表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/427

後:承 ≪個室≫

 違和感の正体には、すぐ気が付いた。

 原初神(げんしょしん)

 この那由多(なゆた)は……。


「リクホさん、部活とかって何してるんです?

 私はねー、陸上部でハードルやってるんです。これでも中学の(ころ)に全国までいってるんですよ。すごいでしょ。

 地元新聞にも()った有望株(ゆうぼうかぶ)なんですよー、私。

 あ、それでリクホさん、私のこと知ってたのかな?」


 はしゃぐ那由多は、現実に()れてしまう前の、少女そのもの。


「リクホさん、趣味とかは?

 私、アクション映画とか少年誌とか好きで。

 ねー、こっちの世界でつらいって言ったら、その二つがないことかなぁ。

 でもここ、御伽噺(おとぎばなし)や漫画、フィクションでしか()()ないことで(あふ)れてて! 最高じゃありません!?」


 声を上げて笑う那由多は、夢に夢見る、少女そのもの。


「そりゃあ、いつかは帰りますけど。もうちょっと堪能(たんのう)してからかなー?

 だって、まだ見てないもの、見たいものがいっぱいあるんですよ! やってみたいことも!

 こんな経験、今でもちょっと信じられないですもん!

 だから私は、目いっぱいを持って帰りたいんです。

 リクホさんは?」


 目を(かがや)かせる那由多は、子どもそのもの、少女そのもの。


「えぇー、リクホさんってもうすぐ大学生なんですか?

 私、十六歳だから、リクホさんのほうがお兄さんですね!」


 この那由多は、ナユねぇより、ずっと若い。


 ナユねぇが一体いくつなのか、正確な年齢を陸歩は知らない。

 だが少なくとも、100年以上はあのカプセルの中で過ごしているのではないか……そう(さっ)してはいた。


 目の前のこの少女には、それだけの久遠(くおん)()てきた、疲労がない。

 あの、ナユねぇがふとした瞬間、(ひとみ)(のぞ)かせていた、諦観(ていかん)が。


 那由多は。

 おそらくは。

 ナユねぇの。

 過去。


「――(えん)もたけなわ、ねぇ」


 いつの間にか魔女が、那由多の後ろに立って、彼女の両肩へ手を置く。

 彼女へ()う、指。

 陸歩は自分のナイフとフォークを強く意識する。


 魔女は、隠した双眸(そうぼう)でそれに目ざとく気付きながらも、態度の余裕を(くず)さない。


「ねぇリクホくん、貴方と秘密の話をしたいのだけれどぉ? 可能なら二人きりで」


「……。あぁ。

 オレも、あんたとは腹を()って話したかった」


 席を立つ陸歩。

 那由多は、彼と、魔女とを交互に見上げている。


 二人ともが柔らかく微笑(ほほえ)む。


「原初神様は、引き続きお楽しみください」


「イグナ。キアシア。お相手を頼む」


 一瞬イグナは、「リクホ様」と言いかける。

 キアシアも同じ気持ち。

 一人じゃ危険だから、せめて――を、彼女たちは飲み込む。


「はい。かしこまりました」

「リクホ、気を付けてね」


 鈴剣を、陸歩は、手にしなかった。

 魔女もまた両手を広げて見せ、武器を所持していないことを示す。


「やっぱり紳士(しんし)ねぇ、リクホくぅん?」


素手(すで)で十分ってだけだ。

 ――場所、変えるのか」


「そんなご足労(そくろう)はさせないわ。

 オルトぉ? 『個室』を」


 (うなが)されるも、オルトは逡巡(しゅんじゅん)している。

 自分のボスを、敵と二人きりにしていいものか。

 だが魔女にもう一度名を呼ばれ、観念(かんねん)したらしい。


 陸歩と魔女を、影が包み上げた。


>>>>>>


「――――」


 気付けばそこは闇の中。

 右を見ても左を見ても黒。

 はっきりと目視(もくし)できるのは自分自身のみで、肌から五ミリ先はもう暗闇(くらやみ)


 陸歩は耳を()ました。

 感覚を(とが)らせた。

 これが(わな)で、自分が幽閉(ゆうへい)された可能性を検討(けんとう)した。


 椅子(いす)

 (こし)かけている、椅子。

 陸歩は今、椅子に腰かけている。

 他と同様に見ることは(かな)わず、触れてみる以外に確かめる方法がないが、どうも肘掛(ひじかけ)()もたれも無いらしい。

 簡素(かんそ)な椅子。


「――殺風景(さっぷうけい)(もう)(わけ)ないわねぇ」


 そっと背中へ、体温がもたれかかった。


「っ」


 (はじ)かれたように陸歩は、(ひじ)で背後を払う。

 ……手応(てごた)え、なし。

 何かがそこにいたかどうかさえ。()えない。

 闇ばかり。


「ほぉら。座ってぇ?」


「…………」


 またしても背後から、耳へ()きかけられる吐息(といき)


 やはり、ここは相手の領域か。


「椅子。どこだか分かんねぇよ」


「その場でいいのよぉ?」


 ゆっくりと腰を下ろすと。

 尻が椅子に乗る。

 ふと思いついて、また立ち上がり、その辺りを()ってみるが……足には何も当たらなかった。


 (あらた)めて座りながら。


「あんまり、気の()いた会議室じゃあないな」


「そうね。機密性(きみつせい)を重視し過ぎたかもぉ」


「、おい」


 また背中に体温と体重。

 どうも、魔女は背中合わせに、()りかかってきているらしい。


「いいじゃなぁい。

 こうしていれば、お互いがそこにいることが分かるんだし」


「…………。で?」


 魔女は笑った。

 声も体温も高い女だ。


「で、ってことはないでしょう、()きたいことがあるのは貴方でしょう?

 どうぞ。何でも答えようじゃないの。

 アタシの可愛い子どもたちを、手に()けなかったお礼」


「あっそ。

 じゃあ、あんたの名前は?」


 腹を抱えて笑い出した。

 陸歩の背中へ、女の体重がことさら(かたむ)けられる。


「パぁス、その質問は答えられませぇん。

 いきなり急所を()いてくるのねぇ、リクホくん。

 ……そんなのよりぃ、この世界はなんなのかとかぁ、あの原初神は誰なのかとかぁ。

 ()いてよぉ。ねぇ?」


「…………」


 わざとらしいほどに、しなを作られ、陸歩は襟足(えりあし)逆立(さかだ)つ気がする。


 この世界は何なのか。

 あの少女は、誰なのか。


「――あれはナユねぇが、まだ身体を()くす前だ」


「うん」


「それが、原初神……?

 この世界の根源(こんげん)の神だと?」


「この世界はね、彼女が(つく)るの」


 無意味と分かっていながら、陸歩は思わず()(かえ)る。

 闇ばかりが広がっていた。

 そこにいる相手を()(ただ)そうにも、(つか)みかかれないのが、ひたすらにもどかしい。


「ナユねぇが、この世界を、創った……っ?」


「今のあの娘じゃないわ。

 きっと、貴方の言うナユねぇ――身体を()った那由多さまが、この世界を創造するのね。

 アタシは、それよりずっと前、まだ若く目覚める前の彼女をお呼びしたの」


 馬鹿な、と陸歩は言い切れない。

 世界創造。

 ……法螺(ほら)とも言い切れない。


 だって、ナユねぇは特別だった。

 身体のほとんどを欠損させて、なお生存し続け、不老不死の特性を(しめ)し続けたのだから。


 いや、だとしても。

 世界創造、なんて。

 陸歩の中に根付(ねづ)く、科学の常識が、納得の邪魔をする。


「ねぇリクホくん。

 世界ってどうやって出来ているんだと思う?」


「…………」


 空間を創るのか。

 時間を()むのか。


「ねぇリクホくん。

 世界って、何だと思う?」


「……お前は。知ってるってのかよ」


「もちろん。だって造ったことあるものぉ」


「お前が?」


 そっと微笑(ほほえ)む気配。

 そして、魔女は「きっと、あなただって」と付け加える。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ