狩りについて
今でも鮮明に思い出せる。
この世界に来て、初めて絞めた動物は、ウサギだった。
あの感触。あの温かさ。
何より、あの肉の味。
イグナは自分がやろうかと申し出てくれたけど。
オレは、これから頂く命に無責任になりたくなくって。
……負の部分を全部イグナに押し付ける、そんなみっともない真似が嫌で。
彼女の指導の下、その小さく白い獣の首を折ったんだ。
分かっているつもりだった。
でも、綺麗にパッケージされた肉しか知らなかったオレが、そのことを本当に理解したのは、この時だろうな。
生き物は、生き物を食べて、生きてるんだってことを。
「いただきます」
その言葉に、その日、本当の意味で心が篭ったんだ。
沁みたよ。
焚火で炙っただけの肉は、濃厚で。
沁みたとも。
以来、旅の中で色んな命を食べたように思う。
街に滞在しているより、未開の地を歩いている時間の方が長いオレたちだから、狩りは頻繁にしている。
手持ちの食料も限りがあるし、動物性たんぱく質は日持ちも問題になるから、その場で獲れるならそれが一番都合いい。
獲物は、そこに生息する生き物なら、なんでも。
キアシアがついてきてくれるようになってからは、味についてはどうにでもしてくれるからね。
前述のウサギや、鳥、シカ、イノシシなんかが見つかれば上等。
罠を仕掛けるってことは滅多にないかな。
走って追いかければ、十分に捕まえられる。空に逃げられたらジャンプするか、石礫を投げるかだ。
それ以外では、イグナのワスプに頼ったり、最近ではキアシアが狙撃で仕留めたり。
クマも、可食部が多いから有難い。
とはいえ、独特の硬さと獣臭さがあって、ちょっと食べづらいかな。
あぁ、でも。そういえば。
ある村で、人間の味を覚えてしまったクマが出没して困っている、との相談を受けて、これを狩ったことがあった。
村人の催す宴席に上がったそのクマは、他の個体より明らかに美味しくて……いや、うん。ちょっと、その理由とかは、追及しないでおこう。
狼も食ったことがある。
これはまぁ、群れで襲ってきたから返り討ちにして、その際に一頭を殺してしまったものだから。責任を取る意味でも、頂いた。
それから犬は殺さないでおこうと誓っている。
あと爬虫類。
蛇、カエル、トカゲ。
この辺への抵抗感なんて、もはや無いな。
全然美味い。
特に甘辛く煮てもらったやつがすげー美味い。
ワニも食べた。
この時はオレたち、割と深刻な食糧難に陥っていて、そんなタイミングに河で見つけたワニ。
一も二もなく飛び込んだよね。
その晩は、ステーキだ。
あれは本当に……天の恵みかと。
その他で特筆するべきといえば、虫かなぁ。
イナゴとかバッタとかだったら、狩りっていうより採取って感じだけど。
処によっては、いるんだ。カンブリア紀かよってサイズの、クモとかサソリとか。
振り返ってみれば、よく食べたもんだと思う。でもそのときは抵抗なく食べちゃった。先に似たような大きさのヤシガニやヤドカリと遭遇してたからかな。
毒抜きや毛抜きが厄介とかで、キアシアの受けはよろしくない。
狩った獲物を食べきれない場合は、干したり燻したりして保存する。
捨てたりは絶対にしない。それは最低限の礼儀ってもんだ。
愉しむための狩り、なんてのも、オレはしたくないな。
骨や牙なんかも取っておいて、街で業者に卸す。
薬や呪具や、楽器や煙管の材料になったりするので、結構いい値段が付くんだ。
獣によっては皮も持っていく。
とまぁ、ここまで書いてきて今さらなんだけど。
オレって太陽光があれば、食事を抜いても平気だったりする。
するんだけど。
やっぱ肉を食べると、腹への力の入り方が違うんだよなぁ。
血液の温度が上がるっていうか。
活力が湧いてくるっていうか。
健やかさのためにも、やっぱり定期的な食肉は必要かな。
師匠には剣の他に、漁の仕方、それから狩猟の仕方も習った。
獲物を必要以上に傷つけない、痛めつけないためには、それなりの腕がいる。
野生の獣といえども、尊厳を侵すようなやり方で肉を手に入れるのは不道徳だ。
可能なかぎり、急所への一撃でもって、苦痛なく一瞬で済ませること。
と、師匠は教えてくれた。
今日は、上手に出来たと思う。
野生の水牛。
その太い首を、一刀のみで、すとんと落とせた。
捌くところまではオレがやる。
その後は、キアシアにバトンタッチだ。
獲った命に感謝して。
神の恵みに感謝して。
「いただきます」




