表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/427

後:起 ≪対面≫

 (すす)められるより先に、勝手に着席した魔女は、さっそく手近(てぢか)な料理を(つか)()る。

 焼きたての骨付(ほねつ)(にく)()いて、上がる湯気(ゆげ)と香りに歓声(かんせい)()らし、はふはふと頬張(ほおば)った。

 その食べっぷり。


「おいしっ! おいひい! えーなにこれぇ、うンまっ!」


「ま、魔女様……?」


 オルトの動揺(どうよう)も何のその。

 品も(つつし)みもあったものでなく、ひたすらがっつく魔女。


「っ! ぐむっ、っ!」


 とうとう(のど)()まらせた。

 ざっくりと開けた胸元(むなもと)を、(こぶし)で必死に(たた)いている。

 完全に無表情のイグナがグラスでなくジョッキで水を渡した。


 ぐび、ぐび、ぐび。


「――っはぁ! はぁー、死ぬかと思ったぁ」


「そうですか。それは()しいことをしました」


「あぁん、イグナちゃんったら、相変(あいか)わらずアタシ好みにクールぅ」


()()れしく呼ばないで(いただ)きたい」


「はぁーい、ごめんなさーい。

 ねぇお酒ないの?

 あ、アタシ持ってこようか? お土産(みやげ)をね、準備してるんですよ、こっちもちゃんと」


「――魔女様!」


 オルトが(さけ)んだ。

 ようやく彼は、料理から魔女の注意を勝ち取り、(にが)()った顔で()う。


「なんで……こんなとこに……なにを……?」


「そりゃあ。飛んでくるわよ。決まってるじゃない。

 あ、違うのよ、オルトのことが心配だで、よ?

 美味(おい)しそうなものがずらっと並んでたからとかじゃなくってね? ホントに」


「は……。

 こ、ここでコイツら、やりますか! 今!」


 はぁ? と魔女は首を(かし)げた。


「やんないわよ。どうせ勝てないもん。オルトだって負けたじゃん」


「…………」


 ぐうの音も出なくなったオルトは、歯を()いしばって恥辱(ちじょく)()える。


 つまり、他に増援(ぞうえん)はなし、という意味か。

 陸歩がそう考えたとき。


 (ふたた)び、樹の扉でノブが回った。

 半開(はんびら)きにした向こうから、そっと顔を(のぞ)かせるのは。


「おーい……? 魔女さーん?」


「っ、」


 オルトが目を()く。

 陸歩も呼吸を(みだ)した。


 そんな男子たちを面白(おもしろ)がるように口角(こうかく)を上げた魔女は、態度を丁寧(ていねい)豹変(ひょうへん)させてから()(かえ)る。


「はい原初神(げんしょしん)様。

 ごめんなさい、今お呼びしようと思ったところですわ。

 どうぞ、いらして?」


 おずおずと出てくる少女。

 (うし)()に扉を閉める少女。

 一身(いっしん)に注目を()びて気後(きおく)れしている少女は。


 ――ナユねぇ。


「原初神様!?」


 陸歩の(つぶや)きは、オルトの声に()()される。


 彼は今度こそ絶句(ぜっく)している。

 魔女自身がやってくるのは、まだしも。

 だが、絶対の貴賓(きひん)にして、その身に万が一にも(こと)があってはならない原初神を、この場に()させるなんて。


「魔女様、なンでですか!?」


「彼が、貴方(あなた)を殺さなかったからよ」


 反論(はんろん)(はさ)ませない、女王の冷たさで、魔女は言った。


「オルト。リクホくんは、貴方を殺さなかった。

 カナとリャルカも殺さなかった。

 彼は、敵であれば殺す人、ではないの。

 だから原初神様をお()れしても平気なの」


 ねぇ? と流し目を送ってくる魔女に。

 陸歩はため息だけを返す。


 原初神がぺこりと頭を下げた。


「あの、今日はお(まね)きいただいて、ありがとうございます」


 果たして魔女は、彼女に何と言って連れてきたのか。

 陸歩たちとしては、高弟の誰か、あるいは魔女本人がやってくるくらいの想定でいたのだ。

 まさか、(もっと)も会いたかった人物が、現れるとは。


「あぁ、いえ……」


「たいしたお()()しも出来ないですけど、どうぞ」


 気の()いた返事も出来ない陸歩に()わって、キアシアがにこやかに応対する。


「そんな、たいしたことありますよ! すっごく美味(おい)しそうです!

 ――あ、ちょっと待ってくださいね」


 そして()(かえ)り、そこに立った扉の樹を、こっちから見たり、あっちから見たり。

 しきりに枝振(えだぶ)りを確かめて、「うん、なかなかの出来栄(できば)え!」と(つぶや)いている。

 かと思えば両掌(りょうてのひら)を向けて、むむむと(うな)って。


 ぱ、と枝に花が咲いた。

 ぱぱぱ、と次々に咲いた。

 辺りに初春(しょしゅん)の甘さが香る。

 花吹雪(はなふぶき)()う。


「お見事(みごと)です」


 魔女がうっとりと言うと、原初神は「えへへ」と(ほほ)()いた。


「さぁ、原初神様。そちらの席へどうぞ。

 リクホくん? いいわよねぇ?」


「あ、あぁ……」


「じゃあ、失礼しますね」


 目の前に、原初神に着席され、陸歩は呼吸も難しい。

 にっこりと微笑(ほほえ)まれて、自分の返した表情は、どんな出来(でき)だったか。


 さっと横からイグナが、グラスへ炭酸水を()ぐ。

 原初神はあっと顔を喜びに(かがや)かせた。


「あー! 貴女(あなた)、私の作った錠前(じょうまえ)! してくれてるの?」


「はい、リクホ様よりお預かりしております。(わか)りますか」


「うん、匂いでね!

 ねぇ、見てもいいですか……?」


「どうぞ」


 自らの襟元(えりもと)()()るイグナを、(のぞ)()んで「おぉー」と感心した様子。


「ねぇ、貴女(あなた)って。カラクリ、とはちょっと違うよね……?

 もしかしてなんだけど……。

 それから、貴方(あなた)も。ジュンナイリクホさん。この世界で、苗字(みょうじ)・名前の順の人、私はじめて会うわ」


 もしかして、だけど。


「貴方たちって、私と、同じ世界から来たんですか……?」


「――っ」


 陸歩の総身(そうしん)へ、衝撃が()()ける。

 ということは。

 やっぱり、この人は。


「……。循内陸歩(じゅんないりくほ)です。多分、そうです……。

 オレ、群馬出身で」


「本当に!? 私、宇井浜(ういはま)那由多(なゆた)です! 私も群馬ですよ!」


「ナユタ、さん。

 オレのこと……わかんない?」


 え、と那由多(なゆた)が目を見開く。

 それから申し訳なさそうに、苦笑(くしょう)を浮かべて。


「えっと……ごめんなさい、どこかで?」


「あーら、ナンパかしらぁ? ダメよぉリクホくぅん?」


 粘っこく、魔女が口を(はさ)む。

 粘っこく、魔女が(わら)っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ