妖精について
ファンタジーと言えばなんだろう。
剣と魔法。
龍や巨人。
ダンジョンだとか秘宝だとか。
あとは、そう、妖精。
こっちの世界だとちょこちょこお目にかかる、妖精。
それは精霊や魔物とはまた存在を異にするものだ。
精霊も魔物も、元を辿れば魔術に端を発している。
前者はこの世界でも空想の産物であり、実在はしておらず、魔術によって具現する。
後者は何らかの魔術的影響を受けた動植物が繁殖し、代を経るうちに成るもの。
対して妖精は、空から海から大地から、あまねく全ての自然から滲み出てくる者たち、とされる。
肉体の死後、魂は精神の軛から解き放たれ、空気中に融け出す――というのがどこの大陸でも一般的な死生観。
妖精はこの、大気を満たす魂が何らかの要因で凝固して、生まれるのだ。
……と、いうのが今のところ一番有力な学説。
我ながら歯切れの悪い記述だけど、仕方がない。
彼らが何者なのか、実のところはほとんど解明されてないのだそうだから。
動物なのか。
それとも植物に近いのか。
もっと別な何かか。
ある日突然、いつの間にかそこにいる妖精たち。もしかしたら人よりも天使よりも、神様に近い存在なのでは……。
姿は環境によって千差万別。
人に似た姿で、親指くらいのサイズ、透き通った羽根……という「これぞ妖精」なものもいる。
かと思えば、不定形――例えば青白い人魂だとか、雪の結晶にそっくりなのだとか――そういうのも妖精の一種だ。
火山には赤黒いトカゲにそっくりなのが岩の影に隠れているし、海にはクリオネみたいのも。図書館の妖精は、一見するとヒトの形に切った和紙だった。
おかげで分類も一苦労だそうだ。
そもそも本当に妖精なのか、新種の動物なのか、その裁定にも学会で百万言が尽くされるという。
妖精たちには知性がある。
ただ、この測定にもだいぶブレがあって。
ある学者は単語を教えてみた結果から、人間の二歳相当として主張しているし。
またある学者は、彼らの計算能力は並みの人間を遥かに凌駕している、と言っている。
しかしこれもまた仕方がない話。
なぜって、妖精たちはとてつもなく気まぐれだ。面白そう楽しそう、と思ったことにしか取り組まない。
逆に気に入りさえすれば、何だってやる。穴の開いた柄杓で川の水を汲む、なんてことでも、お気に召しさえすれば。
ただし悪意だけは抱かない。これだけは絶対。
彼らは何者も害さない。
何故なら、彼らは何者にも害されることがないから。
妖精には触れない。手を伸ばしても、まるで蜃気楼のように揺らいで、すり抜けてしまうだけ。
このことから彼らを生物と見なす学者はごく少なく、むしろ現象なんじゃないか、という意見も出てくる。
妖精は捕食もしない。
というか、何か栄養を摂取している様子も今のところ確認されていないそうだ。呼吸自体がエネルギー補給になってるんじゃないか、と図鑑に書かれていたのを読んだことがある。
彼らと仲良くなるのは結構簡単。
メジャーな方法としては、星のよく出た晩に、窓辺に金平糖を置いておく、というもの。
さすがに最初からは難しいが、数回繰り返しているうちに妖精がグループで遊びに来てくれるらしい。
子どもの頃、誰でも一回はやってみる定番のようだ。
食べるわけでもない金平糖に、なんで惹かれてくるんだろうな?
ガラス片では駄目なんだそうだ。金平糖が良いんだって。
ただ、このやり方だと妖精より先に、虫が寄ってくる場合のが多く。お母さんたちが酷く嫌がるのだとか。
この世のどこかには、妖精の街があるという。
妖精が街主で、妖精だけが住まう秘境。
まるでおとぎ話だが、全く別の地域の妖精が、この街について同じ内容を語ったらしい。
本当にあるのかな?
人間には立ち入れない、神秘のベールで覆い隠された泉と、その畔に立つ扉の樹。
行ってみたい……行ってみたいけど。そういうとこって、立ち入ったら野暮な気もする。
夢に見とくくらいが丁度いいというか。
実は最近、オレの身近にも妖精がいる。
寝るときに枕元に置く鈴剣、これに寄って来るんだ。
オレたちが寝静まった後に、鈴で遊んでいるらしく、チリチリという澄んだ音を夢の中で聞いた気がする。
キアシアはふと目を覚まして、彼らの姿を見たそうだ。
炎の頭髪を持つ、可愛らしい四人組だったって。
オレも見たくて、夜更かししてみたんだけど。どうも、起きてると出て来てくれないらしい。うぅん残念。




