表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/427

遺伝について

 この世界には、『ヒト』に相当(そうとう)する生物が多数存在する。

 人間を始めとして、様々な特徴(とくちょう)を持つ亜人(あじん)たち。

 ヒトは時たま、種族の壁を越えて、結ばれることがある。愛の前では肌の色や(ひとみ)の色、手や頭の形、(うろこ)や尻尾や翼の有無(うむ)なんて、些末(さまつ)な問題だ。少なくとも当人たちには。

 そして生まれる、新たな命。

 

 この時、赤ん坊は父母の特性を、どのように()()ぐのか。


 そもそも、異種族婚(いしゅぞくこん)をした男女が子を()すには、子孫繁栄(しそんはんえい)の身体的仕組みが同じである必要がある。

 亜人には胎生(たいせい)の者も卵生(らんせい)の者もいるのであるからして。中には自分の一部を千切(ちぎ)って土に埋める、なんて方法を取る種族も。

 繁殖法(はんしょくほう)にズレがあっても、上手く適合(てきごう)する場合もあるにはあるらしく、そういうケースでは生まれてくる子は基本的に母親に似るそうだ。

 考えてみれば当然か。もしも胎児(たいじ)が、卵に入ってしまうことにでもなれば、たちまちに死産だ。子にとっては母体と同じになることは、生存の上で重大なはず。


 また、身体のサイズも同程度でなくてはいけない。

 巨人族はその面でも不利を背負(せお)っていた。彼らは他の亜人と(まじ)わることが出来ず、結果として種族は先細(さきぼそ)りしてしまったのだ。


 子作りの仕方(しかた)が男女間で同じタイプで、上記の諸諸(もろもろ)がクリアされている場合。

 このときは、子どもには両親の特徴のうち、『濃い』ものがそれぞれ現れる……のだが。

 そのパターンは、種の組み合わせによって複雑に(こと)なり、オレたちの世界で言うところの顕性(けんせい)潜性(せんせい)形質のように、単純に分類できるものでないらしい。

 具体的な例として。


(一.)人間とマチルダ師匠たち海鮫人(グランブルー)の間に生まれた子どもは、人間の容姿(ようし)に、ギラリと(そろ)った乱杭歯(らんぐいば)(そな)え、抜歯(ばっし)してもすぐに次が生えてくる。トレミダムにはそういう住人を見かけた。

 つまりこのときは、海鮫人(グランブルー)の牙が顕性だ。


(二.)賢森族(エルファ)の歯は、何本にも分かれていない。蹄鉄(ていてつ)のようにひとつながりの歯が、口内の上下にあるだけ。

 そして賢森族(エルファ)海鮫人(グランブルー)が結ばれたとき、子どもの歯は賢森族(エルファ)の形質を示す。


 この二点から、賢森族(エルファ)の歯が最も強い顕性、という理屈(りくつ)になりそうなものだけど。

 実のところ、人間と賢森族(エルファ)が両親の場合、子どもは必ず人間の歯だ。

 不思議な三竦(さんすく)みの構造。


 イグナはこれを聞いて、「DNAの種類が四つ以上に多いのではないか」と予測した。あるいは螺旋(らせん)が二重ではなく、三重以上の可能性を示唆(しさ)している、と言ってたっけ。

 そう仮定するとどうなるのか……正直、オレの専門じゃないから、話は半分以上を分からなかった。


 それでも、人間の特性は現れやすいようだ。

 神学者――特に人間の――は、この事実を、「神が人間をヒトの代表とお認めになったからだ」と主張する。

 千年前、数多(あまた)の種族がヒトの座をかけて争い、人間と亜人とが分けられた。そして勝者の優位が、今日にも血の中に示されている……。

 どうかなぁ、って思うね。

 それは話の順番が逆で、人間はその繁殖能力(はんしょくのうりょく)があったからこそ、産めや増やせやで当時の(いくさ)に勝てた、んじゃないかな。


 一族の身体の変化を(きら)って、異種婚姻(いしゅこんいん)を厳しく禁じている種族もある。


 反対に、他種族が交われば交わるほど、子は優秀になっていくっていう話もあって、地方によっては「伴侶(はんりょ)には両親と違う姿の者を選べ」と言われる。

 亜人の数が減っているのには、そういう背景も。彼らは滅んだのではなく、他種族に合流したのだ。

 あと十代も()れば、ヒトの姿は均一(きんいつ)になるのではないか、と予想されているとか。


 例えば、キアシアなんかもそうだもんな。

 彼女の見た目はオレたちと何ら変わらないが、その魔眼(まがん)については純粋な人間のものではない。

 伝えられているところによれば、キアシアの一族の四代か五代前は、もっとはっきりと目に特徴を持つ亜人だったのだそうだ。


 これは一番優しい事実で、ここにこそオレは神の恩寵(おんちょう)を感じるんだけど。

 父母がどんな種族の組み合わせであっても、生まれてくる子どもの身体は、不自然な形にならないそうだ。

 肺呼吸(はいこきゅう)なのに(えら)があって、息をするたびに苦しむ……なんて残酷(ざんこく)なことは絶対にないんだって。

 長い牙が生えるなら、(あご)はそういう形になるそうだ。

 寿命が短い、病気に弱いなんてハンデもなし。

 子どもにはどんな罪もなく、苦痛も必要ないと、神様が守ってくれてる……なんてちょっと考えちゃった。


 だがこの事実は、優生学を台頭させる危険もあると思う。

 昨今(さっこん)、人権意識は高まり続けていると聞くから、杞憂(きゆう)だといいんだが。

 どっかの大陸の貴族が、いろんな亜人を(めかけ)にして優秀な子どもを作ろうと(たくら)んだところ、ひどいバッシングを受けて没落したってのが、去年の話らしいし。


 こういう話題を追っかけて、ちょっと気になったのは。

 ……まぁ、今のところはそんな気はないし……こんな記述は他の誰にも見せられないんだけどさ。

 例えば、オレがこの世界の女性と子どもを作った場合って、どうなるんだろうね?

 どうも身体の構造に、ちょこちょこ差異(さい)があるっぽいし。

 オレも亜人の一種とみなされて、上手い具合(ぐあい)に子どもが生まれるのか。

 もしかしたら、オレの炎を受け継ぐってことも?

 それとも……。

 いや、本当に、試してみようって気にはならないけど。責任とか取れないから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ