この世界について
腑に落ちた、とはちょっと言い難い。
この世界はナユねぇの考えたもの。
……本当かぁ?
ナユねぇがオリジナルの世界観を空想するってのは、まぁ違和感ない。
あれだけたくさんのアニメや漫画や小説や、何より映画を貪ってきた人だ。自分のを練り始めるのはむしろ自然か。
にしても、この世界を、ってのは。
ナユねぇが好んでいたのはSFだとかスチームパンクだとかだったと思うんだけど。
アメコミ、ハリウッドのヒーローとか。
あぁでも伝奇モノもそこそこ嗜んでたっけ?
ファンタジーは、守備範囲外ってわけではなかったにしても。取り立てて、可もなく不可もなく摂取するに留まっていたように思う。
この世界を、宇宙開拓期のスペースコロニーやら異なる産業革命を経た倫敦やらでなく、あえてこのジャンルに仕立てたのは何故か。
……いや、インスピレーションに深い理由を探ろうとするのは不毛で、何より無粋かな?
読むのと書くのは違うと聞くし、そういうものかもしれない。
この世界はナユねぇの考えたもの。
ここに生きる人々すべてはナユねぇの被造物……と、言うのは正確ではないらしい。
あくまで『人々が暮らしています』と設定したのがナユねぇの仕事であって、ユノハやキアシアが生まれたのは、この世界の摂理によるもの。
要するに、世界の土台がナユねぇの作で、その上で繰り広げられる森羅万象は世界の自転。
言われてみれば、そりゃそうか。『ここにこういう草がこういう風に生えてます』なんてイチイチ考えてられない。
ただ、実際にナユねぇが考えた人間たちもいるはず。
登場人物を作って、冒険させなくっちゃ、せっかく舞台を描いても十分に楽しめないからね。
いわゆる主要キャラクターたちで、彼らはきっと他とは比べ物にならない武勇や逸話に彩られているに違いないんだ。
彼らは特殊で、彼らは類を見ないエピソードを背景にし、彼らは一騎当千にして万夫不当。
何人か心当たりはいる。
というか、魔女はそういう奴を十六人、集めたのだそうだ。
物語的補正をその身に帯びる、真の意味で神の寵愛を受けし十六人。
手強いわけだな。
なお、別にその十六人で全部じゃないみたい。
面識はないけど、勇者と呼ばれる人がいるって聞いてるもんね。あちこちで評判を立てているから、彼とかもきっとそうなんじゃないかな。
生き物が、オレたちの世界にはいないやつでも、なじみ深い見た目をしているのは、『世界は誰かの想像物』というのが理由か。
新種の鳥は、比較的考えやすいだろう。
対して、全く新しい新生物ってなると、ちょっとデザインが難しそうだ。
あぁでも、動植物もナユねぇが考えたものと、世界の中で自然発生したものとあるんだろうか?
幻獣は多分ナユねぇ発だと思う。世界観の花形だもんな。
女性のわりに虫系がほぼ全て大丈夫な人だったから、それらの大部分もそうかもしれない。
『私の考えた最強の生物』みたいのを見かけないあたり、ナユねぇには創作者としての才能があるっぽい。
果たして、肉の味までは設定していただろうか? 食べられることを想定していた? この前食べた馬、翼がすごく美味かった。
魔法魔術について、ちょっと疑問がある。
この世界の魔術は、『人々の想像したもの全てが共通サーバーに保存されていて、それを引き出して具現させる術』と言えるわけだけど。
『世界は例外なく誰かの想像の産物』という事実と、類似の業に思えないだろうか?
もしかして魔術は、この事実と、同レベルのもの?
となると魔術は全世界で通用するということに。メディオもそんなことを言っていたし。
……いや、オレが小さい頃に読んだ魔法使いの児童小説で、そんな設定はなかったか。やっぱ世界観次第なのかな。
ただ、少なくともこの世界の魔術の仕組みが、『世界の事実』に何かしらの形で噛んでいるのなら。世界を渡る術もまた、魔術の中にあるのか。
それを目論むあの女は、魔女を名乗って、魔術を自在にしているわけだし。
神様こそナユねぇの想像の、最も根っこの存在だ。
ナユねぇは、この世界内の概念一切合切に神格を与えて擬人化し、自治を可能にした。
意図してってことはないだろうけどね。
これによって世界の運営を強固に安定させたんだ……と、オレは分析してる。
もろもろ気付いたこと、勘付いたことがあるんで、この辺はタイミングをみてオレの神様にぶつけてみるつもり。不敬になるかな?
この世界は、ナユねぇが考えたもの。
魔女が連れてきた那由多は十六歳。
この世界を考えたのは、オレの時代のナユねぇだという。
つまり那由多は、正しくは原初神ではない。彼女がこの世界を閃くのはもっとずっと後のことだから。
とはいえ那由多とナユねぇは同一人物に違いなく、だから那由多にもこの世界を思いのままにすることは可能みたいだ。
想像の質とでもいうべきものが一緒だからかな。センスがナユねぇと同調するから。
……タイムパラドクスとか、起きないかね?
オレは那由多と知り合ってしまった。
ということは、オレにとっての運命のあの日、ナユねぇはオレを既に知っていなくてはおかしい。
ナユねぇは実際『そう』で、それを隠していた……あるかなぁ、そんなこと。
……今ちょっと、あまり深く考えないでおきたい。頭がこんがらがりそうだ。
それよりも、もっと重要なことがあって。
まだ那由多は、身体を失っていないってことだ。これから先の人生のどこかで、そうなってしまうってことだ。
なら。上手くすれば、ナユねぇはその身の不幸を、そもそも無しに出来るんじゃないか?
それこそタイムパラドクスの原因足り得るかもだけど。
それでも。
ナユねぇ。




