表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/427

承:起 ≪突入≫

「おっし。そんじゃ、ブリーフィング始めるぞ」


 オーゼンフォリオでの拠点と定めた宿にて。

 陸歩はテーブルに地図を(ひろ)げつつ、仲間たちの目を順番に見る。

 イグナも、キアシアも、そしてユノハにも十分な覚悟が(とも)っており、同意するように頷いた。


「女帝様直属の諜報部(ちょうほうぶ)が頑張ってくれたおかげで、ここのダンジョンの大筋(おおすじ)が手に入った。……これ一枚でえらい値段するらしいぜ」


 という羊皮紙が、計六枚。

 それらをペラペラとめくりながら、キアシアが(たず)ねた。


「ってことは、六階層ってこと?」


「今のところ探索が済んでるのが六階層ってこと。その下は、七階でお(しま)いかもしれないし、さらに三十階あるかもしれない」


「うへぇ……」


 イグナはしばし、各地図を読んで電脳内に取り込み、立体図として構築し直していたが、やがてことりと首を(かし)げる。


「地図が全て、途中で途切れています。紙の面積の問題でしょうか」


「あー、それな。実はどこも広すぎて、(はし)まで辿(たど)()いてないんだと。だからどの階も、そこを専門にしている冒険者まで居る始末(しまつ)らしくて」


「……街の地下にこれほど広大な空洞(くうどう)があって、柱の配置がこの図の通りだとすれば、計算上は崩落しているはずですが」


 それにはユノハが答えた。


大方(おおかた)、内側で空間が(ゆが)んでるんじゃないかな。多分外から見るのと実際の広さとが、イコールじゃないんだよ」


「そういうものですか」


「うん。ここのは、地図があるくらいだから違うみたいだけど、僕が知ってるのは潜るたびに形を変えたし。頭の上に青空が広がってるフロアもあったよ。地下なのにね」


「まぁそういう摩訶不思議(まかふしぎ)に挑もうとしてるってわけだな。どれくらい長丁場になるかは分からない。

 ……で、だ。ユノハ」


「うん?」


「お前って飯、食う?」


「……んーっと? 質問の意図が分からないなぁ。普通に食べるけど」


「じゃあ食料はキアシアと合わせて二人分だな」


 なおさら意味が分からん、という顔をするユノハに、陸歩は肩を(すく)めた。


「オレとイグナは、熱さえあればエネルギーの補給は出来るから」


「うーん、便利っていうか、味気ないっていうか」


「可能なだけ荷物は減らしていきたい。水や食料なんかはダイレクトに嵩張(かさば)るだろうし……迷宮内の生物って食べられたりしないか?」


 キアシアもユノハも、ぶんぶんと全力で首を横に振る。


「いるのって獣じゃないでしょ、魔物でしょ。無理無理、料理になんて出来ない、したくない」


「ヤダね。絶対ヤダ。魂が(けが)れる。だったら自分の肉を()いで食べる方がマシだよ」


「あぁ、そう? そういうもん?」


 となると四人の荷物に二人分の食料を()める必要があるということだ。

 一日三食で計算するならば、大よそで二十日分が運搬可能である、とイグナが示す。


「ひとまずは片道十日までは進んでみることにしよう。

 ダンジョンがそれ以上に続くようなら、一度戻ってきて対策を考える。持ち込む食料を増やすには……」


「牛でも使うとか?」

「魔具なりカラクリなりを用意するとかね」

「人員を手配してリレー式に運ぶ、という手もあります」


「そのどれかしらだな。

 (さいわ)い、六階までの道はこの通りだから、一日で辿(たど)れるってよ。案外、食糧事情は杞憂(きゆう)かもな」


 陸歩は六枚の地図を横に並べ、それぞれの一か所ずつを指で()していった。


「下へはどこもこの、ホール状の部屋から降りるらしいぜ。真ん中に穴が開いてて、螺旋(らせん)階段が伸びてるって――」


>>>>>>


「――って話じゃなかったっけ?」


 ユノハに指摘されるまでもなく、陸歩ももちろん頭を抱えていた。


「……っかしいなぁ。密偵さん、裏取りのために二階までは降りてみたって言ってたんだけど」


 曲がりくねった石造りの地下迷宮も、地図に従えば苦もない。

 陸歩たち一行は、特に迷うこともなく、魔物と会敵することもなく、一時間とかからずに二階へと続くホールまで辿(たど)()いた。

 はずだった。


「階段どころか、穴もないじゃない」


「ない、よなぁ……えぇ、なんで? (ふさ)がった?」


 部屋の真ん中には、円形に模様の付けられた床が固くあるばかりで、話に聞いていたルートなど存在しない。

 今まさにイグナが手をついて(あらた)めているが、やがて顔を上げて首を振った。


「継ぎ目もありませんね。後から封じたわけでもなさそうです」


「……地図、読み間違えたか?」


「いえ。間違いなくここです」


 ははぁ、とユノハが曖昧(あいまい)に笑んでいる。


「さては僕ら、迷宮の悪戯心(いたずらごころ)()まってるのかも」


「オレたちに限ってかぁ? なんでまた」


「さぁ。なんでだろうね」


「……んで? キアシアはそれ、何してんだ?」


 見れば彼女はイグナと同じように、いやそれ以上に(ほほ)まで(こす)りつけて床を調べているではないか。

 正確には耳を当てていて、銃床(じゅうしょう)石畳(いしだたみ)を叩き、音を聞いていた。


「昔読んだ、冒険小説の真似。ねぇこの下、やっぱり部屋みたいだし、床ぶち抜いちゃえば?」


「キアシアちゃんって意外と過激だね。でも僕も賛成」


「…………。イグナはどう思う?」


「はぁ。いざとなれば工事もやむを得ないでしょうが、まずはアレを()くべきかと」


「アレ? 解く?」


 彼女が指さす頭上を見上げる。

 そこには天井いっぱいに、力強い筆致(ひっち)で、何か文言が書き殴られていた。


「……あんなん、あったっけか?」


「いえ。二分前までは存在しませんでした」


「嫌だなぁそういうの。……で、アレってなんて書いてある?」


「「「風が抜けるは、翼の先」」」


 イグナだけでなく、キアシア・ユノハにも同時に答えられ、陸歩は何とはなしに居心地が悪い。

 そろそろ読み書きくらい自力で出来ないと、格好がつかないところではある。

 それはそれとして。


「つまり、なんだ。羽を出せば進める、って解釈でいいのか? 神託者の翼を」


「それでいいと思うよ。迷宮の悪戯は、僕とリクホくんが神託者だから作動したってのが濃厚かな」


 さらにユノハに言わせれば、神託者用のルートが開かれる可能性も大だそうだ。

 となるとせっかく用意してもらった地図も、地下二階層以降が全て無駄ということになる。なんとも勿体(もったい)ない。


「まぁ仕方(しかた)ない。翼を出すのはオレか、それともユノハがやるか?」


「二人同時にが、こういう時のお約束じゃないかな」


 部屋の中央の円、その外周上に、それぞれ向かい合う形で立つ陸歩とユノハ。

 イグナとキアシアもまた円状に立ち、神託者たちにそれぞれ頷く。


「それじゃあ、リクホくん」


「おう。――せぇ、」


「「のっ!」」


 二人が翼を出した瞬間。


 床が抜けた。轟音(ごうおん)と共に。


「はっ――」


「や、ば、」


 まずいと思っても遅い。

 ホール内の床が総崩(そうくず)れ、(のが)れることも(かな)わない。

 四人はただ、落ちるのみ。


「――キアシアっ!」


「リクホ、」


 瓦礫(がれき)と共に落下しながら、せめて必死でキアシアを抱き寄せる。


 イグナは、ユノハは。

 二人の無事は祈るしかなく、陸歩は固く歯を食いしばり、自らの身体でキアシアを守るべく丸くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ