夢について
オレの夢は、ナユねぇから始まった。
義体の発明。それがオレの夢。
手だけでなく、足だけでなく、臓器だけでなく、全身を。
叶えば世界が激変するほどの技術だ。
どれだけ荒唐無稽かは自覚している。
脳みそという最後のブラックボックスを作らないだけで、人間を人工に産み出したいと言っているのとほとんど同じ。
神様のいる空の下で企んだなら、天罰が下ったっておかしくない。
それでも。
どれほど無茶でも。
……オレはもう目指してしまったし。
一度抱いた志は、赤々と滾って、いつまでも朽ちてはくれない。
と。
まぁここまでが話の枕ってやつ。
今回のテーマはそういう『将来の目標』ではなくて。
寝ているときに視るほうの、夢。
夢。
睡眠中に視る光景、景色、出来事。
夢とは一体何なのか。
――それは予知である。
――それは神のお告げである。
――それは肉体を抜け出した魂が目の当たりにしてきたものである。
上記の説は、昔はオレたちの世界にも存在したそうだ。
現在ではもうちょっと科学的・心理学的に解明が進んでいて、夢はあくまで眠っているときの脳の働きによるものであり、何か超常的な作用によって映し出されるのではない、と判っているけれど。
まだまだ不明確な部分が多く、今なお研究の続くところだ。
なぜ夢を見るのか。
どういうときにどういう夢が現れてくるのか。
レム睡眠・ノンレム睡眠との関連は。
明晰夢とは。
白昼夢とは。
こっちの世界でも夢は探究の対象であり、ともすればオレたちの世界よりも熱心かもしれない。
アプローチはだいぶ異なるけどね。
すなわち、夢は魔術と密接な関係にある。
魔力の節約は、魔術が最も腐心しているところ。
そのために、術の『精度を下げる』=『抽象度を上げる』、ということが、割とポピュラーに行われるが。
夢はそれにうってつけだ。
視えるのはおぼろげで断片的な情報。
再生されているのは寝ている間だけ、という状況の限定。
目覚めた際に完全には記憶しておけず、徐々に薄れていってしまう儚さ。
夢の形で未来や遠方を見通せば、そういった曖昧さが付き纏ってしまうが。
それ故に、消費する魔力はごく少量だ。占術よりもなお安いという。
あるいは、魔術を夢見の状態で行使する、という一派も。
寝ながらだとどういうわけか、魔力消費が覚醒時よりも少なく済むのだそうだ。肉体と精神が弛緩しているから、余計な力を使わないのかな。
なので目覚めているときにあらかじめ、『術を使う夢を視る』術を自分にかけておく。
あとはなるべく長く深く眠るだけだ。
とはいえ……。
呪文を唱える夢を視たって、それをその通りに寝言で発声するかといったら、まぁしないだろう。魔法で後押ししても、成功の確率は二割がいいとこと聞いた。
魔力を節約するために、魔力をドブに捨てる機会を多くしてるように思えるんだけど……。収支の釣り合いは取れてるのかな?
また魔術師たちは、自分が視た以外に、人の夢も気にする。
そもそもこの世界には、人の想像を蓄積する、という自然の仕組みがある。
誰が貯めてんだっていえば、世界自体が。
どこに貯めてんだ、って言われると……世界自体? 空間の隙間? 裏側? 虚無? 幽世? はっきりとは分からないけど。
とにかく世界は、世界中の人の、一度でも想像したものを全て記憶していて、記録しているんだ。
そして魔術というのはここへアクセスし、想像されたものを現実へ具現させる術のことである。
でだ。
この、世界が保持する『人が想像したもの』ってやつに、夢も含まれるっていうんだから。
魔術師たちの警戒もむべなるかな。
誰かが視た真っ赤な悪夢は、魔術によって現実に呼び出され得るのだ。
悪用しようと思えばこれほど危険なものはない。
理性から発したのでない想像は、あまりに凶暴で、あまりに薄暗く、あまりに悍ましい。
なので少なくない魔術流派が、市井の睡眠の質向上に、奔走している。
眠りについての悩みを持つ人々は、まず魔術師を訪ねるのがこの世界の常識だ。
枕や寝具を卸している魔法協会も。
自分の見た悪い夢を申告してくれた人に、金一封を渡しているところもある。
最後は縁起の話。
この世界でも夢の内容で占う吉凶がある。
剣士にとっては、身体の一部が剣になる夢が、験がいいように。
月と同じ夢は好まれる。琴の月に、琴の夢を視る、など。
さらに曜――目だとか耳だとか――までが内容に含まれていれば、運気は最高潮。さっさと全財産を掴んで、その日のうちに賭博街へ行くといい。
ある宗教では、教会の首席巫女に、神の夢を視た者を任命しているそうだ。
現在は何と、六歳の少女だとか。
ぶっちゃけ……それって敬虔さに関係なく、確率的に誰にでも起こり得るもんなんじゃないの?
そういえば、防人も就任するときに、夢を視るんだったか。
胸の奥で扉が開く感覚ってやつ。
オレには縁のなさそうな話だけど、うぅん。
師匠も、レドラムダの妹姫様も、それはまさしく夢心地だったって言ってたし。
どんなもんか、ちょっと気になる。




