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fly high  作者: 冴河冴
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ロシア ストリートチルドレン

 寒い。

 俺は寒気を感じて目を覚ました。いつの間にか、寄りかかっていた下水道管から身体がずれていたようだ。温水が流れる下水道管は、思いのほか暖かいのだ。その所為で鼠とゴキブリがうようよいるけれど。まあ、ここもあまり居心地がいいとは言えなかった。

 生活排水の悪臭に顔をしかめながら、ひざの上に座っていた鼠を追い払った。足をかじられたりしたらたまらない。ポケットに捩じ込んだ僅かな小銭とナイフが盗まれていないことを確認し、俺は起き上がった。大して高価じゃないが、寝ている間に()られていたりしたら困るのだ。このナイフには結構思い入れがある。

 素足を冷たさが襲った。何日も風呂に入ってなくて頭がかゆかった。シラミの所為だろう。燃料をかけるとシラミは死ぬらしいが、昔目に入ってと失明しかけた奴がいたので怖くてできない。

 金に余裕がある日など無い。空腹を抱えながら、マンホールをこじ開け、外に出た。この場所を覚えておく必要は無い。またその辺で寝ればいいだけの話だ。

 俺は街をぶらぶら歩いてカンとビンを探した。売ればちょっとした金になるのだ。

……二円三円の世界だけど。

 ゴミ箱を見つけて、俺は少し漁ってみたけれど、金属片で指を切っただけだった。

「ぃったっ!」

 舐めときゃ治るだろうと思ったが、舐めたら腹を壊しそうなほど手が汚かったのでやめておいた。化膿したらどんまいだ。辺り一帯を捜してみたが、都合よくその辺にビンが捨ててあるわけも無く、結局無駄足に終わってしまった。他の奴らがもう拾って行ったのかもしれない。その辺にビンが落ちているかどうかは、俺たちストリートチルドレンにとっては死活問題なのだ。

 あきらめて俺はその後、靴磨きをさせてくれと数人の大人に頼んだが、にべも無く断られた。俺は一人ごちた。

「ついてねえな」

 

 日は昇り昼ごろになり、空腹に負けて、有り金で屋台のホットドックのハーフサイズを買った。四日ぶりの食事だ。二本食っても足りないくらいだったけれど、生憎そんな金は無い。

 ボンド食ってた昔に比べりゃましだ。俺はそう思うことにした。

 あっという間に食べ終わってしまい、そこで店をしばらく睨んでいた。

俺は目が悪いのと細いのと、もともと目つきが悪いのとで、睨むと喧嘩上等みたいな顔になるらしいのだ。(by幼馴染 笑)もっともそんなんでサービスしてもらえるほど世の中甘くないのはわかってるんだけど。


 そうしたら向こうから人影が、あれは……

「ひさびさじゃ〜ん!!元気してた?」

「あ?ああ」

 それは昔別れた幼馴染だった。

「ね、お腹すいてんの?また痩せたね」

「引き締まったといってくれ。ていうかお前もだろ?」

「いや、臨時収入があったから。ホットドック一個くらいなら買ったげるよ」

「お前…!」また援交したのか。

「また……その…」

「別に金の出所なんかどうだっていいでしょ!生きるためには食べなきゃならないんだから」

 彼女が身体を売っているのには反対だが、この空腹には耐えられそうに無かった。

「………。」

「いいわよ。空腹の辛さくらい知ってるもの」そういって彼女は出店まで走っていった。

「あいつ……」


   *


 俺とあいつは家が隣だった。

 あいつは母親に似て美人で、似なかったが俺の父親は男前だった。俺が四歳のとき引っ越してきてほどなく、俺の父親とあいつの母親は不倫したのだ。

 事が露見するきっかけとなったのは、あいつの母親の妊娠だった。発覚したのはたしか、俺たちが八歳のとき。

 家庭が崩壊した。

 俺の父親は母親を捨て、あいつの母親は父親から逃げた……駆け落ちしたのだろう。その後俺の母親は麻薬に、あいつの父親は酒に走り、俺たちに暴力をふるうようになった。食事など与えられない。家事をしなければならないから学校に行く時間もない。罵詈雑言を浴びせられ、物を投げつけられ、八つ当たられた。

 ヒステリックに怒鳴り散らす彼らと暮らすのは、もう限界だった。

 だから俺たちはこの身ひとつで逃げ出した。十一歳の時だった。

 俺たちはふたりで毎日必死で生きた。生ゴミでもボンドでも鼠でも食った。腹壊すとか病気になるとか、そんなこと気にしていられなかった。寒くて死にそうだったし、食い物がなくて餓死しそうだった。服はあっという間にボロボロになり、盗んでくるしかなかった。

 知り合った奴には暴力で生計を立てている奴もいた。あいつが絶対だめだって言ったから俺はそうはしなかったけど。それに、そういう奴らはいずれ暴力で消される。

 そしてそんなある日、あいつは急に俺の前から消えたのだ。『これ以上一緒にいられない。』と、そう言って。


 それは俺があいつに対して、女の子だからといって気を使っていたのをわかってたんだろう。


 そして俺にそんな気使いをさせたくなかったんだと思う。あいつは優しくて、いつだって人のことを考えていたから。

 俺はあいつが大好きだったし、今もそうだ。あいつもそう思ってると思う。だから俺たちは別れたのだった。

 いつだって心はひとつだった。いつだって二人でやってきた。いつだってお互いを思っていた。だからこそ。


 別れた後、俺は靴磨き、空きビン売り、煙突掃除…要するに何でもやっていた。そしてあいつは、ストリップショーと援交で生計を立てていた。

 俺はそれを知ったとき全力で止めた。あの華奢な体がどんなふうにいたぶられているのか、あの細い足を誰が撫でているのか。考えただけで死にたくなった。男達にそういう目で見られているなんて耐えられなかった。俺はあいつにだけはそんなことしてほしくなかった。生きるためだなんて、そんなことをする理由にならなかった。

 だけど何を言ったってあいつはやめてはくれなかった。

 俺はあいつを止められなかった自分が不甲斐なくて、嫌で、憎くてうざくて仕方なかった。一緒にいればこんなことにはならなかったはずなのに。そんな思いが頭を離れなかった。俺は生きるために手に入れたナイフを自分の腕に突き立てて、何度も切った。血がだらだら流れたけれど、俺はやめなかった。

 あいつは俺の血だらけの腕にすがりついて、そんな俺を必死に止めた。死んじゃうよ、やめてって、泣きながらそう言っていた。

 あいつの優しさが痛いほどわかって、それがわかればわかるほど俺は悔しくなった。

 何故あいつがこんな目に遭わなければならないのか。クズな奴なんかいくらでもいるのに、どうしてあいつなのか。

 どうしてあいつは親に愛されることさえかなわなかったのか。どうして……どうして………


   *


「おまたせっ!」

 満面の笑みで、自分も食いながらホットドックを差し出してきた。

「……わりぃ」

「いんだよ別にぃ。ほら、食べてよっ!」

 俺はホットドックを受け取って食べた。こいつはいつもそうなのだ。どんなときでも誰に対しても明るく、笑顔を絶やさない。

 俺にはできない。

 俺は食べ終わったころを見計らって話しだした。


「お前、まだ……援交してんのか」

「…そうだよ。だけどその話はもうしないでほしいって、言ったよね」

 声が怒っているのがわかったが、俺はやめるわけにはいかなかった。

「……やめてほしいんだ。お前にそんなことしてほしくないんだよ」

「私に死ねって言うの?」

「違う!俺はただ、お前が金で男に抱かれるなんてそんなの…嫌なんだよ!」

 俺は彼女を強く抱いた。

「なんでお前がそんなことしなきゃいけないんだよ!クソなのは俺たちの親で俺たちじゃねえのに!」

 彼女の身体が強張っていた。

 その身体が、彼女は一度だって愛されて、抱かれたことがなかったことをあらわしていた。

「ごめん」彼女はそう言って続けた。

「私のためを思ってるのはわかってる。だけど…もう誰も信じられないよ……」

 彼女は俺の胸で声殺して泣いていた。下を向いて泣き顔を隠していた。


「泣いていいんだよ……我慢すんなよ」


 向こうでゆっくりと日が沈んでいくのが見えた。


 明日も食い物がないかもしれない。こいつはまた援交しなきゃならない。寝床だってないかもしれない。リンチに遭うかもしれない。寒さに凍えて死ぬかもしれない。

 どうしてこんなに不公平なんだろう。何でこんな不条理がまかり通っているんだろう。俺たちは十三で、まともに働くこともままならない。子供だというだけで、どんなに困っていても、まともな所に雇ってはもらえない。

 一度泣いてしまったら止められなくなるから、俺は上を向いた。そうやってやり場のない思いを押し込んだ。

 俺まで泣いてたまるかよ。

 どうして俺たちの親はあんなになってしまったのか。いつか俺たちも俺たちの親のようになってしまうのだろうか。そんな親たちに育てられた子供は生きていけるのだろうか。どうしてこの国はこんなに貧しいのか。どうしてこんな目に遭わなければならないのか。


 そして俺はどうして……愛されないことくらいわかっているのに、親のことを心の底から憎めないのか。あいつがいなかったらボンドなんて食う必要なかった。寒いところで練る必要なんて無かっ。こんなに辛い思いをすることは無かった。彼女がこんな目に遭うことなんて無かった。それなのに。

 そんな感情、あっても邪魔なだけなのに。

 俺はどうして、家を出ないほうがよかったんじゃないかって、母親が悲しんでるって、そう思ってしまうのか。

 そんなはずはないのに。

 わかってるはずなのに。

 こんな小説を書いておいて無責任な話ですが、私は募金活動とかは積極的にやるほうではありません。だけど少年兵やストリートチルドレンの子供たちの暮らし…それどころか存在すら知らない日本の子供は沢山います。

 そういうことを考えると自分は超低い次元で悩んでるよなあなんて思います。生きてる意味があるんだろうかとかテストの点やばいんじゃないかとか悩んでる自分はそう考えるとかなり幸せなわけです。少なくとも明日生きていられるかを心配せずにこれまで生きてこられましたから。

 そんなことを思いつつ日々過ごしています。

 変なところ、誤字脱字、感想などありましたらお知らせいただけるとうれしいです(酷評でもOkです。参考にさせていただきます)

 ここまで読んでくださった皆様、本当に本当に、ありがとうございました♪

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