移動手段について
今さら改めて述べるまでもないことだが。
この世界の交通・物流の主軸は、扉の樹だ。
けれどもそれで全部ってわけじゃあない。
扉を潜れないものを輸送することもあるし。
そもそも相手方の鍵を持ってなくてはいけない。ここが一番のネックかな。鍵は高価だから。
なので、この世界の人々も他の街や大陸へ移動するにあたり、あれこれと手段を講じる。
一番メジャーなのは、やっぱり徒歩。自前の脚だ。
オレたちもこれを愛用している。
旅人や冒険者の大半がそうだろう。
街を出発して、方角を確かめながら、次の街までひたすら歩くのだ。
この世界が神からヒトの手に渡って早千年。それでもまだまだ新発見と開拓の途上にあり、道が敷かれている場所のほうが少ない。鬱蒼とした森だの、恐竜の背を想起させる岩山だの、細く長い洞窟だの、乗り物に頼れない環境はいくらでも残っている。
それらを越えようと思ったら、これはもう覚悟を決めて歩くのみだ。
動物の力を借りるのも一般的だ。
馬を駆ったり、あるいは馬車。
牛とかも。こちらは背に乗ることはあまりなく、牛車か。
どこかの大陸には、尾を二つ持つ大猫を飼い慣らし、跨る亜人がいるという。
犬ぞりってのには一回乗ってみたいものだ。
騎乗用トカゲの飼育と調教で栄えている街に立ち寄ったこともある。
まぁでも、オレたちはあまり頼ったことがない。
レンタルとかすると、元の街に返す手間があるから。
自分たちのを手に入れてもいいかも知れないけど。前述の通り、オレたちは森にでも岩山にでも洞窟にでも砂漠にでも荒野にでも行く。それらの悪路すべてについて来られる生き物ってのは、今のところ見つからない。
それに。乗用動物を飼えば、当たり前のことだがそいつの食べる食料が必要になってくるわけで。旅の間、その運搬はどうするんだっていう、新しい問題が出て来ちゃうんだな。
自動車ってのは、なくはない。
例えば魔具には自ら回る車輪があって、それを履いた荷車は馬や牛の力を必要とせずに走る。
ただ、これはどちらかというと街中やサーキット向きの代物で、でこぼこ道とはとことん相性が悪いそうだ。
カラクリには自走車なるものがある。タイヤではなくて脚が生えている乗り物。
あるいは駕籠を担いで走るカラクリ人形。
これもちょっとなぁ。
というのも、カラクリには宗教否定の側面がどうしてもあって……。神に一切よらず、神の被造物と似たものを造ろうってんだからな。処によっては白眼視。石を投げられることも。
あらゆる街へ行く身分だからな、オレたちは。先方の顰蹙なんて避けられるならそれに越したことはない。
海路はかなり充実している。
この世界の船舶技術、航海技術はイグナも高く評価していた。
大型の輸送は専ら船だから、よく発達したんだろう。
他大陸へ渡るときには必ずお世話になる。
一度、大時化にかち合ったことがあるが。船長の手腕により、無事に岸まで辿り着けた。
なお、空路はない。
空は有り得ない。
なぜなら蒼穹は神の御座すところで、そこを侵す者には天罰があるからだ。
それも極めて具体的に。雷が落ちる。
オレたちも経験あり……。
これがなければ旅はぐっと楽なんだけどな。
イグナの大型ワスプを乗り物とすることも、時にはある。
頻繁には出来ないけどね。
オレには社敷設の仕事が相変わらずあって、つまりオレはオレんとこの神様の使者。それが見慣れないものに乗って現れたなんてなったら、地元の人になんて思われるか……。
……いやむしろ、アピールしやすいか? 神懸ってるっぽくね?
それとも胡散臭いと思われるかな。




