起 ≪夢見≫
身体が燃えるように熱く、本当に身体が燃えて、ベッドを焦がしたのをぼんやりと覚えている。
滝のように汗をかき、ひどく寝苦しかったのをぼんやりと覚えている。
額を優しく拭う、冷たいタオルの感触を、ぼんやりと。
夢を。
夢を、みていた。
棒切れを片手に、走る夢を。
億法都市の路地裏を。
故郷である田舎町の林を。
人形たちが躍る街路を。
がらんどうの校舎を。
灼熱を吹き出す山道を。
オンライン・スクールの廊下を。
錆のように赤い荒野を。
オートメーション化された東京の四車線道路を。
賢者の檻が並ぶ監獄を。
ナユねぇのところへ続く、道を。
走った。
棒切れを片手に。
ひどく苦しかった。
ぜいぜいと息が切れ、犬のように舌を出して。
それでも、何故か内側から急かされている気がずっとして、立ち止まって呼吸を整えることも出来ない。
苦しいまま、走る。
苦しいまま、急ぐ。
棒切れが邪魔だな、と思う。
けれども放り捨てて行こう、とはどうしてだかならない。どうしてもならない。
持ち方を変えたり、左手に持ってみたり。
そのうちに気付いた。
出す脚に合わせて、棒切れを振ると楽になる。
すいすいと進む。
なんだ、最初からこうすればよかったのか。
そこからはいくらでも世界を渡れる。
天を衝く摩天楼の群れを。
じいちゃんのお墓を。
瘴気の満ちる花畑を。
春から通う大学の構内を。
海面にまで湧き出た珊瑚礁の上を。
ナユねぇのところへ続く、道を。
あぁ行かなくちゃ。
もっと速く。
もっと。
棒切れを振るんだ。そうすれば速くなる。
もっと。
もっと速く。
速度を得た我が身が、霞んでいくのが分かった。
定型を止め、流体へ溶け出すのが分かった。
剣を振り、身体をうねらせれば、さらに加速する。
赤い流星になった気がした。
あぁもうすぐだ。
もうすぐ行くよナユねぇ。
いつ以来か、辿り着いた、ナユねぇの施設。
……そうだ。
仲直りをしなくっちゃいけないんだった。
あんまり待たせ過ぎちゃったから、もう許してくれないかもしれないけれど。
一歩、一歩を確かめるように踏みしめる。
懐かしむように、一歩、一歩。
足跡を焼きつけながら。
扉は一つも閉じていない。
そのことが、なんだかナユの心が開かれている気がして。
流星の身体が過熱する。
ナユねぇ。
ナユねぇ。
来たよ、ナユねぇ。
いつ以来か、辿り着いた、ナユねぇの部屋。
散らかしたガラクタや雑誌もそのまま。
中央に据えられた巨大なカプセル。
「ナユねぇっ!」
空っぽの、カプセル。
息が詰まる。
頭を殴りつけられたような衝撃。
……そうか。ナユねぇはもう、行ってしまったのか。
あの人の身体は、オレが造るんだなんて、息まいていたけど。
結局、オレは間に合わなかった。
オレは特別じゃなかった。
オレは無意味だった。
透明なカプセルに映るオレは。
流れ星なんかじゃなくって、全然輝いていなくって。
頭の天辺から全身が、真っ赤なスライムみたいな、格好をしていて。
骨もなく、皮もなく、肉もなく。
ぐにゃぐにゃと、張力を失って、その場に、零れていく、、、
>>>>>>
目が覚めても、まだ現実感が伴わない。
ふわふわと宙に浮いている心地がして、思考に取り止めがなかった。
見上げる天井は、温かみのあるオフホワイト。
はぁっと息を呑んで覗き込んでくるキアシアの瞳は、太陽のようにオレンジがかった黄色。
彼女の目がその色ということは……えぇと、今が何時だってことだっけ? 陸歩は働かない頭で必死に手繰る。
「リクホ? リクホっ。わかるっ?」
「……キア」
「リクホっ! リクホが生き返った!」
抱き着いてくる彼女に、陸歩は「しまった、オレ、汗臭くないかな」なんて呑気な心配をする。
結局、今がいつなのか。
ここはどこなのか。
どういう顛末なのか。
陸歩は、まだ眠くて、何もかもがよく分からなかった。




