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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第六章:ひと狩り行こうぜ
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第五十二話:学校へ行こう!

 祖父の経営するゲームショップ・ぱらいそで充実したゴールデンウィークを過ごし、お嬢様学校に戻ってきた美織は早速行動に移した。

 将来ぱらいそで働く為の勉強として、学園内にゲームショップが欲しいと先生に直訴したのだ。

「もちろん、先生がそんなのを聞き入れてくれるわけあらへんよなぁ」

 久乃の言葉にみんなが頷く。

 当然どれだけ美織がしつこくお願いしても、学校側が要望を受け入れるわけがなかった。

 ならばと美織は次に生徒たちにゲームショップ導入を訴え、署名を集める作戦に出る。

「お嬢様学校って言っても遊びたい盛りの子供たちばかり。なのにゲーム機は持込禁止だったから、これはかなりの数が集まったらしいなぁ。でも、だからと言ってこんな要望を叶えていたら、『テスト禁止』『宿題禁止』なんてものもまかり通るやん?」

 提出した署名はあっさりと却下された。

「でも、そうなるとさすがの店長でも打つ手がなくなるんじゃ……」

「そう思うやろ? そやけど、ここからがあの子のエゲつないところなんや」

 直訴してもダメ。署名もダメ。だったら正攻法じゃなくて搦め手から攻めるしかない。

 小学一年生らしからぬ思考だが、これも大企業に生まれた性だろう。

 美織は若い担任やら働き盛りの学年主任に訴えるのを諦め、代わりのその上の世代に自分の協力者を探し始めた。

「『せんせー。せんせーってだいがくでけいえいがくってのをやってたんでしょ? あのね、うちのかいしゃね、こんどけいえいそうだんこもんって人がやめるから、かわりをさがしているのー』とか言って、定年間近の先生に近付いていったんや」

「美織ちゃん、言葉は幼いのにやってることはエゲつねぇ!」

「しかも、同時に生徒会に入ってきてな」

 溜息混じりに話す久乃に、皆は「どうして生徒会に?」と首を傾げる。

 仮に生徒会を掌握しても(小学一年生で生徒会を牛耳るのも凄い話だが)、先生たちを説き伏せない限り、学園内にゲームショップ併設なんて無茶は通らないだろう。

「その時、久乃君は生徒会で会計をやっておったんじゃったか……」

「はい。思えばそれがうちと美織ちゃんの腐れ縁の始まりでした」

 久乃は苦笑しつつ、どこか遠い目をして話を続けた。

 生徒会の会計と言うと、基本的には生徒たちの活動費に関する事を仕事とし、学校の運営費そのものにはタッチできない。

 しかし、このお嬢様学校では、学園運営費の内容が生徒会に公表されていた。

 つまりは生徒を代表する者がちゃんと検閲し、潔白な学園運営が行われていますよというアピールのつもりなのだろう。

 もっとも実際はまだまだ子供な学生に、学園運営の決算報告なんてよく分かるはずもなく、先生の報告に間違いなんてあるわけないだろうという「信頼」って名の先入観でおざなりになっていた。

「でも、美織ちゃんは違ってた。『ぜったいふせーがあるはずだからしらべたい』ってしつこくうちに言ってきて、仕方ないから調べることにしたんや。そしたら」

「出てきちゃったんだ、不正……」

「そや。しかも美織ちゃんにとってはうってつけのヤツが、な。ところで学園内にゲームショップが欲しいなんて無茶なことを言い出した美織ちゃんやけど、実はまったく勝算がなかったわけやない。その頃、ゲーム業界には、ある変わった流行が起きてたんや。会長はもちろん知っておられるやろうけど、司君も子供の頃からゲームにどっぷりやったろうから、分かるんとちゃう?」

 ご指名を受けて、司はうーんと考えを巡らせる。

 美織とは同じ歳、つまりは自分も小学一年生の頃に起きたゲームのブームと言えば……。

「あ、知育ゲーム」

「そう。いわゆる脳トレってヤツやなぁ」

 久乃はご名答とにっこり微笑んだ。

 それまでゲームは子供だけではなく大人も楽しめるエンタテイメントとして認識はされてはいたものの、世間一般的にはあくまでおもちゃと思われていた。

 それに「遊びながら勉強や脳を鍛えたり出来る」という新たな価値観を生み出し、普段ゲームをしないような人たちにまで一気にユーザー層を広めたのが、約十年前に起きた知育ゲームブームだ。

 簡単な計算問題や、漢字の読み書き、英会話、さらには各種資格の所得を目指す本格的なものまで、このブームを牽引した携帯ゲーム機においてはRPGやアクションといった人気ジャンルを圧倒するほどのタイトル数がわずか数年の間に次から次へと発売された。

「そこまでブームになると、教育の場で活用しようって考える学校も出てくるわなぁ。学園でも生徒たちにはまだナイショで導入が検討されていたんやけど……」

「だけど?」

 もったいぶる久乃に、皆が気持ち近寄って先を促す。

「それでも先生たちは、ゲーム機を学園に持ち込むというのは避けたかったんやろうなぁ。知育ゲームはええけど、普通のゲームも遊べてしまうやん? そやからこの件を担当してた教頭先生は携帯ゲーム機やなくて、タブレットとそれ専用に学園が発注して独自開発させた知育ソフトの導入を考えていたんや」

「はぁ。まぁ、そらそうだろうな」

 聞いてみれば当たり前な話に、レンがどこか気の抜けたような返事をする。

 皆も同じ気持ちだった。

 当時の久乃も、運営費の調査中にこういう計画が出ていることを知って「へぇ」とは思ったものの、先生の判断に何も問題を感じなかった。

 が。

「でも、美織ちゃんはその予算を見て、にやぁってわらった」

 あ、ちなみに「笑う」やないで口書いて山書いて虫を書く方の「嗤う」や、と久乃が宙に字を書いてみせる。

「美織ちゃんな、勉強の方はフツーなんやけど、こと商売に関しては頭の回転がめっちゃ速いんやぁ。この時も瞬時に計算して『わたしならこのよさんのじゅうぶんのいちいかにおさえることができる』って言い出してな」

 詳しく話を聞いてみると、学園の生徒と先生全員分の携帯ゲーム機と既存の知育ソフトの代金を計算して、計上されている予算とを見比べたらしかった。

「でも、当時のタブレットなんてまだまだ高かったんじゃないですか。それにそれ専用のソフトの開発まで発注したらかなりの値段になるのは当たり前では?」

「まぁなぁ。でも、そこまでしなくてもずっと安い値段で同じものを揃えることが出来るってのが美織ちゃんの主張でな。うちが止めるのを聞かずに、すぐに導入担任の教頭先生へ詰め寄った」

 そうして手に入れたタブレット導入とソフト開発の見積書。教頭先生は子供たちがそこまで調べるとは思ってもいなかったのであろうが、その考えは致命的に甘かった。

「美織ちゃんの会社の人にも手伝ってもらって調べた結果、タブレットもソフトの開発も法外な値段やった。どう考えてもこれは裏で余分な金が動いているとしか思えんかったから、生徒会の権限で緊急全校集会を開いて、この件についてみんなの前で教頭先生に問いただしたんや……小学一年生の美織ちゃんが」

 ちなみにその時の美織は何故か七五三の時に男の子が着るようなスーツに身を包んで、教頭先生の弁明に何度も「いぎ(異議)あり!」と指差したらしい。

「そこはワシの入れ知恵じゃな」

「マスター、なにやってるんですか!?」

「美織ちゃんも当時は元ネタを知らなくてやってたけど、あとで分かって大笑いしてましたわ」

「そうじゃろそうじゃろ」

 嬉しそうに笑う老人を、葵たちは「やっぱり美織ちゃんのお爺ちゃんだねぇ」と小声で苦笑しあった。

「まぁそれはともかく。美織ちゃんの厳しい追求に、ついに教頭先生はタブレット案を一時凍結し、携帯ゲーム機の導入案を条件付きで検討してもいいってみんなの前で言うたんやぁ」

「おおっー!」

「でも、その条件が厳しかった。これも司君なら分かるやろうけど、当時の、知育ゲームブームを担った携帯ゲーム機の状況って」

「ああっ、確かにすっごい品薄でしたね」

 司は当時のことを振り返る。

 その頃、例の携帯ゲーム機は知育ゲームのブームも手伝って空前の大ヒット商品になっていた。品切れは当たり前。予約を入れても一ヶ月待ちもざらだった。そんな状況が一年近く続いたのだから、どれだけの品薄だったかが分かるだろう。

 司も誕生日には品薄で買ってもらえなくて、結局クリスマスまで待つ羽目になった。

「教頭先生も『携帯ゲーム機の導入を断念したのはそれが一番の理由だ』なんて言うてな。生徒にゲームをやらせたくないって本音を上手く誤魔化しとったなぁ。さらに『導入は来年春の予定だが、その前に先生たちには教材として慣れてもらう必要がある。例のタブレットと独自開発ソフトのベータ版が来月には届くことになっているから、それよりも早く先生たちの分のゲーム機本体を用意し、一年以内に全生徒分も調達できる見込みが出来るのなら、計画をそちらに変更しよう』とか言ってきた」

「うわっ、汚ぇ! クズおやじだ!」

「そうやなぁ。当時の全校集会の反応もそんな感じやった」

 もっともお嬢様学校ゆえ「そんなの無茶ですわ」「横暴です」って感じの非難が多かったそうだが。

「ところが美織ちゃんがこれまた嗤うんよ」

 出来るはずがあるまいとばかりに胸を張る教頭先生に一歩も引かず、それどころか余裕綽々に「ちっちっち」と口元で人差し指を左右に動かして

「くらえ!」

 と美織が言い放つと、控えていた美織ちゃんの会社の人が一通の封筒を持って壇上に上がってきた。

 そして。

「せんせー、せんせーはいつもわたしたちにぐろーばるなしてん(視点)をもてっていうのに、どうしてじぶんたちはにほん(日本)しかみないんですかー?」

 確かにそのゲーム機は日本では大人気で、なかなか手に入らない。

 でも、世界ではどうなのか?

 確かに説明書とかは外国語だろうけれど、ちゃんと日本のソフトが日本語で動き、しかも国内よりも手に入りやすいのならば。

 だったら日本国内で苦労して集めるよりも、世界から取り寄せてしまえばいい。

「教頭先生、先ほどおっしゃっていた携帯ゲーム機ですが、来月と言わず今週中に全教員及び全生徒分がアメリカより届きます。また、ソフトの方も国内の問屋から同数を発注済み。こちらも来週には全部届くでしょう。なお、美織お嬢様が今お渡しになるのがその請求書となりますので、よろしくお願いいたします」

 壇上に上がった男性がビジネスの口上を述べる中、美織はその小さな背を偉そうにピンと伸ばしながら、教頭先生に近付いて「よろしくおねがいしますっ!」と元気な声で請求書を手渡した。

「おねだんはすっごくおべんきょうさせていただきましたっ!」

 教頭先生が慌てて「ちょ、ちょっと待ってくれ」とか「いや、そんな予算を急には」と必死に言い訳しようとするも、美織の思わぬ切り返しに沸き上がる全校生徒の声にかき消されてしまう。

 なによりタブレットが届く一ヶ月以内にゲーム機を用意できたらと条件を出したのは教頭先生自身だった。その条件をクリアされて文句を言っても、誰も聞く耳持たないだろう。

 してやられたと愕然とするしかない教頭先生に、美織はさらににっこりと笑って続ける。

「これからもいろいろとひつようなものがでてくるとおもいますが、せんせーたちはいそがしいでしょ? だからぜんぶわたしたちにまかせてくださいっ!」

 かくして校内に美織待望のゲーム購買部が誕生。

 当初は知育ゲームばかりであったが、そこはそれ、美織の巧妙な手口によって扱える商材を徐々に増やしていくのであった。

「まぁお嬢様学校ってのも良かったんやろうなぁ。ゲームにどっぷりって子もいなくて、いい感じの息抜きになったから先生もそのうち認めるようになったんやぁ」

 なお、ただひとり例外的に全身どっぷりゲームにハマった生徒がいたのは言うまでもない。

「余談ではあるが、この後しばらくしてから日本の店頭にもアメリカ版の本体がちょくちょく並ぶようになったんじゃが、これ全部美織のやったことの余波でなぁ。頼まれて手配をしたワシもまさかそこまでなるとは思っとらんかった」

「美織ちゃんパネェ!」

「ぱらいそでは仕入れは全部うちがやっとるけど、これも実を言うと、ゲーム購買部の時に美織ちゃんから無理矢理叩き込まれたものでなぁ。あの子、昔から無茶苦茶な手口で商品をかき集める天才やねん」

 そりゃあまぁ、あんな買取キャンペーンをやるぐらいですからねとみんなが呆れ顔の中、老人だけが「そうじゃろ、ワシの孫、凄いじゃろ」と嬉々としているのだった。



「さて、そろそろ本題に入るとするかの」

 時間は夜の十時を少し過ぎるあたり。そろそろ美織もみんなが出払っていることに気付く頃合だろうか? 否。きっと今も誰も一緒に『モンハン』をやってくれないことに文句を垂れつつ、仕方なくソロプレイでCPUのハンターたちを狩りまくることに夢中になっていることだろう。

 それでも遅い時間帯には違いない。老人の話も佳境に近付いていた。

「ここまでで何か質問ある人はおるかな?」

「はい。どうして美織ちゃんはこのタイミングでぱらいそにやってきたんですか?」

 だってそのお嬢様学校って高校までの一貫校なんでしょ、高校卒業してからでいいじゃんと葵は当然の疑問を投げかける。

「まぁ、ありていに言えば、ぱらいそがこのままでは店を閉めるしかないからじゃな」

 老人も本来ならば彼女が学園を卒業するまでは、なんとかぱらいその店長を勤めるつもりでいた。

 が、寄る年波は非情だ。

 二年ほど前からだろうか、体調に異変を感じ、お店に出ることが辛くなり始めた。

 そしてついには今年の春の訪れを前に、今後のことを考えて自ら最上階フロアから老人ホームへと移り、たまに店頭へ顔を出すことも出来なくなった。

「まぁ、もともとワシの道楽で始めたような店じゃし、儲けようとも思っとらん。多少赤字が続いたところで、何を今さらじゃ。でもなぁ」

 美織の話をしたり、聞いている時、老人はとても楽しげだった。

 が、今はその笑顔も消え失せてしまっている。

「ワシのお迎えが近いように、業界もひとつの時代が終わろうとしておるのだろう。ゲームを取り巻く環境が変わった。ネットが生まれ、別にゲームショップじゃなくても多くの愛好家たちとゲームの話で盛り上がれるし、家に居ながらソフトを購入出来るようにもなった。ついにはスマホさえあればゲーム機なんていらない時代になろうともしておる」

 世の中すべからく便利なほう、便利なほうへ。それは当たり前の流れであり、仕方のないことだ。

「かつてゲームショップは常に人で溢れかえっておった。ゲームの話に花を咲かせる連中、試遊台に群る子供たち、お目当てのゲームを買いに駆け込んでくる者……ワシの店もそうであったし、ずっとそうでありたいと思っておった。が、時が流れ、いまやゲームショップに足を運ばなくとも、快適なゲームライフを送れるようになっておる。華やかな祭りほど、終わった後は寂しいもの。でも、そんな感傷にいつまでも浸るわけにもいかんじゃろ」

 役目を終えたのなら、潔く立ち去るのみ。

 老人自身も体調を崩し、復帰の目途が立たないのもまた、店じまいの考えに拍車をかけた。

「じゃが、美織と、それにほれ、そこの司君がワシを思い留まらせたんじゃ」

 老人が嬉しそうに指差す司に、自然とみんなの注目が集まる。

「美織は皆も知っての通り、あの性格じゃからな。ワシがぱらいそを閉めようとしていることを知るなり、学園を中学卒業と同時に抜けて、代わりに私が店長をやると言い出しよった」

 もちろん、相当に揉めた。

 可愛い孫娘には弱い老人すらも、最初は反対側に回ったほどだ。

 それでも美織の熱意に絆され、どうしようか迷っているところへ司が例の相談を持ちかけてきた。

「ああ、これはまた今時珍しい相当なゲーム馬鹿と思ったもんじゃ。じゃがな、いくら時代が変わっても、そんな傍から見たら馬鹿げた熱意だけが未来を作るのは変わらん。そしてそれを応援するのが、ワシら去りゆく者の役割なんじゃ」

 加えて、老人は見てみたくなったのだ。

 美織や司が、ぱらいそを、黄昏の時代に入ったゲームショップをどう変えていくのかを。

「だからワシは美織や司君を応援することにしたんじゃ。もちろん、息子たちには猛反対されたがの。が、何も学びの場は学園だけではない。ぱらいその近くにも花翁高校というレベルの高い進学校がある。そこに美織を進学させたらええ。幸いにも久乃君も尽力してくれると約束してくれたしの」

 久乃は学園を卒業後、その仲の良さを見込まれて美織の家庭教師兼相談役を務めていた。

 お嬢様学校を卒業したと言っても、久乃自身はごく普通の家庭の生まれ。ただ他人より勉強が出来たから奨学生として学園に通っていただけにすぎない。当然卒業後は大学への進学を予定していた。が、名ばかりの名誉職とは言え、大企業の会長を務める老人たっての頼みである。上手くやれば将来的には重役秘書への抜擢もあるだろう。そしてなにより自分無き学園に美織の暴走にストップをかけられそうな人材も見当たらなかったことから、久乃は進学を諦めて申し出を引き受けたのだった。

 おかげで久乃がその職についてから、美織がテストで赤点を取ったことは一度もない。

 しかし。

「えっと、でも、美織ちゃん、花翁どころかどこの学校にも通ってないよ?」

「そうなんじゃよ、波津野君」

 あれっと首を傾げて質問する奈保に、老人は溜息をついて頷いた。

「美織め、直前の模試ではA判定が出るくらいまで勉強しておきながら、入試当日はサボりやがっての」

「ええっ!? なんで!?」

「美織ちゃん曰く『受験勉強は両親を騙すためのカモフラージュ。もともと進学するつもりなんてこれっぽっちもないわ! 学校に通いながら、ぱらいそを立て直す? そんな甘い考えじゃ無理よ無理! 私は絶対ぱらいそにかつての賑わいを取り戻すの! だから学校なんて無駄なところに行っている暇なんてないわっ!』だそうやぁ」

「……まぁ、あやつなりの覚悟のつもりなのかもしれんがなぁ」

 久乃は溜息をつき、老人は眉間に深い皺を寄せた。

 ちなみに老人は、美織が企画した中古ゲーム買取キャンペーンを知っている。

 無茶苦茶だが、確かに面白い企画だ。ゲーム好きなら楽しめるし、お店も盛り上がるだろう。

 でも、そのために美織が学校に通わないのは認めない、肉親として認められるものではなかった。

「すみません、うちがしっかりしていれば……」

「なに、久乃君のせいじゃない」

「でも、花翁高校への進学という条件で、美織ちゃんのご両親を納得させた会長の顔を潰してしまいました」

「こんなしみったれた顔なんぞ、幾ら潰してくれてもかまわんわ。それよりもじゃ」

 お嬢様学校ではないものの、レベルの高い花翁高校ならばとしぶしぶ頷いた美織の両親も、この裏切りはさすがに頭にきた。

 三日三晩眠ることなく続けられた双方の主張は一切の妥協点を見い出せず、結果

「もうお前なんて知らん! 出て行きなさい!」

「知らなくて結構! 言われなくても出て行くわよ!」

 と、まさに勘当された状態で美織はぱらいそへやってきた。

 そのとばっちりは美織の家庭教師だった久乃にも当然及んで即日解雇。本来なら久乃が責任を感じる必要は全くないのだが、美織ひとり社会の荒波に放り出すわけにもいかないので、ぱらいその経営を手伝うことにした。

 幸いにもぱらいその運営はここまでなんとかなってきている。

 が、美織とその両親との間に生まれた亀裂はいまだ全く修復の目途すら立っていなかった。

「当然じゃが、ワシはなんとかしたいと思っておる。しかし、なんせこの体じゃまともに動くこともできん。そこで司君たちの力を貸して欲しいのじゃ」

 老人が深々と頭を下げる。

「美織を、どうか花翁高校に進学させてやってくれ」


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