表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/427

転 ≪入院≫

 ダンブリールの面積事情(めんせきじじょう)には、のっぴきならないものがある。

 各地から()えず集まってくる患者を、入院させておく施設が必要になるからだ。


 この問題に対し、街は様々な対策を(こう)じていた。

 建物を上や下へ伸ばしたり。

 区画を厳格に整理したり。

 (めん)する海を埋め立てて、ダンブリールのある半島を大きくしたり。

 提携(ていけい)してくれる他所(よそ)の街に病院を立てたり。


 そういった不断(ふだん)の努力を聞かされては……あてがわれた部屋に、文句なんてとても言えない。

 言えないが。


 いややっぱり言うべきだろうか。


「おい、リクホ。お前の番だぜ」


「…………」


 (うなが)され、陸歩はサイコロを二つ振る。

 出目(でめ)はそれぞれ4と5で、その強さにアインは「あっちゃーっ」と顔をしかめた。


 さすがに、どうなのだろうか。

 殺し合いを演じた相手と、相部屋(あいべや)というのは。


 山札(やまふだ)からカードを引くアイン。

 その体躯(たいく)は、今は人間のサイズだ。

 盤面(ばんめん)のコマへと伸ばされる羅刹(らせつ)の手。……一度はその(てのひら)が、天を(おお)うほど巨大であるのを()()たりにしている陸歩は、つい息をひそめてしまう。


 あの決闘の後、陸歩とイグナ、そしてアインも、まとめてこの街へ(かつ)()まれた。

 そのときのことを、陸歩はおぼろげにしか覚えていない。

 担架(たんか)()られながら、混濁(こんだく)した意識で、(そば)にいるのが誰かも分からないまま、イグナの安否(あんぴ)を必死で(たず)ねた……ような……。


 次に目が覚めたのはこの病室で、キアシアの(ひとみ)(もと)だった。


 いったい誰が搬送(はんそう)してくれたのか。おそらくはアインの仲間。フェズかもしれない。

 少なくともキアシアではない。彼女はトレミダムで陸歩たちの帰りを待つばかりだった。そこへダンブリールの看護師が一人、(つか)いとしてやってきて、この街まで(いざな)ったのだという。


 さらに不明なのは、その誰かの意図(いと)

 救護(きゅうご)が魔女の手下によるものと仮定すれば、一体なぜか。

 敵である陸歩とイグナがともに意識不明、機能停止だったのだ。ならとどめを刺してしまえばよかったはずで、わざわざ医者へ連れてくる必要とは。


「…………」


 陸歩はこっそりと、アインの表情を(ぬす)()る。

 羅刹(らせつ)は今は、自分の手札を熟読するのに(いそが)しく、視線に気付く(ふう)もない。


 病室は、陸歩とイグナとアインで相部屋だった。

 これにもまた、何者かの何らかの(たくら)み、その一部か。


「んっしゃ! 出目、合わせて7だ! いい位置だぜぇ」


 サイコロに一喜一憂(いっきいちゆう)するアインは。……如何(いか)なる策謀(さくぼう)とも無縁(むえん)に見える。


 思わず陸歩はため息をついた。

 なんだか、疑っているほうが馬鹿なんじゃないだろうか。


 (さい)の目に従ってコマを進め、要所でカードを切り合う陸歩とアインは、どちらもが(いま)だに入院着だ。

 二人とも、身体はすっかり()えている。けれどもまだ医者から、退院どころか運動の許可も下りないのだ。

 有り余る時間と体力。こうして(たく)(はさ)んでゲームにでも(きょう)じていなければ、一日が長すぎる。


 イグナは自分のベッドの上で正座し、どこでないところを見つめ、ぼぅっとしていた。

 彼女もまた入院着。

 その様子も陸歩はちらちらと横目(よこめ)で気にしているが。

 なんとも、心配。


 キアシアだけが普段の服装で、今は果物の皮を()いているところだ。

 そのまま食べさせてくれればいいが。おそらくはこの街の習慣に(のっと)って、ジュースにされてしまうことだろう。


 アインが最後のサイコロを振る。

 ()りに()った試合、ここで合わせて7を超える目が出れば彼の勝ちだが。


「げっ、6かぁ。くそぅ1足りねぇ」


 参った、とばかりに伸びをする。


 陸歩は使い終わったカードを山札(やまふだ)()(ふだ)とまとめながら。

 アインがまた「もう一勝負」と言い出す前に。


「…………なぁ。オレは、負けたのか?」


 重く(たず)ねる。


 目を(しばた)かせたアインは。


「勝ったろお前、今。

 あ、どっか点数の計算、間違えてたか?」


「違う、そうじゃない」


 分かってて言ってるだろ、と陸歩はじっとりとした目で(にら)んだ。

 アインは(のど)で笑う。


 ()うているのは、決闘の行方(ゆくえ)


 そうだなぁ、とアインは椅子の上で胡坐(あぐら)()いた。

 難しい問題に取り組む表情をする。


「結局お互い、こうして生きてるんだしよ。

 勝った負けたは、どっちにもねーのかもしんねぇよ?」


「本気で言ってるのか?」


 詰問(きつもん)語気(ごき)となりつつある陸歩に、アインは今度は苦笑いで(こた)えた。

 ため息を一つ()いた羅刹は。


「勝ったような気もするし。負けたような気もするんだよなぁ。

 リクホ、お前あのとき、完全に潰れてただろ」


「……あぁ」


「な。勝敗が()()により手前で決まっていいって言うんなら、あのとき俺はお前に勝ってたぜ。

 ……でも俺はそこから、お前の中から現れたものに打ち倒された」


 その辺りのあらましを、陸歩はイグナから聞いている。

 にわかには信じがたいが。自分の血液が意志(いし)を持ち、アインへ襲い掛かった、と。

 これは流体操作剣技の作用(さよう)なのか。

 それとも炎の異能を(さず)けたあの(なぞ)めいた薬液の、効能(こうのう)なのか。

 ダンブリールの医者たちは、検査の結果にはなんら異常なところはないと言っていたが。


 そして自分から出たものとはいえ、正体の分からない存在が打ち倒した相手を……はたして自分の勝利と呼べるのか。


 羅刹もそこに(なや)んでいる。


「これってよぉ、誰が判定すんだろうな?」


 ニヤリとするアインの、言いたいことは陸歩にもピンと来た。


 ――白黒はっきりさせるため、もう一回殺し合うか。


 生粋(きっすい)の戦闘狂め。

 だが。

 陸歩は手の中で炎を小さく(とも)す。

 必要とあらば。


「――お薬の時間ですよぉ」


 病室のドアが開く。

 看護師が一人、両手にジョッキを持って入ってきた。

 この街では食事のみならず、薬においても錠剤(じょうざい)粉末(ふんまつ)などの固形を用いない。全て液体だ。


 だが、そのジョッキの中身(なかみ)

 ()(とお)る金色に、真っ白な(あわ)がたっぷりと。

 明らかにビール。


 そして看護師は奇妙な目隠(めかく)しをしていて。


 陸歩たちは息を()まらせた。

 アインが声を上げて笑う。


「魔女殿! なんだよ、また妙なことしてるなぁ!」


「んふ。お見舞(みま)いよ、お見舞い。

 お加減(かげん)いかがかしらぁアインさん」


「おう、この通り」


「それから。

 ジュンナイリクホくぅん?」


 こっそりと、陸歩は(まくら)の下へ手を入れている。

 そこには小さく(ちぢ)めた鈴剣が隠してあって、いざというときのために()()のままだ。


 だが。

 陸歩は気付いてしまう。

 そのこっそりを、魔女は隠した双眸(そうぼう)で、目ざとく見つめている――


 んふ、と魔女はもう一度、(ねば)っこく口角(こうかく)を上げる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ