表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/427

承 ≪地図≫

 適材適所(てきざいてきしょ)

 それこそがナルメルク商会、ヒューイ・ナルメルク会長の金言(きんげん)である。


 その座右(ざゆう)(めい)に従って、彼はどんなガラクタでも集める。

 世界中を見れば、それを欲しがっている人間は、必ず存在するから。


「神の(つく)()した神聖なるこの世に、本当に不要なものなど存在しません」


 いるもの・いらないもの、は環境状況・風土風習・慣習常識によってたちまち変わる。

 いらないものなら安く売ってもらえる。

 いるものなら高く買ってもらえる。

 適所から仕入(しい)れた適材を、適所へ(おろ)す。

 商人の基本にして本質である。


 適材適所。

 またそれは、ヒューイ会長の会社運営のモットーでもある。


「人はそれぞれ、得手(えて)が異なる。

 だからこそ、従業員のそれを見定め、最も力を発揮(はっき)できる場を与えることこそが、雇用主(こようぬし)の腕の見せ所です」


 この場合は適『才』適所と言ったほうが正確かもしれませんね、とヒューイ会長は言う。


 ゆえに商会は徹底的に部署(ぶしょ)を細分化されている。

 次々に案内されるフロアに、(つら)なる大小さまざま(いく)つもの、()()(しつ)(かかり)

 商品があまりに多様で、取り扱う社員をばらけさせないといけない、というのも理由だろうが。

 これこそ、適所、を()()りにするため。


 そんな大企業が縦に横に連携し合う、その相互システムはなかなかの見ごたえだ。

 一枚の注文書を追いかける形で、ヒューイ会長に案内される陸歩たち。


 注文書を集め、種類と日付と街ごとに分配する部署。

 注文書の(うつ)しを作成する部署。

 注文書の写しを保管する部署。

 注文書を適切な部署へ配達する部署。

 注文の品を(そろ)える部署。

 注文に従って在庫から品物を取り出す部署。

 注文の品を包装(ほうそう)梱包(こんぽう)する部署。

 注文者への発送準備を整える部署。

 配達員を手配する部署。

 まだまだ続く。


 だが陸歩の童心(どうしん)をなにより強く刺激したのは、社内中に()(めぐ)らされた、セピア色のパイプだ。

 社内郵便に(もち)いられる気送管(きそうかん)である。

 なんとも、スチームパンクで、クール。

 試しに触らせてもらったが、書類入りのカプセルをこの(くだ)()めると、流れる空気に乗じて運ばれて行く。

 社屋(しゃおく)の地下にある専門部署が、これを受け取って、送るべき部署の管へ詰め直すという仕組(しく)み。


「送風には魔法の力を使っています」


 カピタ砂漠中に、商会の立てた風車(ふうしゃ)があり、そこに描かれた魔方陣と、気送管内に描かれた呪紋(じゅもん)が連動しているのだそうだ。


「魔力が老朽化(ろうきゅうか)する前に、同じことの出来るカラクリが、発明されればよいのですが」


 注文書の記録、在庫の記録管理にも、魔具(まぐ)が導入されている。

 巨大なガラスの(びん)の中、羊水(ようすい)()かる大きな脳みそ……龍の脳を元にしたというその魔具は、何億という文字を記憶し、ケーブルで接続された自動筆記魔具によって自在に出力できるという。


「いやはや……なんとも」


 陸歩はため息を()いた。


「さすが、世界に(るい)を見ない大商会。

 どこの街でも見たことのないようなものばかりです」


「お()めに預かりまして。

 では、弊社(へいしゃ)のとっておきを、どうぞ」


「――――」


 招かれたフロアに。

 陸歩は、イグナも、キアシアも、アインだって。

 息を()んだ。


「これは」


 (かぎ)だ。

 (おびただ)しい鍵。

 透明のケースに収められ、ずらりと並ぶ鍵、鍵、鍵。


 奥の壁には、一面を(おお)うほど大きな地図。

 要所要所に立てられたピンには番号が()られ、鍵たちのケースにもそれぞれ番号が。


 どんな宝物庫となら、この部屋は比べられるだろうか。

 これを集めるために、どれほどの(ざい)(とう)じられたのか。


「あの(うわさ)は、」


 陸歩の声も、つい上擦(うわず)る。

 咳払(せきばら)いで自分を落ち着けて。


「本当なんですか?

 ナルメルク商会は、全ての扉の樹の、鍵を持っているって……」


 ということは、あの地図は、世界地図ということになる。

 前人未踏(ぜんじんみとう)の地がいくつも残る、この世界全土の地図など、存在するとも思っていなかったのに。


 ヒューイ会長は、力強く(うなず)く。


「はい、全てです。

 もしここにない鍵をお持ちなら、()()で買い取らせていただきますよ。

 ――ナルメルク商会は、世界の果てまで行ってきました。世界の外縁(がいえん)を見てきたのです」


「…………」


 思わず、陸歩はアインを見る。

 魔女ならば同じ(たくら)みをしたことがあるのでは、という意図で。

 彼は肩を(すく)めて「知らん」と示しただけだった。


 イグナが興味深そうに進み出る。


「つまり、そちらの地図は、世界の果てまでが、(しる)されたものでしょうか。

 ……四角くないのですが」


 彼女の言う通り、大陸や海洋が描かれているそのキャンバスは長方形でなく、アメーバのような不定形だ。

 だがヒューイ会長は、それを未確認でも不備でもないと言う。


「はい。少なくとも五年前に確認した段階では、世界の(ふち)は、そういう形をしています」


「……これでは、どうやっても、(きゅう)にならないかと思われますが。

 地球儀はないのですか」


「……球? 地球儀とは?」


 いったい何のことだろう、会長はそういう素振(そぶ)り。


 その意味。

 きっかり十秒間考え込んだイグナは、(おの)が電脳の(みちび)()した答えに、驚きに目を見開く。


「つまり、この世界は、どこまでも、平面で続いているのですか?」


 球に閉じていない大地。

 その事実に、陸歩も思わず空いた口が(ふさ)がらない。

 自分たちの故郷と、この世界は(こと)なるのだと、ここまでで十分に心得(こころえ)てきたつもりだったけれど。


「じゃあ……果てってのは、本当に、果て?」


「えぇ。私もこの目で見ました。

 あの地図の切れ目のところで、空と海と大地は終わっていた」


「どんな、場所なんです……?」


 古代の地球平面説を思い出しながら、陸歩は(たず)ねた。

 その先から宇宙の闇が始まり、海水が大地の断崖(だんがい)から、滝のように虚空へ流れ落ちている……そんなイメージか。


 ヒューイ会長は、勿体(もったい)ぶるように、たっぷりと(ふく)(わら)いしてから、答える。


「夢のような景色でしたよ。文字通り、比喩(ひゆ)でなく、ね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ