第二十四話:お店の中の100の問題点
縁と言うのは不思議なもので。
司の配ったチラシがきっかけで、ぱらいその常連となった九尾は。
司たちの高校生活初日の登校中に声を掛けてきた九尾で。
そして今や司や葵たちと同じクラスに名を連ねる九尾にもなった。
おまけに出席番号による席順で司のすぐ後ろ、葵の斜め後ろに陣取り、
「いやぁ、改めてよろしくなっ!」
満面の笑みを浮かべる九尾に、ここまで来たらそのうちぱらいそで一緒に働くことになるのかもと司は一瞬思ったものの、女装している姿を想像すると気持ちが悪くなったので考えないことにした。
それは葵も同じだったのだろう。嫌な想像を振り払うように頭を軽く揺すると、先生が来るまでの間、せっかくだからとぱらいそについてどんな印象を持っているのかを九尾に尋ねる。
すると。
「店長はそりゃーもうあの強さが魅力だよな。絶対倒してやるから首を洗ってまっていやがれ」
強く拳を握り締める九尾。
「久乃さんはスゲェよなぁ。どんなに忙しくてもニコニコしながらテキパキ仕事してるもんなぁ。トロい関西弁からは想像もできねぇ」
尊敬の眼差しを浮かべる九尾。
「なっちゃんさんみたいなエロいおねぇさんも俺、大好きだぜ。わざと転びそうになって、あの胸に飛び込んでもきっと笑って許してくれそうだしな!」
鼻の下を伸ばす九尾。
「葵ちゃんは……ああ、一度訊いてみたかったんだけど、やっぱりアレ穿いてなぐはぁ」
頭を掻きながら葵の印象をようやくひねり出した九尾……の顔面に葵のぐーぱんちが飛んだ。
「まったく、どうしてどいつもこいつも男の子はエロいことしか考えないのかね。ホントしょーもない!」
ぐおおおおと悶絶する九尾だけでなく、慌てて介抱する司にも葵は冷たい視線を寄越す。とんだとばっちりだった。
「ったく、痛ってぇなぁ。いきなり拳が飛ぶって、お前は鬼軍曹か何かか? ちっとはつかさちゃんを見習えってんだ」
「……つかさちゃんを見習えってどういうことさ?」
「そりゃーおめー、俺のマイ・エンジェル・つかさちゃんはこんな乱暴なことはしねえってことよ。仮に同じ質問をしても、きっと顔を赤らめてもじもじしながら『あ、あの、このことは誰にも話さないでくださいね』って言いながらスカートをぐぼがぼぇ」
葵と司のダブルぐーぱんちが九尾の顔にのめりこんだ。
「ひ、ひでぇよ、香住。葵ちゃんはともかく、なんでお前まで俺を攻撃するんだ?」
「ご、ごめん、つい」
「つい? あ、そうか、香住もつかさちゃんのファンなんだな? つかさちゃんはそんなえっちぃことはしないっていう抗議なんだな。なるほどなるほど」
勝手に納得された。
てか、トンデモナイ妄想を聞かされて思わず手が出ただけの司だったが、おかげで毎回穿いてないと勘違いされる葵の気持ちがちょっとだけ分かったかもしれない。
「よし、せっかく同じクラスにもなったことだし、これも何かの縁だ。香住にこれを見せてやろう」
九尾ががさごそと自分の鞄をまさぐり始める。何を取り出すのかと思えば、なんてことはないただのスマホ。どうして鞄の奥深くに入っているのかは疑問だったけれど、そんなのは突き出されたディスプレイを見て吹き飛んでしまった。
「じゃーん、どうだ、この画像。俺のマイ・スイート・ハニー・エンジェル・つかさちゃんの魅力がてんこ盛りだろうが!」
ディスプレイにはぱらいその制服に身を包んだ司が、恥ずかしそうにおしりのスカートを片手で押さえながら棚の高いところに商品を並べている姿が映し出されていた。
「おー、さすがはつかさちゃん、無駄に女子力が高いねー」
「没収! こんなのは没収します!」
葵がニマニマとヤらしい笑いを浮かべる中、司は九尾からスマホを奪い取ろうとする。
が、九尾はすかさずスマホを引っ込めると、司の手が届かないように胸のポケットにしまった。
「ちっちっち。香住、気持ちは分かるが、このお宝映像を手に入れるには結構苦労したんだぜ? そう簡単に渡すわけにはいかないな」
「苦労って、これって盗撮じゃないかっ!? 犯罪だよっ!」
なんせあんな格好で仕事をしているぱらいそである。店内での撮影は禁止にしているものの、危険性は常にあるので司は気をつけているつもりだった。
それなのにどうして……と思っていたら。
「ふふん、実は盗撮じゃないんだな、これ。ちゃんとオフィシャルなものなんだぞ」
「オフィシャル?」
「おう。だってこの画像データ、店長から五百円で買ったものだし!」
「「なん……だって……?」」
司と葵の声がハモった。
この日の夜、司たちが美織の隠れた商売に言及し、久乃の一言で廃業に追い込んだのは言うまでもない。
「てかさー、さっきから店員の話ばっかじゃん。もっとお店そのものへの感想はないのかね、エロ少年?」
「誰がエロ少年だっ」
九尾がツッコミを入れながらも、そうだなぁと頭を捻る。
買取金額倍増を賭けたゲーム対決は、もともと美織をライバル視している九尾には大満足なイベントだと言う。
美織の強さに結構諦めている人も多いのではと思っていたけれど、実際はむしろ誰が最初に金星を上げるかで盛り上がっているそうだ。加えてゲーム対決時以外でも、試遊台が解放されていてゲームを遊べたり、ヒマな美織が相手してくれるのも嬉しいと言ってくれた。
ただ、美織とのゲーム対決を楽しみにしている九尾や仲間のゲーマーはともかく、中には倍増キャンペーンには参加せずにゲームをとっとと売り払いたい人もいるわけで。
「そんな奴らが『ここの店員、手際が悪い』って言っているのを聞いたことがあるぞ」
耳に痛いご意見だった。
事実、多い時はキャンペーンに参加する人・参加しない人が入り乱れて、十件以上の買取が立て込むことがある。こうなると久乃の的確な指示がないと、司や葵ではてんやわんやだ。
買取とひとことで言っても、全てのお客様が同じような商品を同じ数だけ持ってくるわけじゃない。ゲームソフトやゲーム機本体、さらには周辺機器……大量に持ってくる人もいれば、一本だけって人もいる。立て込んでいても、一本だけの持ち込みの人を長時間待たせるわけにもいかない。そんなお客様はすぐに対応したいところだけど、すると早い順番で大量に持ってこられたお客様の査定が遅れるわけで、なかなか難しい。
ましてやキズの有無、内容物の確認、ものによっては動作確認も必要だ。どうしてもこのあたりは実戦経験が影響してくるので、まだまだ場数を踏んでいないぱらいそスタッフには厳しいものがあった。
「まぁ、俺は『メイドさんたちが頑張ってくれてるだろう。文句言わずに待ってろや』って言いたいけどな!」
九尾はそう言ってくれるけれど、それは甘えでしかないことを司たちは分かっている。自分たちが成長して、もっと手際良く捌けるようにならないといけない。
ただ、
「でもよぉ、そもそもぱらいそって人足りてなくね? てか、店長も学生だろう? なっちゃんさんも大学生みたいだし、学校が始まったら久乃さん一人で昼は回すのかよ?」
結局はそこに行きつくのだった。




