳(りじ)(よう) ――


 レドラムダ大陸で山といえば、まずは灼熱(しゃくねつ)活火山(かっかざん)グラネシアである。

 特異(とくい)な地形、特異な扉の樹。

 女帝が新年行事(しんねんぎょうじ)(おとず)れることもあって、大陸外にも名高(なだか)い。

 ガイドブックでもレドラムダの項目(こうもく)で、ずいぶんページが前のほう。


 だが、標高(ひょうこう)についてなら、霊峰(れいほう)モーリッツのほうが倍近い。

 そしてこちらの山は、グラネシアが宗教史と密接(みっせつ)な地であるのに対し、郷土史(きょうどし)的な要地(ようち)だ。


 モーリッツ。

 大陸の北西を()める巨大な山。

 初代女帝がその版図(はんと)を広げるにあたり、最も苦戦を()いられた土地だ。

 広く、高く、洞窟(どうくつ)が多く、気まぐれに天候(てんこう)を変える厳しい環境。

 屈強(くっきょう)な野生動物や、幻獣(げんじゅう)まで生息する、弱肉強食の世界。


 女帝の対抗勢力(たいこうせいりょく)が最後まで()()もった場所である。

 まつろわぬ山岳(さんがく)の戦士たちは結局、二代女帝の時代に(いた)るまで抵抗(ていこう)を続け、近隣(きんりん)の街や(とりで)へゲリラ戦を仕掛(しか)(つづ)けて、レドラムダを(おお)いに()(みだ)した。


 そんな地を(せい)し、平定(へいてい)してみせたのが初代女帝の懐刀(ふところがたな)にして、二代女帝の守護者であった、モーリッツ・ジエ。

 『貌無(かおな)しモーリッツ』の通り名で知られた人物で、年齢はおろか、彼なのか彼女なのかも(さだ)かではないという怪人(かいじん)である。

 レドラムダを暗部から()()てた、最強のスパイ・マスター……だそうだ。

 なにそれ。

 超クール。


 モーリッツはその能力を存分(ぞんぶん)発揮(はっき)し、敵勢力の奥深(おくふか)くまで(はい)()んだ。

 そして言葉や利害(りがい)寝室(しんしつ)や、その他ありとあらゆる手段を用いて、相手方(あいてがた)内情(ないじょう)丸裸(まるはだか)にしたという。

 あちらの派閥(はばつ)(あお)って、そちらの派閥と対立させ、じわじわと弱らせた。

 ある者は味方に()()み、ある者は暗殺。

 ある者は洗脳し、またある者は最初から彼自身だったとか。

 時間はかかったもの、敵は内側から確実に瓦解(がかい)していったのだ。


 お察しの通り、この山の名前は彼(と仮にしておく)の偉業(いぎょう)(たた)えて付けられたもの。


 さて、ここからレドラムダの天気について話を移そう。

 この大陸は(おも)に、北西からの風と雲によって空模様(そらもよう)を変える。

 で、それらは位置的に、最初に霊峰モーリッツへぶつかるわけだ。

 だからこの場所で天気を見張(みは)っていれば、とても正確な予報が出来るんだって。


 トマトマはそのために、二代女帝様によって置かれた観測所、天文台(てんもんだい)


 ……天文台って、こういうことだったっけ?

 天を()るなら、天に近いほうがいいって、まぁ、そう、なの、かな?


 なにせ、トマトマは空の中にある。

 詩的表現(してきひょうげん)……でもなくって、本当に雲海(うんかい)の中だ。

 レドラムダで一番高い山の、天辺(てっぺん)ではないものの、雲より()()た場所。

 すげぇデカくて立派な山小屋、みたいに言っちゃうと、安っぽいけど伝わりやすいかもね。


 さすがにこの辺りまで登ってくると、生物は(まれ)だ。

 ()けない氷に(おお)われた白銀(はくぎん)の世界。

 植物は、地面にペッタリと()()くような(しな)びた草くらいか。

 鹿(しか)猛禽(もうきん)が少数、生息(せいそく)しているが。彼らは強靭(きょうじん)な肉体を持っているが(ゆえ)にこの高度に適応(てきおう)できたにもかかわらず、他の生物によって下層(かそう)から追いやられたが故にこの高さで暮らしている。

 トマトマの周囲では、一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないモーリッツの大自然が、ほぼ手つかず。


 晴れた日には指で星に触れられるという。これは詩的表現かな。

 雨の日はすごいぞ。真っ黒な雷雲(かみなりぐも)一面(いちめん)(つつ)まれて、この世の終わりかと錯覚(さっかく)する。

 季節によっては空鯨(ソラクジラ)(わた)りが見れるんだとか。うぅん、今度是非(ぜひ)とも。

 複雑に(うず)を巻く風が、白く(すじ)になって素人(しろうと)の目にも見えて、熟練(じゅくれん)の観測員になら大陸中の明日の天気が読めるんだそうだ。

 所長さんにかかれば、近隣(きんりん)大陸の空まで分かるそうで、カシュカやノイバウンからも頼りにされているんだとか。


 扉の樹のおかげで、気の遠くなるような標高を登山(とざん)する必要はない。

 ()自体も天文台トマトマの内部にあるため、気圧差の心配もある程度(ていど)でいい。

 地表から雲の上まで一気に移動なんかしたら、本当だったら大変なことになる。人体なんか簡単に破壊されてしまうだろう。


 働く人たちは大変だな。

 天文台は(たく)みな建築技法(けんちくぎほう)魔術的防衛(まじゅつてきぼうえい)によって、半袖(はんそで)でも()ごせるくらいになってるけど。

 ときには調査と観測のために外にも出なくっちゃいけない。

 そういう場合は厳重に着込(きこ)んで、酸素樽(さんそだる)背負(せお)って、死をも覚悟して行くのだそうだ。

 遭難(そうなん)の危険は常について回る。

 高山病のリスクもあるし。

 観測員さんたちはみんな学者さんだけど、全員マッチョ。

 それくらいでなきゃ、やっていけないんだろうな。


 観測員さんたちの中には、ファミリーネームが『ジエ』の人が何人かいる。所長さんも。

 多分、そういうことなんだろう、と思うんだけど。

 この何人かを……同時に二人以上、見かけたことがない、気がする。

 うーん? そういうこと?


 こんな場所にオレたちみたいのが何の用かっていうと。

 半分は、神様を呼ぶため。

 オレの神様とちょっと話がしたくって、となれば、より空へ近いところだろうというのが女帝様よりのアドバイス。

 ありがたいことにトマトマにも(やしろ)を設置しててくれて、まぁそれが(こう)(そう)したんだと思う。無事、神様との交信できた。


 もう半分は観光。

 たまにはな。


 トマトマ、なんて名前の場所だからね。

 天文台の中、扉の樹の置かれた部屋は温室(おんしつ)になっていて、一緒(いっしょ)にトマトが栽培(さいばい)されている。

 (けっ)して作物を育てるのに(てき)した環境とは()(がた)いのだそうだけど、霊山(れいざん)トマトとしてお土産(みやげ)に喜ばれるんだそうだ。

 夕食はキアシアが腕を()るった。

 カプレーゼ。マルゲリータ。ガスパチョ。諸々。

 いや絶品(ぜっぴん)

 明日への活力が()いてくる気がする。

 本当に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ