余暇について
年がら年中、旅をしているオレたちだけど、なにも街にいないときはずっと歩き通しってわけでもない。
タイミングを見て、休憩を挟むし。
日が暮れればテントを張って野営をするし。
キャンプ地のロケーションが良ければ、あるいは天気が悪くて出発に不向きなら、丸一日を休日にすることもある。
そんな隙間時間には、オレたちも様々な趣味で英気を養うのだ。
一番多いのはやっぱり、読書かな。
腰を下ろして靴の紐をほどき、落ち着いた気持ちで物語や論理の世界に没頭する。これが、よく身体を動かした後には心地いい。そのまま寝ちゃってもいいし。
一応、オレたちの間ではルールが定めてあって、リュックに入れていていい本は一人二冊まで。
そこまで厳格に決めてるわけでもないけどね。
あんまり冊数がかさむと、その分荷物が重くなるから。
だからオレたちは街に滞在している間に、次の目的地まででちょうど読み切れるくらいの本を見繕う。
読み終わったら古本屋へ売却だ。
そうして今までいくつもの本を、過ごしてきた。
読めば一瞬で記憶しちゃうイグナも、お気に入りの本の頁をめくるのは特別な楽しみらしく、いつも二冊を携帯している。主に詩集を。
歌や音楽のときも。
これは獣避けの意味があったりもする。
逆に獣の種類によっては、招いてしまうこともあるから、多少注意が必要だけど。魔物が寄ってきたりしたら目も当てられないしな。
イグナに任せれば声帯を変化させて、あらゆるの名盤を完璧に再現してくれる。ワスプで楽器も作れちゃうし。
機嫌さえよければ、キアシアも歌ってくれることも。料理中の鼻唄でも察せられるように、彼女の歌唱力は天使のそれだ。本人が恥ずかしがって、しょっちゅうは聞けないけどね。
意外なことに、アインは楽器が出来る。低く渋く響く弾き語りは、遠く置き去りにした北方の故郷を謳ったものだそうで、どうしてなかなか、涙腺に迫った。
オレは、焚火なんかをじっと眺めていると、いつの間にか歌っているらしい。これが本当に無意識で、何をどう発声しているのかも全く覚えてない。はっと我に返ると、イグナが「お見事でした」、キアシアが「続きは?」なんて言ってくれるんだけど。照れちゃうぜ。
水場が近ければ釣りもする。
飯にもなるから趣味と実益の兼ねてだな。
いや、本気で魚が必要となれば、イグナがワスプで獲るから、わざわざ釣り糸を垂れるのはやっぱり趣味か。
一度、釣り針に付けた虫にカエルが食らいつき、このカエルを巨大な肉食魚が飲み込んだ、なんてことがあったっけ。
十分な深さと透明度の水なら、銛を持って素潜り。
オレはどっちかっていうとこっちのが好きだね。
『アオライ』と呼ばれる、この世界の将棋があって、オレたちも折り畳みのを一式持っている。
剣や盾や旗や印、要するに十六月をモチーフにした駒を取り合って、勝負するゲームだ。
これはイグナがまず最強。彼女の計算能力が弾き出す最善手は正確無比。
オレは、ルールは覚えたけど、あんまりやらない。
どちらかといえばキアシアが好んでいて、よくイグナに指導してもらったり、最近ではアインと対局したりしている。何手詰め、とかを考えるのが、パズルみたいで楽しいとも言っていたっけ。
スポーツは滅多にしないな。
それでもキャッチボールくらいは、か。
剣の素振りは日課でしてるから、あんまり余暇って感じじゃない。
あんまり退屈で、ナイフで木彫りをしたことも。
それなりに集中できて、気が紛れたけれど。
完成品が問題。
まさか売り物になるクオリティではないし。かといってその場に捨てていくには、表情を作ってしまったせいで気が引ける。
結局、紐を通してオレの鞄にぶら下げた。
見かけた人によく「猪か?」と訊ねられる。
いいえ、熊です。




