【11話】王と貴族
もっと貴族様活躍させたかったです。
それが心残り。
「サンク様……それはあとは私の方で処理しておきますので、こちらに……」
「ん? いいよ、これくらいやっておくから、キリアは自分の方進めてくれていいよ?」
「いえ、あの……その案では街道の整備を行う際の警備が多すぎますので、少し調整をかけて再提出させなければいけませんので……」
「あぁ、だからこうして……あ、これじゃあまりにも少なすぎて逆に反発を買うことになるな……はぁ、すまない。キリア頼む」
「はい。大丈夫ですよ。どの道今は魔物の襲撃があったばかりで警戒が必要ですので、練り直して再提出させる方向にしますので」
「そう……だな。今はあまり進めない方が無難か。はぁ……」
「珈琲でも淹れて来ますね。少し、気持ちを落ち着けましょう」
「落ち着いてはいるよ。いるはず……なんだけどな………」
こんな悠長に普段と変わらない日を送ってていいんだろうか……。
何か、何かできることはないのか?
くそッ。待ってるだけがこんなにもキツイとはな……。
こっちはこっちで調べを入れるのはどうだ?
いや、アルとカズキが協力して探してるんだ。それ以上に調べることなんて無理だろ……。
結局出来ることなんて何も……
「サンク様っ」
「え、あ、あぁ。珈琲か、ありがとう」
「ふぅ。また昨日の件について考えてらしたのですか?」
「い、いや、そんなことないよ。………いや、ごめん。その通りだよ、考えても無駄だってのはわかってるんだけどね」
「この件に関しては、私も初めから相談できずにすみませんでした。ある程度こちらで調べてから、報告差し上げようと思っておりました。今思えば。最初にサンク様に相談すべきでした」
「ううん。調べる前に相談してくれていたら、俺はもっと取り乱していたと思う……。我ながら情けない話だけどね。キリアの判断は正しかったよ」
「そう言って頂けると助かります。とにかく、この件は私も気にはなりますが、待ちましょう」
「あぁ、そうだな」
「失礼。キリア殿はおられるかな」
「はい。………これは、ミカス様……どうなされたのですか?」
「ルイナス王、ご機嫌麗しゅう。ミカス家当主のクスコーと申します。キリア殿に少し話がありましてな、お忙しいところ失礼致します」
「あぁ。ミカス家の御当主でおられましたか。それで、話というのは?」
「キリア殿に提出した街道の整備の件でしてね。却下とのことでしたが、その理由をお聞かせ願いたい」
「報告書の方にも書かせて頂いた通りです。整備の際の人員が多すぎますし、ミカス様の申請頂いた街路に関しては、通りも少ない地域ですので、今の危険な時期に行うのではなく、もう少ししてからの方が危険が少ないと判断致しました」
「そうは言うがね、キリア殿。利用頻度が低いとは言え、それは利用されていない訳ではないのだよ。少ないとは言え、必要としている人もいる訳だ。その人々の声は無視してしまっていいものなのかね?」
「それは確かに大切ではあります。無視していいとは考えておりませんが、その為に魔獣に襲われて被害が出てしまっては元も子もありませんし」
「その被害をなくすための護衛プランを提出しているのだよ。君も見ただろう? あれなら被害は最小限に抑えられるはずだ」
「ですが、あれではコストがかかりすぎます。何度も言うように、少数を無視するつもりはありませんが、最大コストでの運用をしていては他に問題が多数発生してしまいます」
「そこをなんとかして、市井の暮らしをよくするのが王政の仕事ではないのかね?」
「まぁまぁ。このままでは平行線だ。クスコー殿も1度この件は持ち帰り、再度他に良い案がないか考えてみて下さい。こちらでも妙案はないか考察してみますので」
「…………王がそう言われるのであれば、今日のところはそうさせて頂きます。しかし、コストばかり見て少数を切り捨てる政策では、民は黙っておりませんぞ。そのことはお忘れなきように。では、失礼致します」
「ふぅ。なかなか過激なお方だな」
「えぇ……。おっしゃっていることは間違っている訳ではないのですが……」
「どっちが間違っているということでもないからな。キリアの言うことも正しい。全てを行うことはできないよ」
「とりあえず、私の方で再度検討してみます。他に急ぎのものはありませんので、今日はゆっくりして下さい」
「わかった。キリアも無理はしないようにね」
「はい。ありがとうございます。では、失礼します」
「街道の整備、か。人攫いのことにばかり思考を割いてて、ほんとに他のことが見えてないな……。これじゃキリアに負担をかけてばっかりじゃないか」
しっかりしないとダメだ。
俺がなんとかしないと。
みんなに任せてばっかりじゃダメだ。
俺がキリアを守らないと。
キリアは俺が救うんだ。
「では、こちらはそのように進めておきます」
「あぁ、それで頼む。あとこれは少し保留だな。もう少し煮詰めないと」
「わかりました。それでは……」
「失礼しますっ!! ルイナス王、大変です!」
「ん? どうした!」
「修繕が未定になっていた街道の整備が本日行われており、そこで魔獣が出没! 逃げ遅れた作業員が危険な状態です!」
「なんだって! クスコー殿の言っていた街道か!! ………俺が先に向かう! キリアはガンダに報告を!」
「お待ち下さいサンク様! お1人で向かうのはおやめ下さいっ!!」
「俺がなんとかしないといけないんだ! 俺に逆らうな!!」
「サンク……様………っ」
「あ……いや…………。っ! とりあえず俺は先に向かう! あとからガンダ達を連れて来てくれ! よし、案内しろっ!」
「あちらですっ!」
「状況は!」
「ル、ルイナス様っ! はっ! ブラックウルフ6体が襲撃してきまして、2体はなんとか倒したのですが、残りの4体で逃げ遅れた作業員とミカス様を囲っており、さらに最初の戦闘で2人警備が怪我をしてしまったため、私1人では手が出せない状態です……」
「作業員2名に、クスコー殿まで逃げ遅れているのか……」
「ひぃっ! お、お前ら儂を守れよ!! 仕事を回してやった恩を忘れるな!!」
「ミカス様っ、そんなこと言われましても、命の方が大事ですよぉ……」
「そうですそうです!! 命がなけりゃ、仕事も金も意味ないですよ!」
「えぇい! うるさいうるさい! 黙って儂を守れ!!」
「ダメだ、あんなに騒いで刺激しては、騎士団が来るまで待ってられないぞ……」
クスコーのあの言いようじゃ、自分が怪我でもしたら全てキリアの責任にするはずだ。
キリアの迷惑になることを見逃してはダメだ。
俺がなんとかしなきゃダメだ。
俺ならなんとかできるはずだ。
待ってなんかいられない。
俺が、俺がなんとかしないといけないんだ。
俺が俺が俺がキリアを守らないと。
俺が俺が俺が俺がキリアに降り掛かる火の粉は払わないと。
全て
俺が
1人で
「剣を貸せ。奴らを引きつけるから、その間に3人を助けるんだ」
「い、いえ! ルイナス様に囮役などさせられません! わ、私が囮役になります!!」
「いいから貸せ!! 俺がなんとかする!! 俺に逆らうな!!!」
「は、はい!!」
大丈夫、ブラックウルフ如きこの剣でもやれるさ。
獣ふぜいに俺がやられる訳がない。
簡単さ、奴らを引きつけて、時間を稼ぐだけだ。
「クスコー! 少し黙れ! 魔獣ども、こっち、だ!!」
よし、投げた石に怒って俺に意識が向いた。
「もう一発、くら……えっ!!」
「ギャンッ!……ゥーーーグルルルル」
「来いよ、俺はここだぞ」
来たなっ! 飛び掛かって来たところをカウンターで……っ!!
「う、らぁぁっ!! まず1匹ィィィ!!」
ザシュッ!!
「グルルルルーーグァウッ!!」
「くっ! ってぇなぁぁっ!! だあぁぁ!」
ズシャッ!!
ガキンッッ!!
くそっ。2匹やったけど、右手に噛み付かれた……。しかも、剣が折れやがった…なまくらめ。どうする。
く……前後に挟んで来やがったか。
「くっそぉ。獣の癖に連携なんて取りやがって……」
こうなりゃ、さっきみたいにカウンターで片方やってやる。剣先がないくらい、なんでもないさ。そうすればあとは1体だ!
「ここだ……! らあぁぁっ!! なっ! 踏み止まった?! カウンターを読んだのか!! リーチが足りないとはいえ、そこまで知能があんのかよっ」
やっ……べぇ……体制が戻らない……食われ、る?!
「ギャワンッッ!」
ザンッッッ!!!
バスッッッ!!!
「なーーに1人でバカやってんだよ。そこまでバカだったか? お前誰だよ。ニセモンか? ニセモンなら切るぞテメェ」
「カズ…キ? なん……っで」
「いい加減にしろよ。どこまで暴走すりゃ満足だよ」
「いっ……つ。なんで…なんでこんなとこにいんだよ! お前は人攫いの捜索中だろ!! 追跡、戻……れよ」
「はっ。あいあいー。わっかりましたよー。ただ、俺はどーでもいいけどな、キリアさんにはちゃんと謝っとけよ。泣きそうな顔してたぞ」
「くっ………!」
「ルイナス様、大丈夫ですか!! すぐに手当てを!」
「あぁ……頼む。クスコーと作業員は大丈夫か?」
「は、はいっ! 直ぐに救出して、今は先に運ばれた者たちと一緒に緊急の避難所に。さっきのは勇者様……ですか?」
「そうだ……。ギリギリのところを助けられたよ」
「そうでしたか。流石勇者様ですね!」
「………あぁ」
「サンク様っっ!!!」
「キリア……」
「ガンダ様を呼びに行く途中ユーリ様を見かけまして、向かっていただくようお願いしたんですが……先ほどユーリ様に聞きましたっ! 1人で戦われるんて、無茶しないで下さい……!」
「あぁ、すまん……」
「城に戻りましょう……。あとのことは後ほど私が処理致します。肩、お貸しします。立てますか?」
「大丈夫だ。1人で歩けるよ」
「で、クスコーはどうしたんだ? あのあと何か言ってきたのか?」
「いいえ、彼は王都から逃げました。うまく裏のルートに潜られたようで、申し訳ありません」
「逃げた?! どういうことだ?」
「裏で不正な金銭の授受があったのです。あの街道は裏取引に多用されていたようで、あそこが通れないと困る裏ルートがいくつかあったそうです。そこから、急ぎで街道の補修を行うことを条件に、多額の金銭を受け取っていたようです」
「なるほど……それで街道の補修をあんなに急いでたって訳か」
「えぇ。許可が下りないものですから、自身で人を雇って強引に補修作業を始めたようです。それでブラックウルフの群れに遭遇して……」
「まんまと俺が割りを食ったってことか……」
「すみません。ミカス家は前からよくない噂があったもので警戒はしていたのですが、結局取り逃がしてしまいました。もう少し早く取り引きのことを掴めていたら、このような結果にはならなかったのですが……」
「もう王都には近寄らないだろう。どの道、権威を失った根っからの貴族の行く末なんて、たかが知れてるよ」
「そう、ですね……。サンク様、今回の件ですが……」
「今回のことはこれで終わり。今キリアに報告を受けたことが全てだ。それ以外のことは何もないよ」
「……わかり、ました。では、失礼します」
「あぁ………。ご苦労だった」
今回は失敗したな…。いくらなんでもブラックウルフに苦戦するとは思わなかった。
カズキのことを言えないな、俺も。
それよりカズキだ。確かに助かったが、あんなところに現れている場合じゃないだろ。
いつになったら見つかるんだ。
いつまでこうして俺は待っていればいいんだ。
早く。早く見つけてこい。
早く早く早く早く見つけてこいよカズキ。
俺が………
人攫いなんて、俺が皆殺しにしてやる。




