表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/427

起 ≪夢見≫

 身体が燃えるように熱く、本当に身体が燃えて、ベッドを()がしたのをぼんやりと覚えている。

 滝のように汗をかき、ひどく寝苦(ねぐる)しかったのをぼんやりと覚えている。

 (ひたい)を優しく(ぬぐ)う、冷たいタオルの感触を、ぼんやりと。


 夢を。

 夢を、みていた。


 棒切(ぼうき)れを片手に、走る夢を。


 億法都市(おくほうとし)路地裏(ろじうら)を。

 故郷である田舎町(いなかまち)の林を。

 人形たちが躍る街路(がいろ)を。

 がらんどうの校舎を。

 灼熱(しゃくねつ)()()す山道を。

 オンライン・スクールの廊下を。

 (さび)のように赤い荒野を。

 オートメーション化された東京の四車線道路を。

 賢者の(おり)が並ぶ監獄(かんごく)を。

 ナユねぇのところへ続く、道を。


 走った。

 棒切れを片手に。


 ひどく苦しかった。

 ぜいぜいと息が切れ、犬のように舌を出して。

 それでも、何故(なぜ)か内側から()かされている気がずっとして、立ち止まって呼吸を(ととの)えることも出来ない。

 苦しいまま、走る。

 苦しいまま、(いそ)ぐ。


 棒切れが邪魔だな、と思う。

 けれども放り捨てて行こう、とはどうしてだかならない。どうしてもならない。

 持ち方を変えたり、左手に持ってみたり。


 そのうちに気付いた。

 出す(あし)に合わせて、棒切れを()ると楽になる。

 すいすいと進む。

 なんだ、最初からこうすればよかったのか。


 そこからはいくらでも世界を渡れる。


 天を()摩天楼(まてんろう)の群れを。

 じいちゃんのお墓を。

 瘴気(しょうき)の満ちる花畑を。

 春から通う大学の構内を。

 海面にまで()()珊瑚礁(さんごしょう)の上を。

 ナユねぇのところへ続く、道を。


 あぁ行かなくちゃ。

 もっと速く。

 もっと。


 棒切れを振るんだ。そうすれば速くなる。

 もっと。

 もっと速く。


 速度を得た我が身が、(かす)んでいくのが分かった。

 定型を止め、流体へ()()すのが分かった。

 剣を振り、身体をうねらせれば、さらに加速する。

 赤い流星になった気がした。


 あぁもうすぐだ。

 もうすぐ行くよナユねぇ。


 いつ以来か、辿(たど)()いた、ナユねぇの施設。

 ……そうだ。

 仲直りをしなくっちゃいけないんだった。

 あんまり待たせ過ぎちゃったから、もう許してくれないかもしれないけれど。


 一歩、一歩を確かめるように踏みしめる。

 (なつ)かしむように、一歩、一歩。

 足跡(あしあと)を焼きつけながら。


 扉は一つも閉じていない。

 そのことが、なんだかナユの心が開かれている気がして。

 流星の身体が過熱する。


 ナユねぇ。

 ナユねぇ。

 来たよ、ナユねぇ。


 いつ以来か、辿り着いた、ナユねぇの部屋。

 散らかしたガラクタや雑誌もそのまま。

 中央に()えられた巨大なカプセル。


「ナユねぇっ!」


 空っぽの、カプセル。


 息が詰まる。

 頭を殴りつけられたような衝撃。

 ……そうか。ナユねぇはもう、行ってしまったのか。


 あの人の身体は、オレが(つく)るんだなんて、息まいていたけど。

 結局、オレは間に合わなかった。

 オレは特別じゃなかった。

 オレは無意味だった。


 透明なカプセルに映るオレは。


 流れ星なんかじゃなくって、全然(かがや)いていなくって。


 頭の天辺(てっぺん)から全身が、真っ赤なスライムみたいな、格好をしていて。


 骨もなく、皮もなく、肉もなく。


 ぐにゃぐにゃと、張力(ちょうりょく)を失って、その場に、(こぼ)れていく、、、


 >>>>>>


 目が覚めても、まだ現実感が(ともな)わない。

 ふわふわと(ちゅう)に浮いている心地(ここち)がして、思考に()()めがなかった。


 見上げる天井は、(あたた)かみのあるオフホワイト。

 はぁっと息を()んで(のぞ)()んでくるキアシアの瞳は、太陽のようにオレンジがかった黄色。


 彼女の目がその色ということは……えぇと、今が何時だってことだっけ? 陸歩は働かない頭で必死に手繰(たぐ)る。


「リクホ? リクホっ。わかるっ?」


「……キア」


「リクホっ! リクホが生き返った!」


 抱き着いてくる彼女に、陸歩は「しまった、オレ、汗臭(あせくさ)くないかな」なんて呑気(のんき)な心配をする。


 結局、今がいつなのか。

 ここはどこなのか。

 どういう顛末(てんまつ)なのか。

 陸歩は、まだ眠くて、何もかもがよく分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ