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復讐について

 初対面の少女へ(いだ)くには、あまりにも不自然で強烈な『負い目』。

 ……その正体は、キアシアが教えてくれた。


 (そで)()()うも他生(たしょう)(えん)、なんて生易(なまやさ)しいものじゃない。

 この世界で二者の間に結ばれる(えにし)は、オレたちの世界よりもよっぽど呪的(じゅてき)だ。

 害した者と害された者。そこには血縁よりも強固な(ひも)が付く。

 いっそ目に見えるじゃないかと恐れるほど、はっきりとその縁故(えんこ)はそこに『在る』。


 この世界にあっても、因果応報(いんがおうほう)は物理法則に組み込まれていない。

 それを補うため、魂に刻まれたシステムなのだろう、と無意味に想像する。

 復讐を(こころざ)す者、その権利を有する者には、特別な嗅覚が(そな)わるのだそうだ。(あだ)追うための、執念じみた嗅覚が。

 胸に抱いた(くら)き呪いを、晴らすために。


 そしてオレの魂にも、すでに(くさび)が撃ちこまれている。

 逆棘(さかとげ)の返しがついた、鉄臭い楔。

 そこから伸びた鎖は、あの義手義足の少女へ伸びているはずだ。

 オレたちは望めば、迷うことなく互いを目指していける。


 キアシアも、そうやって復讐を果たしたのだ。

 その呪いから力を得て、神召喚までやってのけたのだ。

 当時のことを、実はあまり覚えていないのだと言う。怨敵(おんてき)がこと切れるその瞬間まで、ただ必死で、怒りと悲しみと憎しみと……それからもっともっと言葉に言い表せないほど黒い感情とで、いっぱいで。

 言われてみればあのときのキアシアは、容姿も話し方も今とまるで違う、(ゆが)んだようだった。


 ということは、あの男、オレが初めて焼き殺したあの支配者も――今のオレと、同じ罪悪感を抱いていたのだろうか。

 それともその楔をあまりに多数受け過ぎて、とっくに何とも思わないまでに摩耗(まもう)していたのだろうか。奴はそれくらい、他者を害し続けていたから。

 今となっては知る(よし)もない。

 ただ……。

 あの男に関連して、オレが誰かから復讐の対象にされている様子はないから。

 つまり、あの男は、そういう男だったのだろうとは思う。


 そういう男と、オレは今、同じ穴の(むじな)ってわけだ。


 オレは今、あの少女の(かたき)になっている。

 それはとても特別なことなのだそうだ。

 少女に、人生と引き換えに出来るほど大切な誰かがいなければ有り得ない。

 オレが、その誰かを殺してしまったのでなければ有り得ない。


 ……心当たりがない、わけではない。

 彼女の容姿は、ドゥノーの思い出を強く呼び起こす。

 だが不可解だ。

 オレが首を()ねた、あの先代の巫女(みこ)。あれと少女を結びつけるとすれば、姉妹か母娘(おやこ)か。

 だがあれに妹か娘がいたのだとすれば、オレよりももっと年上の計算になるはずだ。リンリャもそんな存在については一言も言っていなかった。

 先代巫女が世界樹から旅立ち、魔物になり、帰るまでのどこかで生んだ……? そんなことが有り得るのだろうか。


 あるいは生まれ変わりか。

 丁重に(とむら)ったのなら、その可能性は低いと、キアシアもユノハも言うけれど。


 ……とにかく。

 相手の正体が何にせよ。これは真剣に(とら)えて、対処しなければいけない事態だ。


 心情的なことを、この際正直に言ってしまうと、あの娘に()たれるのも、不当でない気になっている。

 オレはそれだけのことをしたのだから……。

 己の身内が殺されたら、自分ならどうするかと想像すると、少女への感情移入が強く()く。

 その弱気を、イグナが正確に感知して、しっとりと(たしな)めるように言った。


 ――あの時のリクホ様には、ああする以外にありませんでした。

 ――あの行いは、まったく正当なもの。

 ――それにもしリクホ様がいなかったのなら、本来(かたき)に設定されていたのはリンリャさんのはず。リクホ様は(はか)らずも、彼女のことも救ったのです。


 まったく。

 感情に直接衝撃を食らって、どうも目眩(めまい)を起こしていたようだ。

 イグナの言葉が冷や水になった。


 ナユねぇのことを考えれば、オレは復讐されてやるわけには絶対に行かないのだ。

 そうでなくとも――多少の己惚(うぬぼ)れも覚悟して言うが――オレが殺されれば、今度はきっとあの少女へ対し、イグナが復讐に狂う。もしかしたら、キアシアも。その後の彼女たちがどうなるかは、考えたくない。


 オレは、復讐されてやるわけには、絶対に行かないのだ。


 ならどうするか。


 あの少女の復讐心を治める……そんなキレイゴトは、オレが言っていいことじゃないだろう。

 ではオレは、あの少女をも斬ってしまう覚悟を決めるべきか。

 それは羅刹(らせつ)への入口ではないのだろうか……。


 いずれにしても、再会の時はそう遠くはあるまい。

 そのとき発する言葉を、今のうちに心に決めておくべきかもしれない。

 謝罪か。

 あるいは反論か。

 どんな枕詞(まくらことば)から始めるにせよ……伝えなければならないことは。


 オレは、復讐されてやるわけには、絶対に行かないのだ。


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