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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第五章:ハート、スイッチオン!
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第四十三話:ライフ・ア・ライブ!

「ふむ。なるほど」

「うん、なるほどなるほど」

「これはなんつーか……」

「パンチラじゃなくて、パンモロだね」

「まぁ、見られたのがお尻だったのが不幸中の幸いやなぁ」

 日が落ち、シャッターを閉めたぱらいそ。

 外から見えない位置に司をしゃがみこませ、それを取り囲んで観察するみんなの反応はさまざまだった。

 奈保はいつもと変わらず、何も考えていないような朗らかさで。

 久乃は苦笑しつつも、安堵した様子で。

 レンは平静を装いつつも「男のパンチラ姿を観察するってどーなんだ?」と疑問を抱きつつ……。

 そして。

「あ、あの……そろそろこのポーズを止めても」

「ダメよ! 今採寸してるんだから我慢しなさい」

「そうそう。あたしも参考資料をゲット中だしね」

 みんなが観察する中、問題のシーンを再現させられて涙目の司の訴えを却下して、腰から太腿にかけての採寸をする美織と、今後の同人活動に役立たせるからとデジカメのシャッターを押し捲る葵。

「ごめんなさい。ごめんなさい。これからホント気をつけます。だからもう勘弁してくださいよぅ」

 司は改めて自分のやらかしたことを後悔するのだった。



「ううっ。酷いめにあった……」

 美織たちの責め苦(?)からようやく解放された司が、精魂尽き果てたとばかりに床に尻餅をついた。

「ふふっ、災難やったなぁ。そやけど、ここ最近の司君はよく頑張ってくれたと思うとるよ」

 そんな司を思いやって、久乃がフォローを入れる。

 久乃は締めるところは締めるものの、基本的には相手の良いところを褒めて伸ばすモチベーターだ。だから今回も「正体を隠すのを忘れない」ことを前提で、これからもこの調子で頑張って欲しいと続けるつもりだった。

 が。

「あー、それなんだけど」

 久乃の言葉を遮る者がいた。

「司、あんた、頑張らなくていいから」

 美織だ。

「ちょ!? 美織ちゃん、一体なに言いだすん?」

 お店を運営する者としては従業員には頑張って働いてもらわなくてはならない。なのに頑張らなくていいとは、それはつまり……。

「やっぱり、僕、クビに……」

 司が縋りつくような目で美織を見上げる。

「うん、それよ!」

 対して美織は満面の笑みを浮かべて、あっさりと宣言した。

「そんなっ!?」

 突然のことに言葉を失う司。

 ただ、さすがにこの判断に納得出来ないのだろう、

「えー、美織ちゃん、いくらなんでもそれは横暴だよー」

「さっき確認して男だってバレてないって分かったじゃねーか。だったらクビにしなくてよくね?」

「なっちゃんも、司くんは悪くないと思うなー」

 司に代わって、葵たちが一斉に異議を訴えた。男性とは言えど、司は同じぱらいそで働く仲間。その仲間が不当な理由でクビになるのを黙って見守るわけには……。

「司クンが辞めたら、久乃さんが休んでる時にお店を回すの、あたしだけになっちゃうじゃん!」

「司がいないと九尾がオレにべったりでウザいんだよ」

「男の子がひとりぐらいいた方が、なっちゃん的にも仕事に張りが出るんだけどなー」

 ……うん、結構みんな自分勝手な理由での主張だった。

「まぁそれはともかく。うちも反対やでぇ、美織ちゃん。司君はよう働いてくれとるし、今やぱらいそには無くてはならない戦力や。今回のことで男の娘やってバレたんならともかく、そんなこともなさそうやし、クビにする理由がなにひとつあらへんやん?」

 それぞれの主張に苦笑しながらも、最後に久乃も司擁護の立場を宣告する。

 いくら美織が独裁者とは言えども、さすがにこうも周りから反対されたら考え直さなければならないだろう。

「はぁ、なに言ってんの、あんたたち?」

 しかし、さすがは美織。周りが何と言おうとお構いなしに自分の考えを貫き通す、反対意見なんてそんなの知るか、私は私の好きなようにやるんだ、文句があるならかかってこい返り討ちにしてくれるわ、それが晴笠美織という生き様……

「誰が司をクビにするって言ったのよ?」

 ……って、あれ?

「へ? いや、だって、さっき『うん、それよ!』ってにこやかな顔して言ったじゃん!」

「言ったわね」

「だから!」

「言ったけど、クビにすることに『それよ!』って言ったわけじゃないわよ。私が言ったのは、こいつの――」

 美織がびしっと効果音が聞こえてきそうな、あるいは漫画だったらここぞとばかりに集中線が引かれそうな鋭さで人差し指を突き出す。

「男どもの感情を擽り、なんか守ってあげたいって気持ちにさせる仕草や表情のことを言ったのよ!」

 自信満々に言い放つ美織の指差した先に、自然とみんなの注目が集まる。

 床にへたりこむ華奢な体つきの少女は、一見普通の女の子のように見える。が、先ほどまでうっすら涙を浮かべていた瞳を大きく見開き、「え? え?」と戸惑いを隠しきれない様子でみんなの顔を見上げると、やがてその頬をかぁと赤く染め上げて、「そ、そんなに見つめないで下さい……」ともじもじし始めるその子は、歴とした男の子なのだ。

 司の仕草に誰かが堪らず「くはぁ」と声をあげた。

「どうよ、この天然っぷり。レン、あんたにこんな仕草は出来る?」

「無茶言うなよ、こんなの恥ずかしくて出来るわけないだろ」

「奈保はどう?」

「なっちゃん、いつか司くんと戦わなきゃいけない時が来るような気がするよ」

「葵は……まぁ、聞くまでもないか」

「どういう意味だ!?」

 と、言いながらも葵もまた同感だった。

 司の素質の高さは以前から認めていたものの、その凄まじさをまざまざと見せ付けられたような気がした。

「まったく揃いも揃って勘違いするんだから……てゆーか、司、そもそもはあんたの勘違いが原因なんだからねっ。分かってんの?」

「だって、それは店長が」

「ちっがーう。ほら、やっぱり分かってない」

 美織が突き出した指を一度握り込むと、司のおでこめがけてピンッと弾いてみせた。

「いたっ!」

「私が言ってんのは、あんたがアイドルを勘違いしてるってことよ。アイドルの本質ってーか、その凄さの理由をちゃんと理解してたら、今回みたいなことは起こらなかった。なのにあんたときたら……自分が女の子の格好をしていることすら忘れるぐらい頑張りすぎるなんて、勘違いも度が過ぎるわよっ」

 美織が一気にまくしたてる。

 が、当の本人である司は、でこぴんの鈍い痛みのせいか、今回もイマイチ美織の言っている意味が分からなかった。

 ライバル店のアイドルに負けるものかと接客面に力を入れたのは、確かにその通りだ。

 それでずっと気をつけていたパンチラをやらかしたのも、まったくもって仰る通り。

 だけど分からないのは、それを美織は「アイドルを勘違い」したのが原因だと言っていることだ。

 勘違い、アイドルの本質……一体どういう事だろう?

「……その顔、あんた、いまだに自分の勘違いに気付けてないみたいね?」

 根が正直な司だ。どうやら顔に気持ちが出ていたらしい。

 美織が怒り半分呆れ半分の様子で見下ろしてくる。どうしようかと少し迷ったものの、司は素直にこくんと頷いた。

「あんた、私がアイドルってのはどういうものだって言ったか、覚えてる?」

「えーと、たしか『人を惹きつける』とか、なんとか」

「そうよ。アイドルってのは人を魅了するのが仕事。ってことは逆に言うと、人にそっぽ向かれたらおしまいなのよ。だからあの子たちは自分に求められるアイドル像を懸命に演じるの」

「演じる、ですか?」

「まぁ一概にそうとは言えないかもしれないけれど、仕事だもん、本当はやりたくないことだってあるでしょうよ。それでもアイドルってのはそんな素振りをちらりとも見せず、にこやかにやってみせる。それが自分に求められる姿だって知ってるから。そこで司、お客様があんたに求める姿ってのは何?」

「僕に求められる姿……それは、あの、さっき店長が仰ったような……」

「うん。でも、根本的なところはもっと単純。連中はあんたが可愛い女の子だって信じてるの」

「あっ!」

「ふん、その様子だとようやく分かったみたいね。そう、あんたはとにかく接客で頑張ろうとしてたけど、それで正体がみんなにバレたら、全部おじゃんになるところだったのよ。せっかくあんたを気にいってお店に来てくれる人たちだっているって言うのに、その信頼を裏切るところだったの」

 だったら変に頑張らないほうがずっといい、違う? と続ける美織の言葉はやはり極端な話だと思う。

 でも、司は反論出来なかった。

 今さらながら自分のやってしまったこと、その危うさを思い知る。

「前から言おうとは思ってたけど、あんたはきっと正体を隠し、お客様を騙していることに罪悪感を持ってる。その罪悪感を忘れる意味でも、女装していることを自覚できなくなるぐらい仕事に打ち込むのはさぞかし都合がよかったことでしょう。でもね、あんたに必要なのはそれじゃない。あんたが持つべきものは、罪の意識を抱えても決して表に見せない覚悟よ。あんたは女装してみんなを騙してまでこの店で働くことを決めた。だったらあんたはその嘘を絶対突き通さなきゃいけないの。アイドルがどんなに嫌なことがあってもファンに笑顔を見せるように、あんたはぱらいそで働いている時はカンペキに女の子として振る舞わなきゃいけないのよ!」

 美織にしては珍しい、ぐうの音も出ないほどの正論だった。

「でもね、あんたがそんな簡単に割り切れるような性格だとも私は思っちゃいないの。だから」

 美織がいつものようにニヤリと笑った。

「ぱらいそ夏の大イベントはそんなあんたの弱点をも克服できるものを用意してあげたわ!」

「……え?」

 どうしてこの流れで夏のイベントの話に?

 てか、まだ諦めてなかったの?

 皆が呆気に取られる中、美織はいつものようにふふんと胸を張って宣言したのだった。


「あんたたち、ライブをするわよっ!」

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