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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第四章:私より強いヤツが会いに来る!? 後編
33/87

第三十一話:〇〇は逃げ出したっ!?

 翌日から司たちは『買取倍増キャンペーン一時中止』の説明に追われることとなった。

 と言っても、円藤とのやりとりを明らかにするわけにもいかない。あちらにも世間体ってものがある。

 だからリターンマッチに向けて特訓中のため、キャンペーンは一時中止とした。

 おかげでキャンペーン目当てのお客様から「説明しろやゴラァ!」と凄まれたり……はしなかった。だが、多くの人が美織の敗北に驚き、その試合内容と美織の特訓について司たちを質問攻めにしたのだった。

「そりゃーもう凄い戦いだったよ。互いに攻撃する度に雷鳴が轟き、稲光が走り、地面は裂け、天は落ちんばかりの騒ぎでさー」

 葵が興奮して話す。

「だけど二人とも一歩も引かないの。ありゃ意地というよりも、まるで殴りあうことで会話するような感じだね。ほら、某地上最強の親子喧嘩漫画みたいな感じで」

 にわかに美織とレンが鬼の貌を持つ親子になった。やめれ。

「けれど勝敗は既に決していたの。そう、ふたりがキャラが選んだ時点でね」

 戦いは互角であろうとも、レンの操る重量キャラに、美織の軽量キャラが徐々に追い込まれる様子を葵は「ふふっ、僕から逃げられると思っているのですか?」「くっ」「ほら、体は正直ですよ。そろそろ心も僕のものになりなさい」と何故かBLに喩えて説明する。

「そしてついにステージの端に追い詰められた美織ちゃん、ここで相手は必殺技を出してくるんだけど……さて、何を出してきたと思う?」

 そりゃあ直前の流れからすると、必殺・壁ドンだろう。

 実際とはまるで違うけど。

「ぶー、残念。答えは美織ちゃんのキャラをむんずと掴んで投げまわし、最後には強烈にステージのオブジェに叩きつけると言う……」

 あ、なんだ、そこはまともな説明なんだ?

「これぞ祖父・○馬勇○郎の必殺技・ドレぶへっ!」

 まさかの筋肉ファンタジー漫画ネタへの回帰に、危険性を感じた司が思わず葵の頭をはたくのだった。

 葵の説明は終始こんな感じで、その度に司が「ええっと、その、カウンターブロック(CB)合戦になって……」とか「重量キャラのCBキャンセル攻撃は軽量相手だと一歩押し込めるから」とか「ステージの端だとCBからの超必殺技が確定で……」と説明する羽目になった。

 しかも説明すればするほど「おおっ、つかさちゃんも格ゲーするんだ? だったらちょっとお手合わせお願いしたいなー」なんて言ってくる男性客が湧いて出てきて、司は大いに戸惑った。

 おまけに一度どうしても断わりきれなくて対戦してみたら、俺も俺もと対戦者が列をなしてきた。試遊台での立ったままのプレイだったから、後ろに立たれるとどうしてもお尻の辺りが気になる。スカートの中を覗きこまれているんじゃないかと心配になるものの、かといっていつもみたいに片手でスカートを押さえる訳にもいかず、困ってしまった。

 加えてそれほど上手くない司に「この場合はこう対処した方がいい」と、ここぞとばかりに手取り足取りで教えようとするヤツまでいるし。

 ……まぁ、九尾なんだけど。

「で、その店長は今、どんな感じなの?」

 そして困るといえば、この質問もまた司たちを悩ませた。

 あれほど勝利を重ねてきた美織が負けた上に、リベンジの為にお店を休んでいるのだ。さぞかし凄い特訓をしているのだろうとか、どんな戦略でくるのかと皆が知りたがった。

 が、司たちこそ、それは知りたいところだったりする。

 敗戦の翌日、美織は休みを取って「ちょっと出かけてくる」と久乃を連れ立って、どっかに行ってしまった。夜になってようやく何やら大きな紙袋を持ってウキウキしている美織と、げっそりとした表情を浮かべる久乃が帰ってきたが、「んじゃリターンマッチに向けての対策を練るから、邪魔しないよーに」と言って、美織は自分の部屋へ閉じ篭ってしまったのだ。

 かくしてその日からずっとお店にどころか、お風呂や食事といった最低限の事以外は部屋から出てこない。首尾を聞こうにも「まぁ大丈夫よ」と言うだけで、あとはお店の日報を見ながら「やっぱりキャンペーンを中止すると結構買取が落ちるのね」やら「新作の予約状況を教えてちょうだい」やら「あ、このゲームの買取来たんだ? 私が買うから取り置きしておいて」と、試合そのものへの話を完全にシャットアウトしてしまっていた。

 だから「どんな感じなの?」と言われても「知らない」としか答えられないのだけれど。

「絶好調だよ。もし負けたら脱ぐとか言ってるし!」

 あわわと困り顔の司の代わりに葵がテキトーなことを言って、変に盛り上げるのだった。

 後でバレて酷いめにあわなきゃいいんだけど。



 そして迎えた決戦当日。

 開店直後にも関わらず、ぱらいそには世紀の一戦を見ようと、多くの人が駆けつけていた。

 家庭用に移植されていない『スト4』なだけに、決戦の舞台はぱらいそではない。それでもぱらいそに集まったのは、単に誰もどこで戦うか知らなかったからだ。

 おまけに店頭に張り出された、美織とレンが格ゲー風テイストにイラスト化されてにらみ合っているポスター(画:葵)にも「場所:知んない。とりあえずぱらいそに集合!」と書かれてあった。

「で、これだけ人を集めておいて、肝心要の店長さんはどうしたんだよ?」

 集まった野次馬に苛立ち、店頭のポスターに唖然として、それでも何も言わずに我慢していた円藤だったが、出迎えるぱらいそスタッフに美織の姿が見えないことにはさすがの我慢も限界だった。

「まぁまぁ、そんなに急がなくてもいいじゃないですか、おにーさん。あ、アメちゃん、舐めます?」

 普段は影が薄いものの、こういう時に年長者はやはり頼りになる。思わぬ事態への問い詰めにどう答えていいものかと困る司たちを尻目に、奈保がお気楽な笑顔で対応した。

「悪ぃな、ねぇちゃん、こちらもヒマな身じゃねぇんだ。早く店長を呼んで来てくんねぇか?」

 円藤なら鼻の下を伸ばして奈保の誘惑に絡め取られそうなものだが、頑なな態度に変わりはない。こう見えて大型複合店の店長なのだ。言葉通り、ヒマな時間などない身分なのだろう。要求はただひとつ「早く対戦させろ」だけだった。

 そして司たちだって、出来ることならば早く対戦を実現させたい。先日は不覚を取ったものの、あの美織が連敗するなんて考えてもいなかった。しかも美織は一週間お店をほったらかしにして対策を練っていたのだ。戦ったら絶対に美織が勝つ。そう信じている。

 ただ、信じてはいるのだが、問題は……

「えーと、それがねー、ちょっと用事があるからって、店長は昨夜からどっかに出かけているんですよー」

 あははーと奈保が言った。

 司と葵がどう誤魔化そうかと悩んでいる事案を、何の改竄もなく、そのまんま言ってしまった。


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