破:前 ≪手記≫
手記No.12:『人形の産土』クレイルモリー
―― 追記①:棍の月/下鼻の曜 ――
この街には、季節感というものがない。
カシュカ大陸はとっくに秋を過ぎ、冬に差し掛かっている。
けれども巨大カラクリドームに包まれているクレイルモリーは、晩春の気温のままで、半袖が丁度いい。
相変わらず人形の街。
相変わらず音楽の街。
相変わらず曲芸の街。
なにか、同じタイプのカラクリ人形をよく見かける。
中性的な美形で、髪色や髪型や衣装にバリエーションはあるものの、あっちにも、こっちにも、同じ顔が。
聞けば、いま流行の最新モデルで、性差すら超越した『完璧な人間』を模しているとか。
『完璧な人間』、ねぇ。
物騒だこと。
うっかり神格でも獲得しちゃったら、どうすんのかね。
クレイルモリーの人形師たちは、そんなこと、欠片も考えているはずないだろうけど。
人形一座はどうしてるかなって思ったが。
現在も巡業の旅に出ているところだそうだ。
会えないのは残念。
今頃はグィンガルム大陸じゃないか、とのことで、もしかしたら入れ違ったのかも。
座長たち、元気だといいな。
メディオの住所を探すのには、まぁまぁ手こずった。
何せこの街、景色がじっとしてないから……。
にしても、クレイルモリー民すら正確には把握できていないとは。ほんっと、感覚で生きてる人たちだ。
散々回り道をして、カラクリに訊ねて、ようやくってとこ。
かつて、カラクリの理を教わった天才に、いま改めて会いに来たのは、イグナの用事。
彼女は、賢者の監獄で得た設計図を実現できる者は、この世界ではメディオしか知らない、と主張した。
いい機会かな、とはオレも思う。
メディオと最後に会ったときは、衝撃の事実を突きつけられて、こっちの頭はいっぱいで……。
いっぱいなのは今も一緒かも知れないけど。
オレって、メディオを、どうしたいんだろう。
向こうはオレを友達だって言ってくれてる。
オレは? メディオを?
分からない。
だから、それを確かめる意味でも。
きちんと話さなきゃ。
友で在り続けるのか。
ちゃんと敵になるのか。
もしくは、友達のまま敵対するっていう、難しいことをしなくっちゃいけないかもしれないし。
彼は、オレの恩人なんだもん。
前回のあの別れからずっと、なんていうんだろ、喧嘩別れ? とはちょっと違うんだけど。
仲直りを出来ていないみたいな、居心地の悪さがあったから。
みたいな感じで来たんだぜ、オレは?
なんでメディオんちの家庭の事情に、さっそく深入りしてんだろうね。
とはいえ放っておくわけにもいかない。
こんな状態のメディオに、こっちの用事を押し付けるもの気が引けるし。
なんて考えるあたり、オレにとっても彼はやっぱり友達なのかも。
とりあえずオレは家の大掃除。
アイネさんのことはイグナとキアシアに任せたし、差し当たって、オレにやれるったらそのくらい。
片付けは得意なほうって自負してる。
でもこの量……一日や二日じゃ済まないぞ……。
たくさんいるメディオたちはあんまり役に立たない。
こいつ、掃除中に出てきた古雑誌を読みふけるタイプ。
いるものといらないものの判別だけさせて、あとはオレがやるほうが効率的だ。
意外にもアインは協力してくれている。
連れてこられただけの、元同僚の家の清掃作業なんて、手伝う奴とは思わなかった。
雑巾がけの姿は堂に入ったもの。
オレも師匠の道場じゃよくやったけど、雑巾がけってもしかして、本当に剣の道に通じてる?
そろそろ夕食の時間なんだけど。
どうしたもんかね。
女性陣は未だ取り込み中の様子だし。
クレイルモリーは外食にも出前には向かない。
こう言っちゃあなんだが、そもそもあまりまともな飲食店がない。
どうも、カラクリの街だからか、人々は食事を給油と同程度にしか考えてないらしい。
オレもアインもメディオも、料理には向かない。
この中なら、まぁオレが一番マシかなと思わないでもないけど。
旅の間はイグナに頼りっぱなし、キアシアに頼みっぱなしだったもんだから。
メディオは言わずもがな。
一個で腹が膨れるキューブ、だとかいうのを提案してきたが、丁重に遠慮した。
アインは、塩振って焼く、以外の手段を身に着けていないとのこと。
ワイルドで結構だけどね。
もうちょっと精細が欲しいってのは、贅沢じゃないはずだ。
「…………アイネのご飯が食べたい」
ぼそりと、メディオの一体が呟いた。
心中は察する。
やっぱ、どうにかしてやりたいな。




