承 ≪手記≫
手記No.28:『療墓』ダンブリール
――琴の月/下手の曜――
グィングルム大陸。
その南方へ突き出した半島が、丸ごとダンブリール。
医療の街である。
それはつまり、宗教都市ってこと。
そんでもって葬式の街でもある。
なんつーか、ブラックジョークっぽいよなぁ……。
事情を聞けば、とても真摯な理由からと分かったけど。
ダンブリールは治癒神ケイカウルムの総本山だ。
医術にまつわる神は多いが、その中でも『治癒』という直接的概念を冠したケイカウルムは、一大派閥。
そして宗派の元締めとなる街は大抵が、学術の都、あるいは祭事の拠点であるのに対し、ダンブリールは巨大な総合病院であるから珍しい。
もっともこの街が患者を診るのは、半分以上が研究のためだ。
と言ってもモルモットにするような真似はしない。
ダンブリールが目指すのはとことんまで臨床医療。
『健やかとは心と身の螺旋』というのがここの医師たちの標語であり、どこかを治すのにどこか――メンタルや尊厳といった部分も込みで――を損なうようなやり方を、この街は軽蔑している。
だから頼ってくる者は引きも切らない。
古今東西から様々な患いを抱えた、様々な人種が集まってくるため、ダンブリールの医療は日進月歩という。
そして研究対象は、遺体までを含む。
これが葬式の街・埋葬の街・墓石の街という、ダンブリールのもう一つの顔、その由縁だ。
ダンブリールは献体を常に募集している。
生前の本人、あるいは遺族がこれに応えて、医学の進歩のために亡骸を提供するのだ。
遺体を調べるのはきっかり三日間と、この街は定めている。
それが過ぎたら皮膚の一片、血肉の一滴すら取ることなく、全てを棺へ納める。
そして丁重に葬儀が執り行うのだ。医療の発展に身を貸してくれた、誉れ高き英雄に、感謝を込めて。
街の景観は、清潔そのもの。
道は残らず舗装されており、これは土埃を除くためだという。
ずらりと並ぶ白い建物たち。
ダンブリールでは医療施設、病院は白と決まっている。
けど医者の格好は白衣じゃなくて、服の上に赤い貫頭衣を羽織っている。
黒の建物は斎場。
医者はここにも盛んに出入りしていて、何故なら彼らは同時に葬儀屋であり、聖職者でもあるからだ。
墓地も街中に点在している。
そのいずれもが公園でもあり、住人や入院患者たちの憩いの場。
ダンブリールでは死はほとんど忌避されない。死んでも意味ある者として扱われる街だからだろう。
墓石には名前と生まれた年、亡くなった年。そしてどんな研究に協力したかが記され、ケイカウルムの聖印が刻まれている。
医食同源、という言葉があるが、この街の食事事情はだいぶ特殊。
なにせ固形物を食べない。
ぜーんぶスープにしちゃう。あらゆる食材、栄養をだ。
ダンブリールは流動食こそ完全食と見なしていて、それはどんな健康状態の人間でも摂取することが出来るから。いよいよとなれば点滴にして血管に直接与えればいいし。
キアシアは当初、開いた口が塞がらない様子。
顎や歯が弱らないのかな、とオレも思ったけど、そこはきちんと考えられていて、この街ではみんな日常的にガムを噛んでいる。
街路のあっちこっちにはガムボールマシンが設置してあって、なんとこれ、税金で賄われているから無料。
パイン味が気に入った。
定住者は十割が治癒神信徒。
そしてもれなく全員が、何らかの形で医療に携わっている。
というよりもだ、ダンブリールは如何なる技術をも、何らかの形で医療に生かしている。芸術やスポーツさえ。
ザナムゥからここへ担ぎ込まれたオレは、五日ほど眠り続けていたらしい。
その間に、担当医が八人も付いていた。
それだけ危険な状態……というよりも。オレの身体が興味深かったようで。
火炎の異能、怪力、しかも神託者。ダンブリールの医師たちには垂涎の研究素材ってわけ。
おかげさまですっかり全快。
初日は本当に危険な状態だったとかで、そこから驚異的な回復力を見せたオレに、医師たちは鍵をくれた。
また怪我したらすぐ来いって。……観察したいのね。
まぁ有難く貰っておく。
昏睡中、つきっきりで看病してくれたキアシアには感謝しかない。
お礼しなくっちゃ。
イグナの快気まではもうちょっとかかりそう。
さすがに無茶をさせ過ぎた。
オレの責任。
だけど彼女、何故か自分を責めているようで、だいぶ落ち込んでる。
医者はオレによる手当てを推奨。
手当てってのは、手を当てろってことね。優しく触れることが特効薬と。




