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ぱらいそ~戦うゲームショップ!~  作者: タカテン
第三章:私より強いヤツが会いに来る!? 前編
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第二十三話:百万回やられても懲りない男、登場

「おー、そこ行くあんた、ぱらいその人じゃん!」

 葵と歩きながら話していると、突然声をかけられて司はビクっとした。

「その制服を着てるってことは、あんたも花翁学園なんだ? おおう、これはテンション上がるぜ!」

 司と同じ制服を来た男がずいずいと近づいてくる。

 髪を短く刈り上げた、細身の男だった。純粋な笑顔の中でも一際目立つ、人懐っこそうな瞳にどこか見覚えがある。けれど今はそれどころではなかった。

(いきなりバレちゃった!?)

 心臓が激しく脈打つ。そのくせ頭からはサーと血の気が引くのが分かった。

 どうしよう、どうしよう。どうやったら上手く誤魔化せられるだろうと考えるものの、あまりの突然のことに頭の中は完全に真っ白になった。

 その司の横を、男はあっさりと通り抜ける。

「……あれ?」

 そして戸惑う司をよそに、葵の両手を取ってぶんぶんと上下に振り出した。

「今さら自己紹介する必要もないかもしれないが、オレは九尾健太くお・けんた。よろしくな!」



 よくよく考えれば葵も一緒にいたのだ。その状況で「ぱらいその人」と呼ばれれば、普通は葵のことだろう。身バレを警戒するあまり、ちょっと自意識過剰になっていたのかも。結構恥ずかしかった。

「おお、おおう。え、えーと?」

 とりあえず司の危機は去った。が、次は葵の番だった。

 突然見知らぬ男の子に手を取られて挨拶をされたのものの、どうにも見覚えが無い。相手の様子から相当ぱらいそに通い詰めているみたいだけど「こんな人いたっけ?」ってのが正直なところだ。

「つ、司くーん」

 戸惑いながら、司に助けを求める。

 ところが反応したのは司ではなく、九尾と自己紹介した男の方だった。

「つかさ……?」

 葵の言葉に、突然男が手を離した。

 ぎぎぎと金属が軋む音が聞こえるような動きで、男は司に視線を向ける。

「……って、なんだ、男か。びっくりしたー。つかさって言うから、思わずマイ・エンジェル・つかさちゃんかと思っちまったぜ!」

 緊張が解けたように、男がほっと一息つく。

「マイ・エンジェルって……」

 反面、司はどうしてもその言葉に反応せざるをえない。

「お、なんだ、お前? 顔、真っ赤だぞ」

「あ、えーと、その……」

「ん? ああ、よく見たら、お前、ぱらいその店長に無謀にも挑戦し続けていたヤツじゃねーか」

「う、うん」

「最近姿を見ねぇけど、さすがに諦めたのか? まぁなぁ、こう言っちゃ悪いけど、お前じゃあの店長にはどれだけやっても勝てねぇよ。そもそもレベルが違うんだわ。やっぱりアイツの相手はこのオレ様」

 男が学生服のポケットから迷彩柄の布を取り出し、頭を覆い隠すように巻きつける。

「疾風怒濤のナインテール様じゃねーとな!」

「ああっ!」

 葵が男を指差して叫んだ。

 見慣れた姿になってくれて、ようやく男が誰なのか分かったのだ。

「美織ちゃんにカモにされてる人!」

「カモじゃねーよ! ライバルだよ!」

「でも、まだ一回も勝ててないじゃん」

「ぐっ、そ、それはまだオレが本当の力を……」

「ちなみに美織ちゃん、まだ全然本気出してないって言ってたよ?」

「な……オ、オレだってあと二回変身を残している。この意味が分かるな?」

「うん。全然分からない」

「だあああああ、こいつキライだあああああああ!」

 九尾が司に詰め寄って、葵になんか言ってやってくれとばかりに訴えてくる。

 やれやれ、だった。



「えーと、葵さんは知らないと思うけど、この人、以前に店長といい勝負したことがあるんだよ。『スト3』(ストレングス・ファイター3)で」

 司は当時のことを葵に話す。

 そう、美織が天使の息吹エンジェル・ブレスで大逆転を収めた相手が、このバンダナ男の九尾だった。

「へぇ……でも」

 それって美織ちゃんの演出じゃんと口に出しそうになるのを、司が「ダメ! お客様を大事に!」と目で合図する。

 葵とて、司の意図することも分からなくもない。

 実のところ、葵が九尾に冷たくあたるのは、彼の言葉にかちんときたからだった。

 どれだけ自分の腕に自信があるのかは知らないけど、だからと言って司を馬鹿にしていいわけじゃない。確かに司では美織には勝てないけれど、実は九尾だって同じだってことを知らしめてやりたかったのだ。

 ……でも、まぁ。

 司の目を見ていると、ちょっと落ち着いてきた。自分のことを馬鹿にされても、相手への気遣いが出来る……そんな司の弱腰でもあり、優しさでもある性格を葵は嫌いにはなれなかった。

 だからぽりぽりと頬を掻くと、しょうがないと葵は終戦宣言を口にする。

「あたしそれ見てないからなぁ。今度見せてよ、美織ちゃんに勝つところ」

「お? お、おう! 任せとけって。絶対勝ってみせるからよっ!」

 九尾がぱあぁぁぁと破顔させて、胸をどんと叩いた。

 実に分かりやすい男だった。

「あ、でも、別にあんたに勝つところを見せたいわけじゃないからなっ! 勘違いするんじゃねーぞ」

「男のくせにツンデレっ!? うわっ、キモッ!」

「違うわっ! 俺はマイ・エンジェル・つかさちゃん一筋なんだよっ!」

 キモッ!

 司は心の中で思わず叫んでいた。

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