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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第一章:きゃっち・ざ・はーと!
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第八話:その目で確かめるがいい。ここはこれでもゲームショップだ

 ゲームショップ『ぱらいそ』のカウンター横。

 本来ならここにも商品を陳列する棚が並んでいる筈なのに、何故か全て取り除かれていて、代わりに壁には今まさに行われているゲームを映す大型モニターが取り付けられていた。

 そしてざっと見て三十人は下らない観客が熱い視線を注ぐ中、バトルはお互い一ポイントずつ取り合っての最終戦に入っていた。



 美織が操るのは、アホ毛がトレードマークのJK格闘家。

 対して相手のバンダナを頭に巻いた男は、筋肉達磨の傭兵を使っている。

 それまで派手な戦いが繰り広げられたこの一戦。しかし、最終戦は違っていた。

 間合いと読み合い地獄の中、相手がかすかに見せる攻撃後での隙を冷静に見極め、確実な一撃でダメージを与えていく戦法を美織が取ったのだ。

 派手さはない。が、反撃も喰らいにくい堅実な戦い方だ。勝負に徹したと言えば聞こえはいいが、いつだってギャラリーはドラマチックな展開を望む。当然、チキンな戦いには相応のブーイングが飛ぶものだ。

 ましてやそれまで熱い戦いが繰り広げられたのならば、なおさらのことだろう。

 だけど美織は意に介さず、己の道を貫き通す。確実に、確実に。相手の体力を奪っていく。

 故に先に焦れたのは相手の方だった。

 男だって、何も反撃を食らうために攻撃を仕掛けているのではない。敢えて隙を作り、そこを突かれたところを逆にカウンターで仕留めようと虎視眈々と狙っていたのだが、いかんせん美織の確実性を重視した攻撃には付け入る余地などなかった。

「おおおおおおおおおっーーーーーーー!」

 ならばと男が試合中盤にも差し掛かったあたりで変化させた戦法に、ギャラリーが一斉に沸いた。

 男は美織が放つ反撃の一撃に、敢えて拳を繰り出した。もちろん美織の攻撃の方が早く、カウンターとなって男には通常よりも大きなダメージが通る。

 しかし、ダメージを食らってでも男が放った拳は、必殺ゲージ一本分を消費しての強化フックだった。通常技なら攻撃を喰らえば潰されてしまうが、強化技ならば相手が先読みしての連続技でない限り攻撃を出し切ることが出来る。

 男の操る傭兵の右フックが、慌てて間合いを取ろうとバックステップする美織のJKをすんでのところで捕らえた。

 ダメージ……は大したことない。

 それよりも強化版フックを喰らったことによる硬直がマズい。JKの膝がかすかに沈む。致命的な隙。男が逃すはずがなかった。



「まいったわね、さっきまでチクチク攻撃してた分のリードが全部なくなっちゃったじゃない」

 ここぞとばかりに強烈なコンボ攻撃を喰らい、体力ゲージを大幅に減らした美織が呟く。

 お互いの体力はここにきて同じぐらい。でも、流れは完全に男に傾いている。ギャラリーだって、ほとんどが男の逆転勝利を願っていることだろう。

 戦いは先ほどの退屈な展開から一変、スリリングなものとなった。あくまで男の攻撃後の隙を狙う美織だが、これまでのような単発戦法ではまた手痛い反撃を食らう危険性がある。かと言って無理にコンボを狙っては逆に隙が生まれてしまう。

 一方的な試合展開が、まさに一進一退となった。勝利の女神はどちらに微笑むのか。お互いが試合を決める一撃のチャンスを探りながら戦う中、

「……ここだ!」

 今度も男が先に動いた。

 同じように強化版フックでの迎撃。しかも美織は焦って操作を誤ったのか、バックステップすら取れないでいる。ヒットするフック。ふらつく美織のJK。ただ、その後にさらなる違いがあった。傭兵の次の一手がコンボではなかったのだ。

 突然画面が暗転し、傭兵が炎に包まれる……。

「決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 誰かが叫んだ。

「よっしゃーーーーーーーーーーー!」

 男も叫んでいた。

 炎に包まれた傭兵がすすーとJKに近付くと、むんずと体を掴む。そしてバックドロップからローリングしてマウントポジションを取ると連続でパウンドを打ち込む。

 傭兵の超必殺技『グラウンド・ゼロ』だ。他の多くの格闘ゲームがそうであるように、このゲームでも超必殺を決められるとどんな操作も受け付けない。どんどん減っていく美織操るJKの体力ゲージを男は興奮極まって、美織はただ感情を消した瞳で見つめる。

 ふたりの様子を見るまでもなく、勝敗は決した……筈だった。



「え?」

 ところが男も、ギャラリーも次の瞬間、信じられないものを見た。

「えええっ!?」

 何故ならグラウンドゼロが終わっても、試合は終わらなかったのだ。

 わずか一ドット分だけ残した体力ゲージを背に、JKが立ち上がる。

「えええええええええええっ!?」

 そして、思わぬ成り行きに対応できないでいる傭兵に向かって、最終戦ここまで封印していた極悪コンボの幕を開けるショートアッパーをぶちかますのだった。



「すげぇ、『天使の息吹エンジェル・ブレス』を超必殺技に登録している奴なんて初めてみた」

「超必殺技でフィニッシュを喰らった時にのみ、一ドットの体力を残して復活するなんて使い道なさすぎるもんなぁ」

「そんな超必殺技を最終戦でセレクトしてくるなんて、あの新人店長、マジでヤリ手だぜ」

 戦いが終わっても、ギャラリーたちの興奮は冷めやまないようだった。

 無理もない。それぐらい美織の魅せた試合は異様だったのだ。

 美織たちがプレイしていた『ストレングスファイター3』(通称・スト3)は、もともと優れた格闘システムに加えて、一キャラ当たりおよそ十ほど用意された超必殺技が売りだった。プレイヤーはその中からひとつだけをラウンド前に選ぶわけだが(なおレバーとボタンの組み合わせで選択するので、何を選んだのかは当のプレイヤーにしか分からない)、もちろんそれだけ多いと使えるものと使えないものの差が激しい。

 中でも美織が選んだ『天使の息吹エンジェル・ブレス』は攻撃系でもないうえに、発動条件も厳しく、仮に発動しても状況が苦しいには変わらないということで、使い道はまったくないと言われるものだった。

 最初にアーケードで稼動して三年、家庭用ゲーム機に移植されて二年は経つタイトルで、これまでにも数々の大会が開催されてきたが、もしかするとここまで鮮やかに天使の息吹を使って勝ったプレイヤーは美織が始めてかもしれない。

「はーい、じゃあ次の人、今度はなんのゲームで私と勝負する?」

 もっとも当の本人である美織はそんなことどうでもいいとばかりに両手を腰にあてて、ただ単純にゲームを楽しんでいる子供のような笑顔を浮かべるのだった。


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