結:起 ≪城下≫
ホールの床は陸歩の剛力で殴ってもビクともしない。
が、神威を漲らせた鍵爪で引っ掻けば、まるで扉に鍵を挿したように、容易く口を開けた。
現れるのは、下へと延々続く螺旋階段だ。
警戒しつつ陸歩が前へ立ち、キアシアと共に下ると。その先はまたホールに出て、そこではイグナとユノハが待っていた。
「リクホ様っ、キアシアさんっ」
「イグナ! 無事だったか!」
「無事…………はい」
イグナが判定に時間を要し、途端に陸歩は般若だ。問答無用でユノハの胸倉を掴み上げる。
「覚悟はいいか? あァん?」
「いやいやいや、何にもしてないって、無実だって」
「イグナに怪我させなかったろうなぁ!?」
「怪我……」
ちらりとユノハがイグナを見て、またイグナも見返していて、一瞬だけのアイコンタクト。
ユノハの表情が小馬鹿にしたようにヘラリとする。
「させるわけないじゃん、この僕がさぁ。
ていうかリクホくんこそぉ、どうしたのぉその左目」
指摘の通り陸歩の左目は赤く腫れ上がり、それは星頭の騎士から食らった神球によるダメージ……要するにユノハの仕業だ。
白々しいユノハに陸歩は青筋を浮かべる。
キアシアが間に入る。
「まぁまぁ、感動の再会はそれくらいにしてさ。ゴール、近いんでしょ?」
「あぁ。勘だけどな」
「なに、リクホくんもそう思ったわけ? ……ヤダなぁ、センスが一緒っぽくて」
「『も』って……オレもヤダよ、それ」
信託者同士、奇妙に一致した見解に、それぞれが顔をしかめる。
そんな彼らに「ですが」と意を挟んだのはイグナだ。
「もう少し進まねばならないようですね」
彼女の見据える先にはまた扉だ。
もうここまでで何枚の扉を見てきたことか。
あれを開けた先が、例えば祭壇のようになっていて、秘宝が安置されている……そんな期待を込めて、陸歩が手を掛けた。
ユノハも手を掛けていた。
「あん?」
「美味しいところは僕も欲しいなぁ」
「…………」
ぶつかり合う視線が殺気を帯び、キアシアがまた呆れ声でそれを遮った。
「いいじゃない二人で仲良く開ければ。ほら、早く」
「「……せーっの」」
陸歩は押した。ユノハは引いた。
「「…………」」
チグハグに開いたドアの向こう。
全員が言葉を失う。
まず花畑が広がっていた。
ここまで目につくのは塩の白ばかりだったから、その緑と黄色と赤との鮮やかさには目が眩むほどだ。
どこまでも、は広がっていない。円形に区切るように崖になっていて、その先は塩の岩壁。
見上げれば空だ。
陽光が燦然と降り注ぐ。と同時に降る雪のようなものがあって、陸歩が指先で受け止めるとそれは、塩だった。
小鳥のさえずりが聞こえる。だが生き物の姿はおろか、気配も、呼吸もしない。単なる環境BGMのようで不気味である。
何より、花畑の中央に鎮座する、城。
城だ。塩で出来た城。
そびえ立つそれに、キアシアが「んー……」と息を漏らす。
「女帝様のお城とよく似てる、わよね?」
「はい。しかし、相違点も相当数あります」
イグナはさっそくワスプを放ち、周囲と合わせて測量しながら言った。
「――差し当たっては、門番の姿は見受けられませんね。もっとも、城の内部もその限りとは断言できませんが」
「まぁ、そうだよな。どう見てもあの中だよな、秘宝ってのは」
「玉座がゴールと見たね、僕ぁ」
「外からズドンって崩せないわけ? リクホの神威でさ」
「やっぱキアシアちゃんって過激だよね。でも僕もそれ、いい案だと思う」
それは陸歩自身も考えないではないが。
しばし思案。周囲の環境、特に足元を気にする。
「……ダメだな。地面もこれ、土じゃなくて塩だ。神威で城を消し飛ばしたら、足場も吹き飛ぶ」
「秘宝の形状も不明ですので、強引な手段は推奨されません」
地道に行くしかないか。
それぞれが諦めるように肩を竦めたり、頷いたりした後、荷物を背負い直す。
と、そのザックの重さに、陸歩はふと思った。
「飯にしようか」
「えぇ?」
「だって、もう攻略するのはあの城だけだろ? 食料の残り、気にする必要あるか?」
「…………」
誰からも否やはない。
後は早かった。その場に車座になり、火をおこし、水を惜しげもなく沸かし、保存食をキアシアが鍋で調理する。
出来上がった皿は、キアシアが意図して薄味だった。放っておいても降ってくる塩で、しょっぱくなるからだ。




