表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/427

起:序 ≪手記≫

 手記No.10:『世界樹』ドゥノー


―― 槍の月 / 下耳(げじ)の曜 ――

 

 カシュカ大陸全体を人間の胸部に見立てたとき、心臓の位置には天を()く巨木がある。

 それがドゥノーだ。


 樹齢二〇二年。歴史と呼ぶに十分な年月を経ているが、余所と比べれば取り立てて古いわけでもない。

 でありながら何かの間違いのように異常成長した『扉の樹』で、イグナの計測では全長1472メートル余り。

 なんとまぁ。現代史で習った、かの電波塔より倍以上高い。まさしくスカイツリーってわけだ。

 しかもまだ伸びている最中という。


 面白いのが人々は、根元や樹の周辺に家を建てているのでなく、樹自体を街としていることだ。

 樹が(いた)まないよう、細心の注意を払って幹や枝が掘り進められ、(るい)を見ない積層都市と化している。

 そういう生態のアリを、いつだったかテレビで見たような。


 世界樹の広げる枝葉(えだは)から落ちる影の内側がドゥノーの土地、という取り決めになっているらしい。


 主産業は牧畜。羊だ。

 牛のように大きくなるヨンム種というのがメインで、そこから得られる諸々がドゥノーの(かて)となる。

 羊毛、羊皮、羊肉、羊乳、骨や角は呪物。すごいな、羊って捨てるところがないんだ。

 滞在中の食い物には大変期待が持てる。


 文化については魔術、それからカラクリも中程度は見込める。

 魔術の方はともかく、カラクリの方は意外といえば意外。

 (みどり)豊かな風景は、オートメーションとはあんまり印象が結びつかない。

 まぁでも、エレベータくらいなくては、世界樹なんかでとても暮らせないか。


 学ぶこと多いようであれば、長逗留(ながとうりゅう)の予定。


 春の世界樹には花が咲き誇るのだとも聞いた。

 夏には新緑が燃えるように(まぶ)しく、秋には紅葉が景色を幻想的に曖昧(あいまい)にして、冬には一面に落ちた葉っぱで大人も子供も頬っぺたを真っ赤にして遊ぶのだとか。

 今の時期なら花の残り香くらいなら、あやかれるだろうか。


 あぁそうだ。

 ドゥノーにいる間は、炎は自重しなくちゃ。

 引火でもしたら、目も当てられないものな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ