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結:序 ≪可変≫

 その剣技には陸歩もさることながら、イグナが強く感心を(いだ)いた。

 感動と言ってすらよかったかもしれない。


 大きさも長さも太さも規格外の、塔剣(とうけん)

 それをいとも容易(たやす)く振り回すアインに。


 羅刹(らせつ)は今、竜巻(たつまき)()している。

 ――比喩(ひゆ)ではない。


 巨大すぎる塔剣を、アインは(たて)に振り下ろすような真似(まね)はしなかった。

 振り抜いた刃を、決して返したりはしない。

 回す。

 頭上で剣を、回す。

 ひたすらに回す。


 遮二無二(しゃにむに)(やぶ)れかぶれ……そんな雑を表す言葉と、アインは無縁だ。

 ただ剣を振り回す凡百(ぼんびゃく)とは、彼は一線を(かく)している。

 横薙(よこな)ぎの刃、その一閃(いっせん)一閃が必殺の精度で陸歩へ(おそ)()かっていた。

 どっしりとその場に直立した羅刹。深い喜びを(たた)えた双眸(そうぼう)は、ひたと機甲の騎士を射抜(いぬ)いて。

 そして腕の動き、手首の動き、指の動き。それらの完璧な連動で、彼の剣はさらに加速し、斬撃の暴風が吹き荒れる。


 塔剣の巨大な(つか)から、仙人掌(さぼてん)の棘さながら無数に突き出した通常の柄。

 それらを次々に利用し、乗り換え、回転を多彩(たさい)(あやつ)るアイン。

 今の陸歩なら、一見して羅刹の技量が分かる。息をのむ。それは千の刀を同時に(もち)いるに等しい所業(しょぎょう)ではあるまいか。


 塔剣の回転は、イグナの目にもあまりに美しい。

 軌跡(きせき)に一切の(ゆが)みがない。力の無駄(むだ)がない。

 力学の最も完璧な模型のようだ。

 解放されたアインの体重、剣自体の質量、それに重量操作剣技の合わせ技。そこへ遠心力を加えれば、刃先の威力は測定しようにもError(エラー)しか示さない。


 (かわ)(つづ)ける陸歩とイグナには、一瞬ごとが死線だ。


「――Order(オーダー)Code(コード):FullThruster(フルスラスター)!」

【Code:FullThruster を受諾(じゅだく)――】


「あっははははははっ!」


「――Order(オーダー)Code(コード)SkyHigh(スカイハイ)!」

【Code:SkyHigh を受諾――】


「はっははははははぁ!」


「――Order(オーダー)Code(コード):Formula(フォーミュラ)!」

【Code:Formula を受諾――】


「ふはは、はははははっ!」


「――Order(オーダー)Code(コード): Berserkr (ベルセルク)!」

「Code:Berserkr を受諾――」


「あぁいいぞ! それだリクホそれぇ!」


 塔剣の暴威(ぼうい)の中を、陸歩たちはまるで羽虫のように頼りなく飛び回っていた。

 推進(すいしん)形態、飛行形態、高速走行形態を順番に切り替え、()ける、避ける、避ける。

 ときおり覚悟を決めて、イグナのリミッターも外して斬撃を受け止めて、何とかこの一呼吸を生き延びた。

 しかし。

 それでも。

 (まばた)きの間に、次の死線がやってくる。


「はっはははははは、あはっははははは、ふはははっ!」


 アインは(たが)の外れたように(わら)っていた。

 幼いころの心地(ここち)(よみがえ)ってくる。剣を振れるだけで満足だった、あのころ。

 塔剣を解放して、こんなに長時間斬り続けられるなんて、いつ以来だろう、初めてだろうか。


「ぐ、」


 たまらず陸歩はアインの間合いの外に出た。

 恐ろしいリーチを誇る塔剣だ、その圏外へ出るのだけでも一苦労。

 いや、真に恐ろしいのは剣士のほうか。

 アインは下がった陸歩を追って、剣の竜巻をそのままに、前へ出てきた。


「おらおらおらおらぁ!」


「む、ちゃくちゃ、だコイツっ!」


 自然災害を相手にしている、と認識したほうが正しい。


 ならば上。高度に逃げる。


 だが羅刹は、そんな消極を許さない。


(さび)しいじゃねぇかよぉ! (はな)(ばな)れはよぉ!」


 ひときわ激しく塔剣を振るう。

 ――するとどうだろう。空に立つ陸歩たちは、その刃の(うず)の中心へ。

 ぐい、と引っ張られたではないか。


「これはっ」


 イグナが絶句する。(おの)がセンサーを疑った。

 モニタに映された事実に、陸歩も、また。


 アインの手によって、今、巨大な質量が超高速で回転させられている。

 そのため、重力にひずみが発生しているのだ。

 それは引力となって周囲のものを引き寄せ、刃の結界で容赦(ようしゃ)なく無慈悲に掘削(くっさく)した。


「あんな力技でブラックホールが出来るなんてっギャグかよっ」


「リクホ様、高度が維持できませんっ」


 じりじりと死の(ふち)へ引っ張られながら。

 しかし、陸歩の思考の一部は水のように冷たく、柔軟だった。

 師匠の言葉が思い出される。

 ――相手を過大に評価するんじゃない。自分の中で勝手に巨大にするな。


 彼は今、気づき始めている。


 一つ。

 あれは、(かわ)せる斬撃だ。

 だってここまでずっと、そうしてきたから、生きている。

 なら。


「イグナぁ! 

 Dual(デュアル) Order(オーダー)Code(コード)Formula(フォーミュラ) X(クロス) FullThruster(フルスラスター)!」


 高速移動特化形態。

 さらにはアインの生み出す引力に乗じて、陸歩は突っ込んだ。


 もはや面とすら呼べるほどに高密度の斬撃の中を、スラスターを(うな)らせてすり抜けていく。


Order(オーダー)Code(コード)Mantis(マンティス)!」


 腰から副刃(ふくじん)を二本展開。

 ()(すさ)ぶ塔剣の刃を、受け止めれば立ちどころにバラバラになるであろうそれも、あくまで『受け流す』にのみ用いれば(しの)ぐことは出来る。

 今の陸歩と、イグナなら。


 大剣に変化させた鈴剣と合わせて三本刃。

 陸歩たちは次々に攻めてくる斬撃に対して、自ら(はじ)かれるように、塔剣の嵐のさらに奥へ深くへと転がり込んでいく。

 普通の剣士には有り得ない、三本腕で。


 これもまた、気づいたこと。

 陸歩の可変剣士としての道は、イグナと共にある。

 刃と鎧を変形させ、状況に最適を取り続ける剣士。

 これこそがきっと、彼と彼女の完成形。


 不意に目指すところが明らかになり、陸歩はぱっと視界が開けた感覚を得る。


 そして。

 気づいたことのうち、最も重要な一。


「――――、」


「はっはは!」


 アインの笑いが、ことさらに(こぼ)れる。

 陸歩たちは、ついに塔剣の刃の内側へ辿(たど)()いたのだ。

 長大に過ぎる羅刹の剣は、当然ながら柄も長く、この距離まで詰めてしまえば逆に斬られることがなくなる。


 すぐさまアインは塔剣を上空へと投げた。

 円盤の軌道を描くそれは、プロペラのように揚力(ようりょく)を得てどこまでも高く飛んでいく。

 そして羅刹は、彼にとっては脇差(わきざし)に当たる、フランベルジュに手をかける。


 ぱっと、陸歩は翼を広げた。

 下賜(かし)された神威を表す、神託者の羽。

 左手で、指差(ゆびさ)す。


 アインの足元を。


 ――気付いたのだ。

 この剣士は、()ばない。

 重量を操作する際、必ず足の裏が地面についている。


 つまり、あの剣は、踏む力がなければ機能しない。

 宙に浮かせてさえしまえば、アインの剣の威力は発揮されないのだ。


 陸歩の指先から紫電(しでん)(ほとばし)った。

 多きを(めっ)するその力。


 大地が、赤錆(あかさび)の土がひとたまりもなく灰燼(かいじん)へ帰す。真新しい谷が口を開けた。

 羅刹は足場を失って大きく()()る。

 (いま)だ、喜悦(きえつ)を口元に張り付けたまま。


Order(オーダー).Code(コード):Dragoon(ドラグーン)

Code(コード):Dragoon(ドラグーン) を受諾――】


 陸歩の右腕に生まれる、砲門。

 吹き出すのは神威を帯びた、刃状の極炎(ごくえん)

 塔剣に比肩(ひけん)、あるいは凌駕(りょうが)するほど長大なそれが、羅刹へ向かって振り下ろされる。


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