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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第六章:ひと狩り行こうぜ
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第五十一話:ゲームって面白いかも?

 美織は子供の頃からお爺ちゃん子だった。


 きっかけは単純。日頃から礼儀や習い事にうるさい両親に比べ、祖父はなんでも自由にやらせてくれたからだ。時々「お義父さんは美織に甘すぎます」なんてお母さんが文句を言うけれど、その度に「子供のうちから型に嵌めるような育て方をしてては、視野の狭い大人になってしまうぞい。大人になっても子供のような自由な発想が出来る人間こそ、これからの時代には求められるんじゃ」と一蹴してくれるのも頼もしかった。

 そして祖父への感情が、大好きから尊敬に移ったのは小学校に入った頃のことだ。

 一族の長である祖父の教育方針に両親はしぶしぶ従いながら、それでも「笠原家の長女として、最低限の教養は必要だ」と、美織は小学生から全寮制小中高一貫校のお嬢様学校へと入れられることになった。

 それまでは祖父の加護のもと、比較的自由な時間を過ごせていた美織だったが、寮生活ともなるとそうもいかない。入学して一ヶ月後のゴールデンウィークで里帰りしてきた頃には、すっかりまいってしまっていた。

 そんな美織を祖父は自分のお店、ぱらいそへと招く。

 祖父がゲームショップを経営しているのは知っていた。が、実際に訪れたことはない。幼い美織が一人で行ける距離にはなかったし、両親も連れて行ってはくれなかったからだ。

 加えて当時の美織は、ゲームがあまり好きではなかった。

 周りの友達が持っていたから、自分もサンタさんにお願いしてクリスマスプレゼントに流行の携帯ゲーム機を貰ったことがあったが、一通り遊んでみてもそんなに面白いとは思わなかった。

 画面とにらめっこするよりも、体や手足を動かすほうがずっと楽しい。

 それに基本的にひとりでプレイするゲームよりも、みんなでワイワイと遊ぶほうが美織は好きだった。

 ゲームショップを営む大好きなおじいちゃんをがっかりさせたくなくて、口には出さなかったけれども……。

 だから不自由な寮生活で元気のない自分を励まそうと祖父が遊びに連れ出してくれたのは嬉しかったけれど、その先があまり興味のないゲームショップだと分かった時は正直がっかりした。

 こんなところよりも遊園地に連れて行ってほしい。そう言いたかった。

 が、そんな心情を押し殺し、祖父に招かれるまま、ぱらいその扉を開いたその時。

 美織の、ゲームへの認識が変わった。

 今までゲームショップなんか入ったことがない。せいぜいデパートのおもちゃ売り場しか見たことがない美織にとって、ぱらいその光景はなにもかもが圧倒的だった。

 店内のありとあらゆる棚にずらりと並ぶゲームの山。

 店内のあちこちに設置されたモニターから流れる映像は、どれもまるで映画のよう。

 デパートのおもちゃ売り場には子供しかいないのに、ここには子供から大人まで幅広い年齢の人たちが集まっていて。

 そして。

「おおっと、ついにゲームの達人、我等がぱらいそ店長の登場だーっ!」

 店内でも一番混み入った場所、一台のモニターの前に群る人だかりの中で何故かマイクを持った若い人が、お店に入ってきた美織たちを見るなり叫んだ。

「ほっほっほ。皆、今日もやっておるのぅ」

 戸惑う美織の傍らで、祖父が嬉しそうに笑うと、そっと美織の背中を押して一団の元へと歩み寄る。

「さすが店長、グッドタイミングっす。ちょうど今、今日の大会優勝者が決まったところっすわ」

「ほう、そうかそうか。では、ひとつ、お手並み拝見といくかの」

 祖父がさらに一歩足を踏み出した途端、人だかりがざっと左右に割れて道が出来た。

 道といってもわずか一、二メートルほどの距離。しかし、そのわずかな距離も、美織からしてみれば進むのを怖気ついてしまうほど、あたりは異様な熱気に包まれている。

 にもかかわらず勇気を持って歩を進められたのは、傍らに立つ祖父が優しく背を押してくれたからだ。

 頭をきりっと上げて前を向く美織の先に、ひとりの女の人が立っていた。

「ほうほう、お嬢ちゃんが今回の優勝者かね」

「まぁ」

「見かけない顔じゃのぅ。この春にこちらにやってきた大学生かね?」

「ええ」

 無愛想な返答をしつつ「それよりもあなたが本当にゲームの達人なの?」とばかりに、細い眼をさらに細め、うさんくさそうに女の人は祖父を睨みつける。

「ほっほっほ、では早速お手並み拝見といくかの」

 祖父が女の人の傍らに置かれた、ゲームのコントローラを手にした。

「そうさせてもらうわ」とばかりに、女の人も祖父に倣う。

 さらに見知らぬ男の人がふたり、人だかりの中から歩み寄ってきたところで

「そうじゃ。すまんが中村君、今日は辞退してくれんか?」

 男の人のうちのひとり、お店のエプロンをした人に祖父が話しかけた。

「こいつをこの子にもやらせてみたいんじゃ」

 そして自分の頭をぽんぽんと叩かれた美織は、心底びっくりした。

「お、おじいちゃん! 私、このゲーム、やったことない……」

「なーに、簡単だから大丈夫じゃよ」

 このスティックで移動、このボタンで攻撃、こっちがジャンプでこれがガードなと説明されるも、美織は半ばパニックになって全然頭に入ってこない。それなのに「あとはまぁ実際にやってみて覚えるがいいじゃろ」と、文句を言うヒマもないままゲームがスタートしてしまった。

 美織を除く三人のプレイヤーが操るキャラが、ゲーム開始と同時に画面狭しと暴れ回る。火の玉が放たれ、ハンマーが嵐の如く振り回され、レーザー光線まで飛んでくる。

「ほれ、美織、ジャンプじゃ!」

 それを美織は祖父のアドバイスに従ってジャンプして躱したり、ガードしたりして致命傷を避けていく。反応が遅れて攻撃を喰らいそうになった時は、すかさず祖父の操るキャラが美織の前に立ち塞がって庇ってくれた。

「おじいちゃん! ……ご、ごめんなさい」

「なーに、いいんじゃよ。それよりそろそろ防御は覚えたじゃろ? だったら次は攻撃の番じゃ。ふたりで岡本君をやっつけるぞい」

 祖父の細マッチョキャラがレーザーを絶妙に躱しながら、岡本君とかいう男の人が操るSFチックなガンマンキャラめがけてダッシュする。

「くっ、僕をあんまり見くびらないでくださいよっ!」

 相手の動きを読んでいたのだろう、細マッチョがレーザーに火の玉をぶつけて生まれる派手な爆発エフェクトを隠れ蓑に、ダッシュからの鋭いジャンプで頭上を越えていくのをガンマンは見逃さなかった。素早く振り向くと、細マッチョが着地する瞬間のわずかな隙にレーザー光線を喰らわせる腹だ。

「今じゃ、美織! ダッシュ攻撃!」

 あらかじめ打ち合わせしていたわけでもない。

 それなのにまるで祖父の号令を待っていましたとばかりに、美織は自分の操るキャラを猛然とダッシュさせた。

 美織のお姫様キャラは攻撃力、防御力ともに全キャラ中最低クラスなものの、ダッシュスピードはピカイチ。さらに。

「しまった! ヤバい!」

 ガンマンは慌てて全方向バリアを緊急発動させるも、ダッシュ攻撃を仕掛けてくるお姫様とぶつかるやいなや、パリンという音と共にバリアが砕けてしまった。

 通称バリア破壊。お姫様キャラだけに搭載された、ある程度の距離をダッシュしてから放つ攻撃には、バリアを潰して敵をのけぞらせる効果がある。

「さすがはワシの孫じゃ! よし、美織、岡本君をボコるぞ」

 のけぞるガンマンに細マッチョがすかさずラッシュを喰らわせる。

 バリア破壊の反動で一瞬後ろにバックステップを強制されたお姫様も、着地するや再びダッシュで距離を詰め、ラッシュに加わる。

「ち、ちくしょー!!」

 前後からのラッシュに成す術もなく滅多打ちにされたガンマンが断末魔を上げ、画面に大写しになってステージから吹き飛ばされていった。

 今回は一ライフ制のバトルロワイヤルなので、これでガンマンは戦いからリタイアだ。

「やったよ、おじいちゃん! ……あ!」

 危ないと美織が声を発するまでもなく、祖父はすかさずバリアを展開させて突然の攻撃を見事に防いでみせた。

「まったく孫との初コンビネーションの感動に浸るヒマも与えず、リタイアエフェクトに紛れて不意打ちとはエグいことをするのぅ」

「……戦闘中。油断は禁物」

 ぼそりと祖父の隣りで女の人が呟くのと同時に、奇襲を仕掛けてきた仮面の大男キャラが巨大なハンマーをどしんと地面に降ろす。

「やれやれ、困ったヤツじゃ。……美織、ちょっと離れておいておくれ」

 言うやいなや祖父の雰囲気が変わるのを美織は敏感に感じ取った。

 これまではウォーミングアップ。ここからが本番なのだろう。

 でも。

 祖父はとても嬉しそうに笑っていた。

「では」

 女の人がすーと息を吸い込む。

「「いざ、勝負!」」

 ふたりのキャラが激しいエフェクトを撒き散らして、ぶつかり合い始めた。



 お互いに隙を伺いながらも小細工は一切無し。

 一方が押せば、片方が引きながら遠距離攻撃で迎撃し。

 片方が迎撃からの反撃に出れば、一方も無理をせずに後退しつつチャンスを待つ。

 お互いにダメージを蓄積しながらも決め手に欠ける一進一退の攻防に、美織は息を飲み込んで見入っていた。

 祖父がゲーム好きなのは知っていた。事業から突然引退し、ゲームショップ経営なんていう、それまで携わってきた仕事から考えたらずっと規模の小さい商いを始めたことからも、それは簡単に推測できた。

 だけど、自分のような孫がいる年齢の祖父が、こんなに激しく動き回るゲームをまるで手足を操るようにプレイするとは考えてもいなかった。

 ゲームにはあまり触れない美織でも分かる、祖父の熟練した動き。一体そこに至るまでどれだけの時間を費やしたのだろう。

 ふと、よくお母さんが零している愚痴を美織は思い出した。

 ――お義父さん、なんであんなくだらないものに夢中になっているのかしら。

 お母さんより祖父の方が好きな美織からすれば、あまり聞きたくない愚痴だったものの、これに関してはその通りだと思っていた。

 ゲームショップなんてものを細々と運営するよりも、本来の会社で大きな仕事をしてほしい。そしてもっと会社を大きくしてほしい。

 ずっとそう思っていた。

 でも、祖父が今見せる笑顔は、まるで子供のようで。

 自分に見せる微笑みとはまた違う種類の、純粋にやりたいことをやって楽しんでいるその笑顔に、美織は強烈に惹きつけられた。

 同時に、とある興味が湧き上がってくる。


 ――ゲームって本当はとても面白いのかも?


「嬢ちゃん、あんたなかなかやるのぅ」

「……お爺さんこそ強敵」

 祖父の言葉に、女の人が初めて表情を崩した。

 それもまた笑顔だった。

 美織は改めて彼女を観察する。

 表情、口数ともに乏しく、クールな感じのする人だった。幼いながら、それなりの大企業の娘として生きてきた美織は、この手の人間がどのような人種なのかを知っている。

 所謂、切れ者。物事を合理的に判断し、最良の手を常に選びとることが出来るタイプだ。

 だからそのような人が、これまたゲームに興じているのは意外だった。


 ――ゲームって自分が思っていたよりも、ずっとスゴイものなのかもしれない。


 そんな折だった。

「美織、さっきのをもう一度やるぞい」

 祖父が少し腰をかがめて、美織だけに聞こえるよう耳に囁いてきた。

 驚いたものの、美織はすぐにコントローラを握る手に力を入れて、画面を睨みつける。

 助けを求めに来たのは意外だったものの、それだけ相手が強敵なのだろう。

 ここまで来たら負けるよりも勝ちたい。ならば共同戦線は大いにアリだ。

「行くぞォォ!」

 祖父が咆えた。

 怒涛のラッシュ、と見せかけて相手の頭を飛び越そうと不意のジャンプを繰り出す。

 そしてその後ろから美織の操るお姫様が猛然とダッシュし始めたところで……。

「甘い」

 全てを見透かしていたかのように、女の人の操る仮面の大男もジャンプし、祖父の細マッチョを空中で迎撃した。

 どうやら彼女はそもそもこの戦いがタイマンだとはこれっぽっちも思っていなかったようだ。

 どちらかに頭上を越されては挟み撃ちにあう。それだけは避けねばと心がけていたからこその反応だった。

「おじいちゃん!」

「構わぬ。美織、突っ込んでくるんじゃ!」

 思惑が失敗に終わって動揺する美織に、しかし祖父は計画の続行を促す。

 突っ込めと言われても、このままでは攻撃が当たるのは仮面の大男ではなく、祖父の細マッチョ。ダッシュ攻撃はダメージも大きく、リタイアに追い込む可能性もある。

 仮にバリアを張っても、例のバリア破壊の特殊効果がある。その隙を相手が見逃してくれるとは到底思えない。

 一体どうするつもりなのか。

 祖父の考えが美織には分からなかった。

 それでも美織はダッシュを止めない。

 祖父が突っ込んで来いと言っているのだ。自分には思いつかないけれど、きっと何か策があるに違いない。

 だったら美織は祖父を信じるだけだった。

 ダッシュし続けるお姫様キャラがふたりに迫る。

 決着はもう目の前だった。



「なっ!?」

 美織が理解出来なかった祖父の作戦を、しかし、敵である女性には読めていた。

 今一度頭上を飛び越え、挟み撃ちにするには時間が足りない。

 それでもダッシュを止めないとなると、考えられることはただひとつ。

 ダッシュ攻撃が当たる直前にジャンプでかわし、本来の標的である自分に攻撃を当てるつもりだ。

 そうは行くかと女性もタイミングを見計らう。

 その場で垂直にジャンプしては、ダッシュ攻撃を躱せてもすぐに挟み撃ちにあう。だからジャンプの方向は斜め前方、目の前の敵の頭上を越すのが現状ではベストだ。

 かと言って相手よりも早く動きすぎると、さっき自分がやったように空中での迎撃にあう。

 となれば、ジャンプはほぼ同時。いや、むしろ老人よりも後にならなければならない。このゲームでは空中の攻防は後にジャンプした者に優先権がある。敵を空中で攻撃し、そのまま相手の後ろへと着地する。この窮地を脱するにはそれしかない。

 素早く判断すると、女性は冷静に相手の動きを見つめる。

 注目すべきは老人が操る細マッチョ……ではない。この百戦錬磨の強敵は一筋縄ではいかない。きっとこの刹那の時間にも色々と惑わすような動きをしてくるだろう。

 だが、そのパートナーとなる幼子はそうではない。初めてと言っていたが、その動きはなかなかのもの。孫らしいが、なるほど血は争えない。

 それでも女性から見れば、まだまだ甘いところがあった。

 ダッシュ攻撃のタイミングをわざとずらすなんてテクニックは使ってこないだろう。

 ならば彼女の攻撃を見極めて反応した方がやりやすい。

 自分を惑わしてくるであろう難敵より一瞬だけ遅くジャンプするのではなく、その背後から迫る素直な初心者のダッシュ攻撃をぎりぎりで躱す。結果はどちらも同じことだ。

 だから女性は本当にぎりぎりのタイミングで仮面の大男を宙へと飛翔させた。

 完璧な動きだった。

 それでも思わず驚きの声を出したのは、考えてもいなかった展開が待っていたから。

 自分より僅か先に跳び、攻撃を叩き込むはずだった細マッチョが、突っ込んできた姫様のダッシュ攻撃をモロに受けて画面の外へと吹き飛ばされていたからだった。



「な、なんでー!?」

「何やってるンすかーッ、店長―!?」

 思わぬ展開に戦いを見守っていたギャラリーが一斉にどよめいた。

 その場にいる誰もが、攻撃が当たる直前に祖父はジャンプで躱すのだろうと思っていたのだろう。

 それは美織だって同じだった。

 だから自分の攻撃が祖父に直撃し、画面の外へと弾き飛ばしてリタイアさせてしまった瞬間は頭の中が真っ白になった。

 一体何が起こったの?

 おじいちゃんが操作ミスをした?

 多くの人が当然抱くであろう疑問が、美織の脳裏にもよぎる。

 そしてほとんどの人が仮面の大男とのジャンプチキンレースに破れ、自滅したと結論付ける一方で、美織だけは尊敬する祖父の真の狙いを今度こそ正確に読み取った。

 祖父の細マッチョを吹き飛ばしたことによって、美織のお姫様は攻撃の反動を受ける。

 それをすかさずボタン連打でキャンセルし、間髪いれずレバーをそれまでとは逆方向に入れた。

 再びダッシュするお姫様。目指すはジャンプして降りてくる仮面の大男の背中だ。仮にバリアを展開しても、美織にはダッシュ攻撃によるバリア破壊がある!

(お爺ちゃんの仇を私が取るんだ!)

 空中から落ちてくる敵に、美織はダッシュ攻撃を打ち当てた。

 パリンとガードが破壊され、一瞬無防備状態に晒される大男。対して美織のお姫様もガード破壊の衝撃でわずかにバックステップ。

 互いに相手よりも早く次の一手に打って出ようとコントローラを操作……勝ったのは

「いけえええええええええ!」

 美織が咆哮をあげて、ラッシュを叩き込んだ。



 これを機に美織のゲーマーの血が目覚めた。

 この時のゴールデンウィークの五日間は、美織にとってはまさに天国ぱらいそのような日々だったと言う。日中はぱらいそでお客さんたちとゲームをし、夜は大好きな祖父とひたすら対戦した。

 特に祖父との対戦で得られた経験値はあたかもメタルス○イムばりで、美織はめきめきと実力を伸ばし、連休最終日には美織に勝てるお店の常連はほとんどいなくなるほどだった。

「おじいちゃん、ゲームって面白いね!」

「そうじゃろ、そうじゃろ」

「美織、大きくなったらお爺ちゃんのゲームショップで働きたい!」

「そうかそうか、美織なら大歓迎じゃ。待ってるぞい」

「ホント!?」

「勿論じゃ」

「じゃあ約束だよっ!」

「ああ、約束じゃ」



 幼い頃、誰もが将来なってみたいと思う憧れの職業があるだろう。

 男の子ならパイロット、警官、おもちゃ屋さん。

 女の子ならアイドル、幼稚園の先生、お花屋さん。

 美織のそれも、言うならば子供が抱く将来の夢に過ぎない。

 ただ世間と少しばかり違うのは、美織は子供の頃からやると言ったら絶対やり通してみせるほどの意志の強さを持っており。

 会社を一代で日本有数の大企業へと育て上げた祖父の、野心的な血を受け継いでいて。

 自分の夢の実現に向けて、何をやるべきなのかを真剣に考え、実行する行動力を持っていた。



「そやから美織ちゃん、それからしばらくして学園に『ゲーム購買部』なんてものを発足させたんや」

 懐かしそうに孫との想い出を語る老人の後を継いで、久乃が件のお嬢様学校では既に伝説となっている美織の英雄譚をさらに話し始めるのだった。

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